第9話

 「おめでとうございます!

  只今よりクラン『アイドルプロジェクト』クランマスターのコゼットさんはグランドマスターへと昇格致しました!」


 ギルドの扉を開けると、いきなり受付の人からそう言われ、他の冒険者達からも拍手で迎え入れて貰えた……。


 あれから第五階層の階層主を倒したとギルドへ報告した後、ギルドから階層主が本当に倒されているのかの確認依頼が出され、今日その確認が終わったと言う事でギルドへ来てみればこれだ。


 なんでちょっとサプラインズ感を出して来たのか分からないけど、称賛の声は単純に嬉しい。


 僕がグランドマスターに昇格した他、テレサはマスタークラス、アイリスとセシリアはダイアモンドクラスへと昇格。

 あっという間にグランドマスターになってしまったけど、それも当然と言えば当然か。

 誰も倒せなかった第五階層の階層主を倒したんだから、順当な評価だと言える。

 

 テレサの提案で、今日集まった冒険者達全員に酒を振る舞う宴会を開いた。

 途中から街の人も参加して来たので、アイリスとセシリアのお披露目と称してライブもする。


 どんどん人も集まって来てしまって、ちょっとしたお祭り状態になってしまったけど、凄く楽しめた。 

 

 その後は、日課通りの毎日を過ごし、三か月程でクランハウスも完成した。

 しかし、順風満帆じゅんぷうまんぱんだった生活に、異変が起こる。


 「主殿……誠に申し訳ない」

 「ライズ、お前が謝る通りは無い。

  それに、思ったよりもずっと早いけど、予想の範疇だから心配しないで」


 「この状況が予想通り?

  誠なのか?」 

 「アイリスとセシリアが活躍してるんだから、元ジール獣王国の難民が訪ねてくるんだろうとは思っていたよ」


 「それにしても、すごい数だね、何人くらい居るの?」

 「4000人だ」


 4000人か……。

 流石にこんな数は受け入れる事は出来ない。

 かといって、無下に扱う訳にもいかない。


 なら、話は簡単だ。

 戦争に勝ったスリンク王国に責任を取って貰おう。

 ついでにしばらくスリンク王国に滞在して、ライブを続ければ国民の支持をある程度得られると思うし、仮に断られたとしても僕の声はそのうち無視できなくなる。


 まぁ、そんなに上手くいく保証もないし、最悪僕が難民を受け入れて、徐々に他の街に移住してもらうなりしてやりくりしよう。

 

 僕はライズに安く、日持ちする食料を出来るだけ多く買い占める様に指示し、難民達にはとりあえず、小屋を作って大人しくしている様にお願いした。

 人族である僕の言う事に反発はしていたけど、アイリスがお願いすると皆大人しく言う事を聞いてくれた。


 開拓地をテレサに任せ、僕はアイリス、セシリア、ライズを連れてスリンク王国へと旅立つ。


 スリンク王国へは一番早い馬車を使い、二日で辿り着いた。

 おいて来たテレサの事が心配だけど、ライズを打ち負かしたテレサならきっと問題ないだろう。


 正式な手続きなんて分からないので、とりあえず城門まで行き、衛兵に王への謁見を申し出た。


 ライズ達もいるし、当然ながら門前払いなわけだけど……。

 一応グランドマスターなのだと言う事を伝えると、一度冒険者ギルドに確認すると言われ、明日また来る様にと伝えられた。


 さて、少し時間を持て余してしまうな。

 スリンク王国の街並みはダンジョンの街フェルベールと大差はない。

 

 いきなりステージを召喚してライブなんてしたら怒られるだろうし、ライズ達がいるせいで、凄く街の人に警戒されている。

 

 ライズも少し殺気立っているみたいだし、あまり動き回らない方が良さそうだ。

 なので、近くにあった宿を取る。


 最悪の事態も考えて全員同室だ。

 ライズはお姫様二人と同室なんてとんでもないと言っていたけど、ライズが一番危なっかしいので強制的に同室にした。


 ライズ達引き連れて行くのは面倒なので、三人にはこの部屋で待機する事を命じた。

 三人共素直に従うと返答したけど、一応念の為だ。

 上手くいけば王妃を奪還出来るとも伝え、僕は部屋を出た。


 一人で居るのは久しぶりだな。

 とりあえず、この国の冒険者ギルドに挨拶に行く。


 グランドマスターが訪れたと言う事で少し騒ぎになってしまったけど、特に得られる情報もなければ、興味をそそられる依頼も無かった。

 ただ、ギルドマスターが是非会って見たいと受付を通して伝えてきたので、会ってみる事にする。


 受付の人に案内され、奥の部屋へ通されると、大きな椅子に腰かけた高齢者の男性が居る。


 「ああ、どうぞ掛けて下さい。

  私はギルド長をやってるカライと申します、以後お見知りおきを」

 「コゼットです、宜しくお願いします」

 

 「お話は聞いております。

  王へ謁見するのでしょう」

 「ん? 衛兵にそれを伝えたのはついさっきの事ですが……?」


 「この国の宰相殿は仕事が速いですからな」


 カライさんはホッホッホと笑っているけど、尋常じゃない早さだぞ?

 宰相は確か、ジャマルと言う名前だったな。

 ライズの話しでかなりのやり手だと言うイメージがあったし、流石と言った所か……。

 

 「それで、僕はギルドへ挨拶をしに来ただけなのですが、ギルド長から何かお話したい事があるんですか?」

 「ああ、そうじゃった……。

  実は、アイドルプロジェクトのお話はこの国にまで届いてまして。

  テ……テレサさんは今日来られているのですじゃ?」


 「テレサは今、フェルベールの街に居ますね。

  今日はアイリスとセシリアだけ連れて来てます」

 「そうかぁ……」


 思い切り肩を落とした……。

 テレサのファンなのか?

 でも、ギルド長をやっているのにフェルベールの街まで来てライブ観戦なんて出来るのだろうか?


 「テレサのファンなんですか?」

 「うん……ファンと言うかぁ……。

  噂話で聞いたのですが、あのテレシアさんに瓜二つと聞いて是非お会いしたいと思っていたのですじゃ。

  テレシアさんは若い頃の私が熱い思いを抱いていた方で、憧れの人じゃったしだいでして」


 「わかりました。

  それでは今度機会が訪れましたら、テレサを連れてお尋ねします」

 「はい! 是非お待ちしておりますですじゃ」


 成程、テレシアのファンか。

 それなら、何かあった時に味方になってくれるかもしれないし、使えそうだな。

 冒険者ギルドを出て、しばらく街を見て周り、宿へと戻った。

 

 三人共僕の命令に従い部屋で待機してくれていて安心した。

 明日に備え、今日は早く寝る。


 そして次の日。

 早速、城門の衛兵の所へ行くと、城の中から騎士風の男が出て来て、僕達を案内してくれる。


 僕の事を下に見ているのか、この騎士は名乗らない。

 それなら僕も名乗らないでおくか。

 そして、騎士風の男が部屋の扉を開き、中へ通される。


 謁見の間と言う感じではなく、大きな部屋だ。

 応接室みたいな所かな?


 騎士風の男が去り、大きな椅子があったので僕とアイリスとセシリアがその椅子に座る。

 ライズは椅子の後ろで待機するらしい。


 しばらくして、扉を開けて誰かが入って来る。

 さっきの騎士風の男と比べると地味な服装の人物だ。

 僕が立ち上がると、釣られてアイリスとセシリアも立ち上がる。


 「ああ、いいよいいよ座っていて。

  僕もすぐ座るから」

 

 そう言われたので僕達は再び席に着いた。

 そして、この男は……ジャマルだな。

 ライズが隠し切れない殺気を放っている。


 それに、後ろから着いて来たフードを目深に被っている人物。

 これがライズの言っていたキシン族か……思わず緊張してしまう。

 

 「あっ僕ジャマル。

  そっちはコゼット君だったね。

  それと、アイリスちゃんとセシリアちゃん。

  お母さん元気すぎて困ってるんだよね、後で合わせてあげるよ、きっと彼女も喜ぶ。

  それと、ライズ君、お久しぶりだね」


 ライズは何も返さず、直立したまま動かない。

 声を掛けられた事で更に殺気が増した様に感じるけど、王妃が囚われているし下手な事はしないだろう。

 まあ、ここで暴れられるよりはずっとマシか。

 

 「ええと、要件は難民の事だよね?」

 「どうしてその事を知っているのですか?」


 「ああ、いいよ敬語だなんて。

  難民の件なんだけど、そりゃあ、お姫様二人が大活躍だもん、みんな王様の事大好きだったし、会いにいっちゃうよね。

  それで、色々と厄介だし、こっちにも責任があるわけだから、難民をどうにか出来ないかと交渉しに来るくらいは予測できるよ」


 そう言う事か。

 難民が押し寄せて来るのが早かったのも、その数が纏まって4000人も集まって来たのもジャマルが裏で誘導していたのか。

 となると、僕はジャマルの手の平の上と言うわけだ。


 普通に考えれば、そんな訳はないんだけど、このジャマルと言う男、普段からいくつもの手を打っているのだろう。

 目的は分からないが、関わらない方が良さそうだ。

 それなら、さっさとこの場を去った方がいい。 


 「そうか、僕は挨拶をしに来ただけなんだけどね。

  この三人は僕の奴隷だ。

  王妃にも用は無い」


 「あらら、そうなの?

  と言うか、察しちゃった?」

 「僕はジャマルの駒として使われるつもりは無い」


 「駄目だよ。

  逃がさないと宣言したらどうする?」

 「どうとでもなると宣言しよう」


 「ごめんごめん。

  でも、君達の居るシーンヴィアス帝国の貴族は既に君達に目を着けている。

  きっと近い内に婚姻話がやって来ると思うよ。

  僕は君達のファンだからね、そう言うしがらみに囚われて欲しくないんだよ。

  だから、それを回避して、ついでに難民達も救える画期的な提案があるんだけど、飲んでみない?」

 「もしかして、国を作れと言うのか?」


 「凄い! 察しがいいね!

  流石短期間でグランドマスターにまでなった男は違うなー!

  スリンク王国が君達の建国に協力し、他国にも君達の国を認める様に働き掛けさせてもらうよ。

  そうしたらさ、帝国の貴族達も権力を行使出来なくなるし、難民達も新しい国が出来てハッピーだろう?」

 「そっちにメリットが無いように思うけど?

  それに、主な住民が元ジール獣王国の難民。

  下手を打てばまた戦争になる」


 「全然問題ないよ。

  王妃を返す時に条約を結ぶと良い」

 「わかった。

  その提案は飲ませて貰う。

  そのかわり、本当の目的を教えて貰える?

  後ろにいる人と関わりがあるんでしょ?」


 「その通り。

  僕とシャターラはとある目的の為、同士なんだ。

  シャターラ、フードを下ろして顔を見せてあげて」

 

 シャターラと呼ばれたジャマルの後ろに立っていた人物はフードを下ろした顔を見せた。

 キシン族と言うくらいだから鬼の顔が出て来るのかと思ったけど、少し予想外な顔がそこにあった。

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