第8話

 あれが階層主か。

 背丈は3メートル程のリザードマン。


 こちらを補足し、あいさつ代わりの一発が飛んで来る。

 普通のリザードマンも使っていた強力な水の魔法。

 それを桁違いの威力で飛ばして来る。


 当たれば一撃必殺だけどスピードはそれ程でもない。

 僕達は難なくそれを躱す事が出来た。


 いや、外していない。

 僕達の退路を塞ぐように地面に大穴を空け、流れ込んだ水が沼地と繋がってスワンプスネイクが雪崩れ込み、新たな泥沼を作っている。

 これは……厄介だな。


 階層主が大きな鉈を振り上げて距離を詰めて来る。

 大きいだけあって威圧感が凄い。


 盾となるセシリアが前にでて、階層主の剣を受け止めると、泥濘ぬかるみに足が取られる。

 スワンプスネイクがセシリアに噛みつき、泥の中へ引きずり込もうとしているけど、セシリアは引き続き階層主の攻撃を惹き付けてくれている。


 まだ余裕はありそうだな。


 「テレサ、勝てると言っていたけど、勝算はどのくらいあるの?」

 「どっこいどっこい。

  まあ、やるしかないね」


 勝算は低そうだ。

 僕の剣は替えが利かないし、階層主にもダメージを与えられそうにない。

 

 「アイリス、魔法攻撃を中心に階層主を翻弄して、テレサは隙を突いて弱点を狙って」

 

 二人はバラバラに動き、アイリスは爆炎の魔法で階層主に攻撃をする。

 見た目は派手だけど階層主にはあまりダメージは通っていない。

 ただ、煩わしいと思っている様子で、素早いアイリスを捕まえようと動いた。


 作戦としては成功している。

 更にセシリアが階層主の足を攻撃する事で、階層主の注意は二人に集中。

 テレサは軽い身のこなしで階層主の体を蹴り、左目に剣を突き立てた。


 階層主の「グオオオオ」と言う、大きな叫び声が鳴り響く。

 他の冒険者がこの声を聴いて駆けつけたら面倒だ。

 今のうちに出来るだけダメージを与えておきたい。


 僕は階層主の体に向けて魔力の流れを集中させ、聖属性の魔法を発動する。

 青白い光の爆発が直撃した。


 狙い通り階層主にかなりのダメージを与えられたようだけど、まだまだ動けそうだし油断は出来ない。

 階層主は大きく後ろへと飛びはね、距離を取る。


 この感じ……魔法が来る!

 僕が身構えるのと同時にテレサが叫ぶ。


 「左に避けて!」 

 

 僕達の足元を狙うように放たれた水の魔法は、地面に大穴を空けた。

 テレサの声に反応した僕とセシリアは左に避けた。

 だけど、アイリスだけは右側に飛び跳ねてしてしまう。

 

 そして、泥の中からスワンプスネイクが飛び出し、アイリスを咥えて泥の中へと引きずり込んでしまった。


 僕は階層主を睨みつける。

 今は悲しんでいられる状況じゃない。

 だから、こいつを必ず倒す。

 

 僕より先にテレサは動いている。

 セシリアは持ち場を離れ、アイリスが引きずり込まれた泥の中を進もうとしていた。


 「セシリア! アイリスは僕の方で何とかする。

  持ち場へ戻ってテレサのサポートを頼む」

 「わかりました!

  姉様を頼みます」


 何とかするとは言って見たものの、僕に出来るのは犠牲者を最低限に留める事だ。

 テレサも気が付いているとは思うけど、階層主は何かしらの手段を使い、スワンプスネイクと連携を取っている。


 指揮系統が乱し、スワンプスネイクに真面な指示を出せなくすればこっちの状況はかなり良くなるはずだ。


 「テレサ、右目を潰せ!」


 テレサが視覚となっている右側から回ろうとするが、階層主に見つかり、振り上げた鉈が振り下ろされた。

 その一撃を真面に喰らった様に見えたけど、そこにテレサの姿は無く、無数の花弁が散った。


 テレサの花の魔法には〝魅せる〟と言う特性があるようで、花弁のデコイを作るとそれをテレサだと錯覚してしまう。

 テレサ自身はその隙に隠密行動を取れる様になる。


 テレサは階層主の残った目にも剣を突き立てた。

 両目を失った階層主が叫びながら暴れ回る。


 それに釣られる様にスワンプスネイク達もバシャバシャと音を立て、沼地で暴れ回っている。


 「セシリア、夢幻むげんを使っていっきに畳み掛けろ!

  階層主を転がして、上に乗って魔法を使え!」

 

 僕の指示通り、セシリア夢幻むげんを使ってタックルし、暴れ回っていた階層節を転がし、体の上に飛び乗って魔法を使った。

 セシリアの魔法は重量強化。

 

 自分、もしくは対象の重量を最大約200倍まで増加させる事が出来る。

 つまり、階層主は10トン以上の小さな重りを腹の上に抱えている様な状況。

 しかも、セシリアは防御に特化している為、振り払うのも至難の業だ。

 

 いい状況だ。

 目を潰され、転がされて動きも封じられた。

 今まで討伐された事もないだろうし、ここまで追い詰められたのは初めてだろう。


 早く仲間に助けを求めろ!

 駄目押しで僕も階層主に頬っぺたあたりに在る穴に剣を突っ込んだ。

 階層主は「キャアアア」と甲高い声をあげパニックに陥る。


 すると、沼の中からおぞましい数のスワンプスネイクが姿を現す。


 セシリアに待機を命じて、僕とテレサでスワンプスネイク達を攻撃する。

 沼の中では強敵でも、外ならただの大きい蛇だ。

 毒も無いし、油断しなければ多少時間は掛かるものの、殲滅は可能。

 

 スワンプスネイク達を狩っていると、ザパーンと水しぶきを上げて髪を赤く染めたアイリスが沼の中から飛び出して来た。


 良かった。

 アイリスが冷静さを欠いていたら危なかった。

 夢幻むげんには物理的干渉を一部無視できる能力がある。

 泥の中でもある程度自由が利くのだと信じていた。


 アイリスはそのまま階層主の顔辺りに飛びつき、怒りに任せて光る拳で殴りつけている。

 更に魔法も使っている様で、階層主の顔は徐々に焼けただれてきた。

 スワンプスネイク達を大方、片付けた所で、階層主の方も絶命した様だ。


 アイリスが生きていた事に安堵してセシリアが抱き着いて泣き始めた。

 テレサは二人の頭を撫でて慰めている。


 「マスター、階層主を倒したし、一旦街へ戻ろう」

 「うん、みんな消耗してるだろうし、今日はもう街へ戻って休んだ方がいい。

  セシリア、階層主が何かアイテムをドロップしていなかったか?

  マスコットが拾ってくれているとおもうんだけど」

 「ええっと……はい!

  本の様なアイテムをドロップしてます」


 セシリアがマスコットから本を受け取るとテレサが魔法書だと言う事を教えてくれる。

 魔法書は最初に使用した人物に魔法のスキルを与える効果があり、かなりの高値で売れるらしい。


 折角だし使ってみるか。

 使用すると、新たな魔法スキルを得た自覚がある。


 「なかなかいいスキルを得られたと思う。

  『マジックグランツ』って言うスキルなんだけど」

 「ああ……マスター、それはハズレスキルだ」


 「そうなの?」


 テレサ曰く、この能力を持っている人は結構多く、その効果も比較的安値で取引される加工して作ったマジックアイテムと同じくらいの効果しか得られない。

 『マジックグランツ』の効果は魔鉱石と言う希少な金属鉱石に魔法効果を付与できると言うもので、魔鉱石自体がレアで高価な為、使う機会自体あまり訪れない。


 それに、魔鉱石は有用な金属で、このスキルで魔法効果を付与した場合、むしろ価値は下がってしまう。

 安いマジックアイテムと同等程度の効果しか得られないので、高い魔鉱石を買うより、マジックアイテムを直接買った方が安い。


 残念だな……。

 こんな事になるなら売った方がよかったかな。


 肩を落とした僕にテレサが朗報が伝えられる。

 階層主を倒した場合、ギルドに報告すれば権利収入を貰える様になるらしい。

 どういう事かと言えば、階層主は倒した後、一年間は復活しないので、その間ここでのドロップ品などをギルドが買い取った場合、利益の一割程度を受け取れると言う事だ。


 それは有難いと言う事で、早速僕達はギルドへと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る