第7話

 今日も色々とやる事があるな。

 日の出と共に目を覚ました僕は、アイリスとセシリアの様子を見に行く。

 

 二人は花の魔法で眠らされているし、起きて来る気配はない。

 テレサに頼み、二人の魔法を解いて貰う。


 しばらくすると、大きな耳が周囲を探る様にピクピクと動いて、ガバっとアイリスが起き上がった。


 「皆の匂い!」

 「おはよう、アイリス。

  約束通り、奴隷の皆を引き取ってきたよ」


 アイリスはキョロキョロとして、テレサと目が合うと警戒心をあらわにした。

 

 「大丈夫だよ、安心して。

  昨日のテレサは二人の力を試す為にああいう役を演じていただけだから」

 

 アイリスは首を傾げたけど、状況を理解出来たのか、隣で寝ているセシリアの体を揺すって起こした。


 「僕の名前はコゼット。

  これから二人にはアイドルになってもらう。

  君達を僕にプロデュースさせてくれ。

  そして、これからは僕の事はマスター、もしくはプロデューサーと呼んで欲しい」

 「プロデューサー?

  アイドルとはなんだ?」


 当然の反応だ。

 僕はこの世界におけるアイドルとプロデューサーの役割について二人に説明した。

 二人が理解したのを確認して、契約書にサインをもらう。


 『アイドルプロデューサー』の能力で二人には少し成長して貰った。

 服装はテレサと色違いのワンピース。

 アイリスが赤でセシリアは緑だ。


 二人共潜在能力的にはテレサよりも魔力が高いはずなので、アイリスには魔法効果を高める手甲、セシリアには魔力で操れる盾を与えた。

 更に、アイリスには魔力操作の能力を付与し、セシリアには精神強化を付与した。


 せっかくなので、テレサを主軸にこの場にステージを召喚し、ライブを行って見た。

 最初は二人共戸惑っていたけど、テレサが引っ張って行ってくれたお陰でなかなか悪くない仕上がりになった。

 元々身体能力も高いし、リズム感も良い。

 歌に関しても歌い慣れていないせいで音を外す場面もあったけど、後半ではちゃんと音を外さずに歌えていた。

 きっと二人は良いアイドルになれるだろう。


 ライブを終えた時点で新たな能力に目覚めた。

 アイドル達に専用のマスコットキャラクターを従属させる事が出来る能力。

 マスコット達は戦闘には参加できないが、アイドル達が死なない限りマスコットも死なない。

 更にマスコット達には特殊なサポート能力を一つ持たせる事が出来る。

 

 現時点ではどんな能力を持たせる事が出来るのか分からないので、とりあえず能力を使い、アイドル三人にマスコットキャラクターを与えた。

 

 マスコット達は主人の姿に似るらしく、手のりサイズのちびキャラみたいなのが生まれた。

 マスコット達に持たせるサポート能力は、どうやら冒険のサポートをしてくれるものみたいだ。


 んー?

 『アイドルプロデューサー』なのに、冒険のサポート能力?

 観察して得られる情報もアイドル向きかと言えば、そうでも無いし、おかしな能力だな……。


 それぞれ与えられる能力は一つと言う事なので、優先度の高そうなサポート能力を与える。


 テレサのマスコットにはマッピング。

 周囲の環境を把握して、好きな時に地図を生成してくれる機能だ。

 一度通った場所も記憶してくれているので、いつでも完璧な地図を作ってくれる。


 アイリスのマスコットには荷物運び。

 かなりの量の荷物をマスコットが収納して持ち運んでくれる。

 持ち運ぶと言っても、そのまま持ち運ぶのではなく、専用のストレージで管理してくれるので荷物はゼロの状態になる。


 セシリアのマスコットには食料保存の能力を与えた。

 この能力も専用のストレージを使うわけだけど、中の物が腐ったり劣化する事のない便利な能力だ。 


 さて、準備も整った事だし、出掛けるとしよう。

 開拓地をライズ達に任せて、僕達4人は先に冒険者ギルドでアイリスとセシリアの登録を済ませダンジョンへ向かう。

 

 二人に実戦経験をつませる為、第四階層までのモンスターは全てアイリスとセシリアに任せた。


 潜在的に魔法の方が得意なアイリスには魔法攻撃を中心に戦って貰い、セシリアは魔法操作可能な盾を操ってアイリスの援護をして貰った。


 二人は飲み込みも早く、新しい戦い方にもすぐに慣れてきたみたいだ。

 第三階層のエルダースケルトンとリッチーでは二人の相手にならなくなってしまったので、時間もたっぷりあるし、第四階層を抜けて第五階層へと進む。


 第五階層。

 テレサ曰く、ここからダンジョンのモンスターの知的レベルが跳ね上がるらしい。

 以前のテレサが一人の時にメインにしていた狩場でもある。

 見た目は綺麗な沼地で、周囲は霧が深く、光のカーテンの射しこむ幻想的な場所。


 テレサの指示でモンスター達を狩っていく。

 ここに出て来るモンスターは、リザードマン、フロッグマン、スワンプスネイク。

 特に気をつけなければならないのがスワンプスネイクで、沼地に引きずり込まれたらまず助からないらしい。

 

 テレサの探知能力でスワンプスネイクは見つけられるので、危なげなく第五階層の中央にまで辿り着いた。

 テレサがキョロキョロと周囲の様子を調べている。

 どうしたんだ?


 「テレサ?

  何かあったの?」

 「この辺りはいつもフロッグマン達が騒がしくしているはずなんだ」 


 確かに、ここに来るまではフロッグマン達がゲコゲコ五月蠅かったけど、たまたまここにフロッグマン達がいないだけじゃないのだろうか?


 「他の場所へ行ってるだけじゃないの?」

 「いや、この現象には覚えがある。

  恐らく、近くには階層主がいるよ」


 「階層主?」

 「第五階層の階層主は馬鹿でかいリザードマンで、フロッグマンを食い散らす習性がある」


 なるほど、それで周囲をキョロキョロと見ていたわけか。

 でも、フロッグマンの肉片などは見当たらない。


 「マスター、もうすぐ前方から階層主がやって来る。

  このメンツなら勝てると思うけど、どうする?」

 

 ん? 勝てると思うけど?

 つまり、負ける可能性もあるのか?

 今までそれ程苦戦を強いられていなかったので、そう言われると怖いな。


 「態々危険を冒す必要は無いけど、階層主ってそんなに強いの?」

 「戦った事はあるけど、倒せた事はないな。

  50人の討伐隊のメンバーとして参加した時も半分を犠牲にして撤退した」


 「むちゃくちゃじゃないか。

  そんなの相手にしてられないし、撤退しよう」


 僕達は来た道を引き返し、第四階層へと向かう。

 しかし、テレサの指示でずっと迂回し続けている。

 様子がおかしいな……。

 テレサが「知恵をつけたか」と呟く。


 「マスター、どうやら私達は追い詰められたらしい」

 「どういう事?」


 「沼地にいるスワンプスネイク達が統率能力を持っている。

  たぶん階層主に飼いならされている。

  階層主は私達に狙いを定めているみたいだ」

 「僕達よりフロッグマンの方がよっぽど食いでがあるんじゃないの?」


 「たぶん捕食目的じゃない。

  階層主はおもちゃを探している。

  気を付けて、退路は断たれている」


 その場で身構え、しばらくすると、霧の奥から巨大なリザードマンが姿を現した。 

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