第12話
陣内の言葉通り、解析は難航を極めた。
通常ならものの一、二時間もあれば解析結果を報告してくるのだが、今回は丸一日を費やした。終わりましたよ、と報告してきた陣内の目元には濃い
「解析した結果、南井死亡時点でお守りに籠められた隠匿と身代わりの効果は、少なくとも半減されていた状態だった可能性が高いっすね。
わかりにくく細工されてたんで最初は見つけられなかったんですけど、
このせいで隠匿と身代わりの効果に関しては二、三ヶ月ほどで通常の約半分程度しか役割を果たせていなかった可能性があります。それでも通常の
「つまり、力の強い奴にのみ見つかるような細工がされてたってわけか。すまんな、助かった。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとーございます。ちょっくら仮眠室で爆睡してきますわ。この事件解決したら奢ってくださいね」
ふらついた足どりで仮眠室へ向かう陣内を見送った嘉内は、横で解析資料を読む麻倉に声をかける。
「麻倉、悪いが六十年前の南井の経歴を改めて洗い直して欲しい」
「六十年前のですか?」
「六十年前、最初の神隠しが始まったあたりから南井はお守りを持ち始めてるだろ? そこには何か理由があったはずだ。南井本人は当時まだ小学生ぐらいだろうから、南井本人ではなくその両親や祖父母が関わっていた可能性もあるが、南井家の周囲でその当時に変な動きがなかったかを探りたいんだ」
「わかりました。けど俺が調べてる間嘉内さんは何するんですか?」
「ちょいと室長に協力求めようと思ってな、ちょっと今回の相手は手強そうだし」
嘉内がそう言うと麻倉は僅かに嫌そうな顔をした。麻倉は室長である渡辺が苦手で、必要以上に会話を交わそうとしないし会うのもできるだけ避けている。渡辺はそんな態度をとる麻倉を逆に面白がって積極的に絡むのだから、麻倉の苦手度合いはその度に上がり続けている。
「……わかりました、こっちはちゃんと調べておきますね」
「別にお前が大丈夫なら室長んとこについて来てくれてもいいんだけどよ」
「全力でお断りします」
「……今は室長も忙しくてここにあんまりいないけどよ、常駐するようになったらどうすんだよ」
「それは、その時に考えます」
こいつ絶対改善する気ないだろ、と嘉内は大きなため息をつきながら、じゃあ行ってくるわと対策室を出る。背後からかけられる「煙草は二本までですよ」との声には手をひらひら降って返した。
警視庁を後にした嘉内が室長である渡辺を訪ねに向かった先は宮内庁だ。
渡辺は宮内庁の
事前に連絡を取っていたこともあり、渡辺はエントランスで待ってくれていた。
「悪いわね、わざわざ足を運ばせて。どうしても今はこっちから離れられなくて」
「いつものことだからなぁ。大変そうな時に手間取らせてすまんな」
「いいのよ。逆にそっちでの仕事任せっきりにしちゃってるの申し訳ないぐらいだし」
困ったように笑みを浮かべた渡辺の目元には、メイクで隠しきれてない隈がうっすらと浮かんでいた。よっぽどやばい案件抱えてんだろうな陰陽課、と嘉内は内心同情する。
同情はするがこちらもこちらで大型案件なので渡辺の手を借りない、という選択肢は残念ながら無い。嘉内が捜査状況を報告し協力を求めれば、大きなため息をひとつ吐きながら了承した。
「厄介な案件だと思いながら嘉内さんに対応任せたけど、予想以上っぽいわね。とりあえず嘉内さんが言ったものは早急に用意するわね」
「頼む。それからいざという時には呼び出すがいいか?」
「勿論。部下のピンチに駆けつけるのが上司の役目だもの。まぁピンチにならないことを祈るけどね」
そう締める渡辺に、違いねぇなと同意した嘉内だが、恐らく呼び出すことはほぼ確定だろうなぁ、とこれからの展開を考えて内心でため息を吐くのだった。
※二話で渡辺のことを班長と記載していましたが室長に訂正しました。
警視庁生活安全課保安部怪異対策室 浦井らく @urai_raku
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