第11話

 その後現場を見て回ったが特に他に収穫はなく、麻倉の運転で現場を後にした嘉内は、車内で花屋の言葉を思い返していた。



「なんで、ねぇ……」



 その言葉から連想できるものはいくつかある。なんでいる、なんでここに、なんでこんなことに、なんで俺が、とさまざまな言葉が嘉内の脳裏に浮かんでは消える。

 どれが正解かなんて本人にしかわからないが、その本人はもういない。いっそ死後の魂がその辺で彷徨さまよってくれていれば話が聞けるかもしれないが、天国にいるか地獄にいるか、はたまた例の瘴気の持ち主に魂まで喰われたかは知らないが、今のところ南井の魂はこれまで訪れたところにはどこにもいないのが事実だ。

 

 どれだけ悩んでも答えが出ない難問に、嘉内は一つため息を吐いた。最後の言葉に手がかりがありそうだが、どうもその手がかりは簡単には掴めそうにない。

 なんで、なんでねぇ、とぶつぶつ呟く嘉内をチラリと一瞥いちべつした麻倉は、おもむろに口を開く。



「南井の言ったなんでの意味はわかりませんけど、なんで南井はお守りを身につけていたはずなのに見つかって殺されたんですかね?」



 麻倉の言葉にハッとした嘉内は、確かに、と目を丸くして麻倉に視線を向ける。 



「お守りには隠匿と身代わりの効果があったはずだ。それが切れていたってことか? いやだが神主の話では三ヶ月前に力を込め直したとも言っていたし……」


「南井は死ぬ直前に落とし物をした、と花屋が話していましたよね? 落とし物ってお守りだったんじゃないですかね?」


「だが少し自身の体から離れただけで場所を特定され殺されるほど弱く限定的な効力だったとは思えない。となるとお守りの効力を上回るほど相手が力をつけていたか、もしくは……」



 嘉内は俯き加減でしばらく考え込んだ後、はっとしたように顔を上げた。



「麻倉、一旦対策室に戻るぞ。確認することができた」



 そう唐突に告げられた麻倉は、一つため息をつき、警視庁のに戻るべくハンドルをきった。

 






「あれ?戻ってくるの早くないっすか?」



 早足で対策室へと戻ってきた二人を出迎えたのは、キョトンとした顔の陣内だった。二人はそのまま陣内の元まで歩み寄ると、朝倉の懐からビニール袋に入れられたお守りが陣内の目の前に差し出された。



「もう一度解析してほしいんだ。このお守りのどこかに仕掛けが施されていないか」



 嘉内自身も無理難題を頼んでいる自覚があった。穢れているというだけで解析の難度は跳ね上がるのは理解していたし、そんな状況でお守りの効果や作成した神社の手がかりの見つけることが出来たのは陣内の能力の高さの表れだとも思っていた。だからこそ、こんな頼みだって陣内ならば可能なのでは、と思えるほど嘉内は彼を信頼していた。


 陣内はしばしお守りを見つめたまま厳しい表情で考え込むと、決心がついたように朝倉の手からお守りを受け取る。



「あんまり期待しないでくださいよ。正直かなり難しいんで」



 肩をすくめながら軽い口調で言う陣内に、頼んだぞ、と嘉内は期待を込めて肩を叩いた。

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