第36話 イカロスの探求者

「アラン。今までありがとう。始まりはアランとの出会いだったよな」


 だんだんと小さく遠くなっていく世界を見下ろしながら、ルフは静かにお礼を告げる。アランは返事をしなかった。いや、出来なかった。返事をすると別れが辛くなってしまうから。それをルフも分かっていたから、それ以降会話はなかった。


 チンと場違いのベルが鳴る。扉が開いたのを見れば、まずはアランから降りて周りを確認した後にルフが降りる。周りはまだ暗く、全てが白に包まれていた。


「見てアラン。空に大きくて丸いものが浮かんでいる。あれがローが言っていた月かな」


「そうかもしれないな。意外とでかい」


 ルフは右手で初めて見る満月に目を輝かせた。地上には暗くても照らしてくれる光があるだなんて、羨ましい。月でもこんなに明るいのに。太陽はどれだけ明るいのだろう。


 アランは、地下にいるソフィアやローの為に写真を撮る。出てきた写真には月と星が綺麗に映っている。


「にしても誰もいないね。オーケアヌス族の人は何処に行ったのだろう」


「オレらを置いて空に行ったかもな」


「なにそれずるい。俺も行きたかった」


 それからこの世界について語りだす。この白くて冷たいものは何だろう。茶色くて太くて緑色のいい香りがする。これは植物の一つなのかな。あの四角で大きなものは建物かな。朝が来るまで語り続けた。


「もうすぐかも。明るくなってきた」


「……お別れだな」


「また会えるよ。皆死んだらさ、今度は太陽の先を見に行こう」


「そうだな。見に行こう」


 ベルを木にもたれ掛かけて、ルフも座り手を強く握った。空は一の間にか藍色から、空色に変わろうとしている。少しずつ世界に光が注がれていく。白い地面は反射をし、鏡のように輝いている。呼吸がままならなくなる。それでも最後までルフは目を開き続け、見えたのはあの日、始まりの洞窟で見た温かくて丸い太陽。


「ルフ、ベル、おやすみ」


 ルフは眠るように旅立った。アランは太陽の写真ともう一つ、ルフとベルの写真を撮る。どうか羽ばたいた彼らが、次の世界でも一緒に過ごせるようにと願いを込めて。

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