08 クロード3世からの手紙
セゾニア王国、王都ミニュイからヴェリテ城へと一通の手紙が届いた。
シルフィールのところまで手紙を持って来ようとしていたカトルから、わざわざ奪い取ったらしいルイが満面の笑みで差し出してくる。
もう既に中身を見ているようだったが、怒る気にもならない。ただ、ルイらしいと思うだけだ。
ただその手紙を途中で捨てることなく、シルフィールに渡したのだからさほど面倒なことは書かれていないのだろうとは察した。
「……あの」
「何、どうしたの。早く読みなよ」
見られていると読みづらい、そんな心の機微を解するつもりはまるでないらしい。ルイはシルフィールの手元を覗き込みながら一緒になって目を通し始めた。
手紙の差出人は王家――もっと言えば国王クロード3世からのものだった。
中身としては先日の式典への出席に対する感謝を述べつつ、シルフィールにイヴェル家の血筋ではないのでは、と詰め寄ったことを詫びるものだ。ただそれだけ。わざわざ書面で送ってくる理由さえないようなものだった。
「……ルイはどうしてそんなに嬉しそうなんですか?」
「いや、あんたに気でもあるのかと思ってたからさ。なにせ権力者だし……こんなふうに味も素っ気もない内容ならそんな心配もないかな、ってね」
考えていることをわりと率直に話すようになってきたな、と密かにシルフィールは驚いていた。もう少し、ルイは本心を隠すようなところがあったような気がするのだが。などと思いながら封筒に便箋を戻そうとしたところで、中にまだ何か入っていることに気づいた。
「これは……」
とろりとした素材の青いリボンだった。式典の日に左手首に結わえてあったそれ。
クロードと揉めている時に解けてしまったそれは、どうせ捨てているだろうと思ったのだがご丁寧に返却してきたらしい。
取り出してまじまじと眺めていると、リボンがいきなり青い炎に包まれた。うっかり取り落しそうになったものの手の中にあっても熱くはなく、一瞬でリボンは燃え尽きて、灰になってしまった。
「な、何するんですか⁉ びっくりしましたよ……」
「そんなくだらないまじないに、真剣になっているのも馬鹿らしいじゃない。それにあいつが手を触れたものなんて、もう要らないでしょ」
極端だな……と思いながらも、シルフィールは思い出したように言った。
「そう言えばシルヴィアがルイのリボンを持っていましたが……」
「手癖が悪いよね、あの子。盗まれたんだ――新しいのが欲しければまた買ってあげるよ?」
「いえ――大丈夫です。私には別のものがありますから」
首に残る噛み痕をそっと指先で撫でて微笑むと、ルイも満足げににやりとした。
「そうだね、しるしを刻む方法は他にも沢山あるわけだし」
ルイは徐にシルフィールの薬指から指輪を抜き取ったかと思うと、指輪の跡がほの朱く残る指の付け根を甘噛みした。皮膚を突き破らないほどやわく、優しい痛みが指に残った。
「こんな指輪よりもこっちのほうが鮮明にあんたに残る、でしょ?」
満足げに言われてしまったので、つい、シルフィールも頷いてしまった。
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