エピローグ

End

PM 6:55 中島公園近隣の橋


 学生達を警察署まで届け、事務所に戻り事件の精査を終わらせ、近くの橋で一服をしている。

 彼らは、自分たちの過ちを理解し、償うため自ら出頭をした。もちろん、学校は退学するそうだ。

 それを見届け、私はあの学校で起きた魔術絡みのいじめの精査をし、後のことをラスティアに任せ一服している。


「やっぱり、ここにいましたか」


「美羽か。まだいたんだ」


「当然です。明日まで、ロンドン行きの便はないんですから」


「そうだったね。それで? 何の用?」


「お話したくてきたんです。リリィの愚痴も含めて」


 美羽はそういうと、私の隣に立つ。そして、缶コーヒーを一本、私に渡す。

 煙草を吸いながら、私は美羽がくれた缶コーヒーを開ける。


「今回も、随分とご苦労でしたね」


「まぁね。まさか、終盤で幻獣を出されるなんて、思ってもなかったよ」


「でも、大事になる前に、幻獣を倒すとは、さすがですね」


「あぁ。あんなのが出たまんまじゃ、この街は終わりさ」


 美羽も缶コーヒーを開け、それを飲む。


「なんで、あんなことをするんですかね」


「さぁね。私にはわからないさ。でも、分かることはある」


「それって、どう言うことですか?」


「いじめってのは、逃げなんだと思う。最初は冗談なつもりでも、気がつくとそれが大きくなって、取り返しのつかない事なってしまう。けど、誰も止めようとはしないのはなんだと思う?」


「――――――止めるのが怖いからですか?」


「合ってるけど、惜しい。止めるのが怖いんじゃない。。今回、それに関わって分かったのは、勇気がないことがわかったんだ。

 人間、誰も止めないと次第に度が過ぎてしまう。犯罪だろうと、いじめだろうと同じさ。それが大事になると、みんなしらばくれるし、大人がそれが分かったとしても、自分のキャリアを優先して隠し通そうとする。

 結局は多勢に無勢。被害側は独りで動いて、誰かに助けを求めるために動く。でも、誰も助けの手を伸ばさない。

 なんでだかはわかる? みんな自分を最優先をして助けようとしないからさ」


「言われてみれば、そうですね。最初は小さなことでも、誰も止めなかった挙句、優位性カーストが生まれ、やがてそれがその空間では常識となる。

 苦しんでる人間がいて、救いの手を差し伸べたくても、自分もこうなってしまうのではと恐れて見て見ぬふりをする。特に、大人教師はそれを無かったことにして何事もなく保身のために加害側に着く。

 それが日常として、自身の経歴に傷がつかないよう仕事をするんです。たとえ公になっても、『知りませんでした』と言えば方がつく。その職種が、まだ幼い命を預かることだとしても」


「そうだね。本来なら、この事は私たち、魔術師が手を下すまでもないことさ。でも、魔術を使う前からこれは止められたはずさ。でも、そうはしなかった、いや、あのクラスの担任は違えど、上の連中はどうだろう?

 無かったことにするだろう。生徒の人命より、学校の評判を第一にしようとするさ。その方が都合がいいからね。

 でもあの2人は自分から学校ではなく、警察に自ら行って過ちを正しに行った。それだけでもすごいよ。

 そんなことなんて、普通はできないさ。当然終わってみれば何事もなく過ぎていく些細なものさ」


 美羽は、私の言葉に沈黙する。私とて、今回このことに関わることで、学校の現状に若干イラつたのだから。

 何故、部外者である私に、助けを求めたのか。何故、ああなる前に止めようとしなかったのか。

 答えは単純だ。教員大の大人が、止めるのを諦めたのだからだ。今回、幸いにも一部の生徒が助けを求めてきたから止められたけど、それを教員大の大人がそれ止めようと考えると、つくづく腹が立つ。

 それが起きないことを願うばかりだ。


「すまない。なんか重苦しい話なんかして」


「いえ、聞いてると、なんだかキサラギさんらしいと言うかなんというか。相変わらずお人好しなんですね」


「そう言われると私、何も言い返せれないんだけど」


「まぁ、私も人のことは言えません。この身になってから、他人の死には敏感なんです。

 聞けば、いじめによって自殺する学生が年々増加傾向にあると聞きます。それが無くなることを、切に願うばかりです」


「無くすなんて、所詮はエゴさ。こればかりはどうしようもないんだからさ」


「そうですね。無くすよう頑張る人もいるけど、完全には消えませんしね」


 2人で話し合いながら、缶コーヒーを飲む。すると、美羽の電話が鳴り響く。

 しばらく美羽が電話に出てるところを眺めながら、煙草を吸う。


「ごめんなさい。リリィの呼ばれたのでそろそろ行きますね」


「珍しいね。あのお子様が、この街に直々に来ているなんてね」


「ですね。いつも書類だらけの議長室でサボってばかりの人間が来てるなんて、何かあったんですかね」


 美羽はもう、行こうとしてる。すると、魔術院の車が迎えにきたみたいだ。


「では、失礼します。また何かあれば連絡しますね」


「あぁ。またよろしくね。美羽」


 私は美羽が乗った車を見送り、吸い残ってる煙草を吸う。すると、頭痛が起き、橋の手すりにつく。

 そして、脳裏から奴の声が、聞こえ始めた

  

『ふふっ。あの場で小僧供を見逃すとは、貴様も甘いのう』


「何? 急に出てきて、文句のつもり?」


『その程度では、我は咎めぬわ。今は忠告にきた次第だ』


「忠告? どう言うことだ?」


『近々、戦が起きる。それも壮大なものだ。そのために、支度を済ませるが良い。多くの人命が、消えるやもしれんな』


「何を言ってる?」


『それは、すぐにわかる。今度は、我の力を行使せざるを得ないだろうよ』


 そう言い残し、奴は消えていった。そして、酷く汗が垂れる体を起こし、呼吸を整える。


「大きな戦いが起きる? どう言うことだ?」


 奴の言葉が、脳裏に残る。大きな戦いについて考える。


「――――――だめだ。あれの言うとおり、今は待とう」


 今はただ、それが来ることを待つしかない。そう考え、私はゆっくりと事務所に戻るのだった。                 

       



 ――――――魔女と陰湿なる教室 Fin



















  

 ――――――――――――――――――――――――――――――



『主任。お疲れ様です』


『えぇ、ご苦労様。それで? 状況は?』


『あまりにも凄惨なものです。奴ら、このような事をしてたとは』


『そう見たいね。そこのドア、開けてもいいかしら?』


『構いません。セシリアさんにも、見てもらいたかったので』


『ありがとう。では開けるわよ』



『これは?』


『連中、聖教会によるものです。部屋中が腐乱した死体ばかり、これでは、カルト宗教とやってることが変わりません』


『そうね。ここまで痩せこけるまで閉じ込めて、一体、何が目的なのかしら?』


『わかりません。それに、死体の中には、同胞のものも見つかったそうです』


『――――喧嘩のつもりかしら?』


『そうかもしれないですね。セシリアさん。この死体達はどうしますか?』


『丁重に供養してちょうだい。それだけでも、してやれるならまだマシよ』


『わかりました。今、人員を呼びますね』


『えぇ、お願い。その間、議長に連絡するわ』


『はい。では、失礼します』


『いくらそうだとしてもやりすぎよ』


『――――――――もしもし。私よ』


『えぇ。現地での件、やはりクロだったわ。何かの儀式で閉じ込めて、餓死させたと思われるわ』


『――――えぇ、そうね。では、奴らと戦争でもする気?』


『正気かしら?あの街には、彼女がいるのよ?』 


『……わかったわ。後処理が完了次第、すぐに向かうわ』


『えぇ、では、失礼するわね。議長』


 ――――――――――――――――――――――――               

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魔女と陰湿なる教室 nashlica @nawoc_56

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