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PM 3:10 札幌市内某所


 魔力が不十分のまま召喚された『合成獣キマイラ』が、破壊の限りに暴れ回る。

 それに伴い、廃倉庫の中はメチャクチャになり、いつ倒壊してもおかしくない状況だ。

 不良たちは、この状況にパニックになる。ろくに魔術の手解きを受けてないのなら、それもそうだ。


「おい。暴れてる所悪いが、私が相手になってやる」


 グラムとティルフィングを展開し、『合成獣キマイラ』と戦闘を行う。私が構えると、『合成獣キマイラ』はこちらを振り向き出した。

『合成獣』は、蛇の頭部を模した尻尾で、炎を吐く。私はそれを避けるが、倉庫の中の廃材に火が燃え移り出した。


「さすが、上位種の『幻獣』は違うな」


 私は、『合成獣キマイラ』の放った炎を見て、驚く。そして、瞬時にその炎をグラムで吸収することで鎮火させた。



 ――――――――――――――――――――

 

 そもそも、『幻獣』とは何かとは。この世界とは別の世界にいる生物を、私達魔術師は幻獣と呼ぶ。

 そして、それを可能とする術式を『幻獣召喚術式』と呼ぶ。

 この術式は、術者自らの血を触媒にし、術者の魔力に比例した幻獣が、この世界に召喚されるのだ。

 この術式を得意とする魔術師を、『召喚士テイマー』と私たちはそう呼んでいる。

 しかし、便利なものほどリスクがあるように、この術式のは重大な欠点がある。

 そう、この術式で呼ばれた幻獣が、術者の魔力を上回った際、暴走するリスクがあるのだ。

 現に、リーダー格の少年が呼んだ『合成獣キマイラ』は、幻獣の中でも上位種に君臨し、熟練の『召喚士』でさへあまり使役したがらないからだ。

 暴走した上位種の幻獣は、その周囲を破壊の限りに暴れ回るので、大体の『召喚士テイマー』は最終兵器として普段は呼ぶ事はないのだ。


 ――――――――――――――――――――


 現状を言うと、召喚した少年は魔力が足りてないにも関わらず召喚した『合成獣キマイラ』によって殺され、それのよって『合成獣キマイラ』は暴走状態になってる。このままにしておくと、札幌の街はメチャクチャになるのも明白だ。

合成獣キマイラ』は、前足に電気を蓄え、私に向かった飛び込む。私は避けるが、私がいた位置は電流が流れ、電子機器が感電し爆発する。

さらに、ヤギのような頭部で冷気の息を吐き出す。私は右腕とティルフィングを取り込ませ、その冷気を捕食させた防いだ。


「これはちょいと、きついな。さすがにグラムとティルフィングだけじゃ、しんどいな」


 私は、グラムで吸収していた分の魔力を、『合成獣キマイラ』の向けて放つ。しかし、『合成獣キマイラ』は擦り傷すら入らず、ライオンのような頭部で吠える。

 それに伴い、廃倉庫の天井は吹き飛んでしまった。


「仕方ない。少し暴れるとしよう」


 私は、眼鏡を外し、右手でそれを握る。


「『呪え ダーインスレイヴ』!」


 私の声に呼応し、右手に持っていた眼鏡が、禍々しい剣へと変貌する。左手で鞘を抜くと、柄の部分にある瞼の様なものが開き、目のようなものが現れた。

 私は、目に止まらむ速さで、『合成獣キマイラ』に向かって斬る。すると、ヤギのような頭部を切り落とした。

『合成獣』は、龍のような頭部で魔術を放つ。しかし、私はそれを止めるように龍のような頭部の目に、ダーインスレイヴで刺す。

 目を抉られ、暴れ回る『合成獣キマイラ』。余りの勢いに、廃倉庫の壁にぶつかる。


「どうした? まだその程度ではなかろう」


合成獣キマイラ』は立ち上がると、治癒の術式をかけて負傷した箇所を回復させる。

 そして、ライオンのような頭部で風の息を吐く。だが、私はそれを難なくと回避する。


「甘いな。お前の魔術は私には通じない。なぜなら、『視えてるから』な」


 私は、『合成獣キマイラ』に向かって斬りかかる。蛇のような尻尾で動きを封じようとするが、私はそれを避け、前足を斬る。

 ダーインスレイブの刃を見ると、血で赤く染まり、今にでも『合成獣キマイラ』を殺すよう私に促す。


 ――――――――――――――――――――


『呪剣 ダーインスレイヴ』。

 この魔具は、赤の魔具の中でも指折りの強さを誇る代物である。血や魔力を吸収し、蓄積した魔力を放つことが出来る。

 しかし、この魔具は致命的な欠点が存在する。

 そう、この魔具は使用者の魔力も吸い、その上所有者の殺戮欲求が解放されてしまうのだ。

 一度鞘を抜いてしまうと、所有者が絶命するまで展開し続け、鞘に納める頃には、所有者は死んでることになる。

 魔術院は、この魔具を封印する事で、被害を無くしていたが、今は私の手元にある。

 ダーインスレイヴであっても、私の膨大な魔力を吸いきれないからだ。

 私はこれを、普段は眼鏡として封印しているが、それでも所有者の魔力を吸い続けるので、危険なのは変わりない。

 個人的には、この性質がむしろ都合がいい場合がある上、どうしようもない時にしか使わないのだ。


 ――――――――――――――――――――


 かくして、今のところ『合成獣キマイラ』は三本足でかろうじて立っている。どうやら、体の修復には時間がかかるらしく、今は傷のついた箇所のみを回復している状態だ。

 龍のような頭部で、火球を放つが、私はそれを縦に斬る。そして、ライオンのような頭部の牙を破壊する。

 再び怯む『合成獣キマイラ』だが、電気をこめた前足で、私に向けて殴りかかる。しかし、私はそれを避けると、『合成獣キマイラ』は蛇のような尻尾で私を縛る。だが、私はすぐに血の剣で反撃し、すぐさま拘束を解く。

 地面に落ちたダーインスレイヴを持ち、蛇のような尻尾を斬り落とす。

 斬り落とされた尻尾から、大量の血が吹き出し、激痛の余り『合成獣キマイラ』は再び暴れ回る。


「終わりにしてやる」っと私はダーインスレイブに手を添える。そして、可視化した術式を並び替え、魔術を唱える。


「『グリモワル真書 第11節 『無量展唱むりょうてんしょう呪血剣じゅけつけん】』』」


 無尽蔵の魔力と周囲の血を使い、それをダーインスレイヴに纏わせる。そして、それを『合成獣キマイラ』に向けて放つ。『合成獣キマイラ』は、私に襲いかかる。

 私を襲おうとした時だった。『合成獣キマイラ』についた呪印が発動し、内部から無数の血の剣が放出された。

 体の内部から、次々と血の剣が現れ、しばらくして『合成獣キマイラ』は息絶えてしまった。


「やはり、幻獣相手は骨が折れるな」


合成獣キマイラ』は、完全に息絶える。すると、徐々に『合成獣キマイラ』の体は消滅していく。

合成獣キマイラ』が消えたことを確認した私は、ラスティアに電話をかける。すると、魔力を感じ、上を見上げる。

 なんと、先ほど倒した『合成獣キマイラ』が再び現れたのだ。


「どう言うことだ? まさか、もう一体呼んでいたのか?」


合成獣キマイラ』は、雄叫びをあげると、空から無数の火球を降り注ぐ。私はそれを避けるが、それによって廃倉庫はほぼ倒壊してしまった。

 周囲を見渡しと、不良グループの生き残りたちはなんとか逃げていたようだ。


「今は、こいつを先に倒すのが先決か」


 私は、魔具を取り出す。


「『喚べ ドラウプニル』!」


 ドラウプニルを展開し、左手首をダーインスレイブで斬る。そして、幻獣を呼ぶ為の術式を唱える。


「『汝 我が契約に基づき 異なりし世界より現れよ

  我が血 我が『魔素マナ』を糧とし 我が世界の外敵を駆除せよ』」


 ドラウプニルが腕輪の形から、巨大なわっかになる。そして、亜空間のような穴が形成される。


「『今ここに 神すらも食い殺す獰猛なる狼よ 現世に君臨せよ!

  食い尽くせ 『幻狼フェンリル』!!』」


 亜空間から巨大な狼、『幻狼フェンリル』が現れる。高らかと遠吠えをし、私を見つめる。


『久しいのう。『魔女』よ』


「そうだね。アレを倒したいから、力を貸してくれないか?」


『無論だ。我も退屈をしていたところ。存分に扱うが良い』


 私は、グレイプニルを展開、ドラウプニルと合体させて『幻狼フェンリル』につける。

 こうして、幻獣同士での戦いが幕を開けたのだった。            

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