DEBATE カルボナーラ VS ナポリタン
じぇりぃパスタ。と呼ばれる飲食店に入るなり、私と真央は席に座ってこれより食事をする。
私の生命維持には欠かせない必須の行為なのだが、同時に真央と食べ物を食べる時間を和やかにすごす意味をも有する。つまり楽しみ。
真央はペラペラとメニュー表をめくるなり『カルボナーラ』を選んだようだ。私が選ぶのは「ナポリタン」である。
このお店の労働者にその品を伝えるなり、真央がこんな事を言い出した。
『ナポリタンより、カルボナーラのほうが美味しくない?』
「否定する。カルボナーラよりナポリタンのほうが美味しい」
―― その瞬間―――
『いやいや…ナポリタンの具ってお肉より野菜のが多いのよ? もりぞうがベジタリアンなら話は別かもしれないけど。それにカルボナーラってその具はほぼお肉。野菜モリモリよりお肉モリモリのが美味しいと思う』
「私はベジタリアンではない。だがナポリタンのほうが美味いと考える。その理由は具材を調理する際に野菜に含まれる味が加わるからだ。ここのナポリタンの具材には、タマネギ、ピーマン、ウィンナー…これはつまり(タマネギの甘み+ピーマンの苦み+ウィンナーの旨味)の3つがあると考える。対してここのカルボナーラにはベーコンの旨味のみ。これはナポリタンの圧勝であろう?」
『……は? それはあくまで具材に対しての話でしょ。ここのカルボナーラのソースは(生クリーム+チーズ+卵=濃厚)+(スパイスとしての黒胡椒)+ベーコンの旨味が加わるわけ。結局パスタって(麺+ソース)の組み合わせなんだから。総合的に考えればカルボナーラのが美味しいでしょ』
そこで店の労働者が注文した料理を運んできたので、私はここのナポリタンのソースには何が使われているのかを問う。「ケチャップ」であるとの回答を得た。
私は新たに得たこの情報を元に真央に反論するぞ。
「ナポリタンのソースは主にケチャップだ。そもそもケチャップと言った加工品に対して含まれるその成分を分解して考えればどうだ? そこには(トマト+その他の食材の成分)が凝縮されたソースを
『旨味成分の量が豊富だからと言って美味しいとは限らないわ。それこそ余計な旨味や成分が絡んで珍妙な味になる可能性は否定出来ないよね? 出来ないよね? その反面カルボナーラは乳製品を
「否定する。それは真央の主観的立場から判断した要素であるがゆえ―――」
『主観的が駄目なら統計データを見たら? 好きなパスタランキングの上位には———』
*
あれから結局、昼の営業時間が終わると店の労働者が勧告してきたので、互いに頼んだパスタを食べる事となった。
もはや冷めてしまっているのだが、ナポリタンは冷めても美味いと思う。対して真央は冷めたら微妙と言っている。
これはつまり両者のパスタが冷めた場合はナポリタンの勝利となるのだが、世間的にはカルボナーラのほうが美味いと評価されているのだな。
いやはやなんとも微妙な結末だな……
仮にそのように言い争う生物、これを私と真央と定義するならば………。私は『叡智の書』を手に持ちそれを開こうとした瞬間、ため息を吐いた真央が静かに笑った。
「ご飯食べてる時くらいその辞典さわるの辞めたら? 行儀悪いよ〜」
「辞典では………いや、辞典かもしれんな。だが私にとっては叡智の書である」
「それって、れいなの感想でしょ? どうでもいいけど、早く食べてお店出るわよ〜」
そう言われた私は、なんだか面白おかしく笑ってしまう。
なんだか真央も笑っているが、ここはひとまず生命維持のために栄養を摂取するとしようではないか。
私はふと真央が食べていたカルボナーラを味見したくなったので、食べ物を交換するべく問うてみた。
「真央よ、私はそのカルボナーラを食べてみたい。ナポリタンと交換しないか?」
「いいよ!」
普通高校で夢見ていた普通の生活。うむ、良いものだな。
友達とご飯を一緒に食べている――――おいしい。
「うむ、冷めても美味いな———」
『———ほんとだ、美味しいね』
***
頭のネジが吹っ飛んでいるであろうこの「森本れいな」は、結んだ長い黒髪をピコピコさせながら、冷めたそのカルボナーラを口へと運ぶ。
その正面に座っているのは黒髪ショートの友だち「近藤真央」と一緒に。舌鼓しながら食事を楽しんでいる。
どちらが美味しいのかは、それは定かではない。結果的にそれは好みであろう。
されど2人にとって、どちらが美味いかなど、もうどうでもよい事であった。
世の中には、超絶どうでもいい事で言い争う人間達が多いと思う。
しかし、そのどうでもいいような時間を楽しめるのであれば。
それはそれで、幸せなのだろうと。
【幸せ】――よい運にめぐまれていること。 by 叡智の書。
―――おわり。
DEBATEガール ~ 解のない討論 ~ もっこす @gasuya02
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