物品販売でエンカウントしたシナシナ野郎を論破しつつ。でもよろぴくってなんだ?

 はて、朝の会が終わったところで今日の学校はもう終わり。

 1日の学級生活を見通したワケでもなく、まったくもって意味がないと思うなりあの担任は何がしたかったのか分からん。

 トドメは「おわりっぺ」とか言いながら意味もなく後ろの扉からニコニコと出ていくあのおっさん。その不合理でかつバカなの? アホなの?

 とか思うわけだが、とりあえず個体名「真央」にこの後にある物品販売へと行こうと声かけた。


「いいよ」

「ほい、ほな行こう」


 個体名「真央」……真央と定義しよう。何かドーナツみたいなものがぶら下がったリュックを背負うなりうーんと蹴伸びをした。そのドーナツは何だ?

 いや、それより気になる事がある。


「今からトレーニングをするのか? その動作の意味は何だ? 不合理だと思わんのか? ん?」


「めんどくさ……柔軟体操だし。要はただのストレッチング、体調を整えてんの。なんでかって? 朝練して来たから、背を伸ばしてんの。その思考回路…もりぞうもその頭のネジなんとかしたら? 時には不合理な行動も必要なの、いいから行こ」


「うーん、私はいたって普通だぞ?」


 やはりこやつは同胞だ。机の上にあった『叡智の書』を手に持つと、スタスタと歩く真央を小走りで追い掛ける。そしてそのまま物品販売の会場へと歩を進めた。



 *



 この普通高校の物品販売を定められたルートを通って順に何が必要か判断していく。真央はそれらを手に取り必要の有無を迅速に判断している……。

 その判断力のスピードは凄まじく後ろから見ていて圧倒されてしまう。というより建築科にとって必要なものが何なのか理解しているがゆえのその思考速度なのだろう。


「はーい、そこの可愛いお嬢さん! この筆箱はいかがか? とっても使い勝手がいいからオススメだよ!」


 ここは文具を並べた区域エリアだな。しっかし、この萎びたブロッコリーみたいな容姿をしているこの男、私が返事をする前にあれこれと喋り始めおって……不快だ。


「貴様、私を可愛いと定義したようだがその理由はなんだ? あと筆記用具を入れておくその箱をえらく推奨してくるが、その筆箱が優れている理由、例えば物理的長所を論するとともに、その物理的短所を論する事は可能なのか? 説明してみよ」


「え? これはその……長所は出し入れしやすくて…短所は…」

「ふん、話にならん。人が興味を持たぬ商品を優れていると説明する際にはそれらを具体的に述べてもらわねば判断出来ぬ。じゃあな、ブロッコリー野郎」


 その場をさっそうとスルーするなり、先程の話を聞いていた真央がクスクスと笑い始めた。何が面白いか訪ねてみたところ「なんとなく」だそうだ。

 なんとなく……【なんとなく】


「……どうしてだかわからない。どことなく。ううむ…なるほどな。つまり分からんのだな」

「そそ。あとこの後一緒にご飯でも食べに行かない? 今日の部活は、午後から休みなんだよね」

「ううむ…分かった」


 同胞の考えている事は聞かずとも理解出来るゆえその理由を訪ねる必要はないが。なんだろう、なんだかほっこりした気持ちだ。

 おそらく癒やされているのだな。友だちとは……こんなにも素晴らしい生物なのだな……やはり持つべきは普通の友だちだ。


 この後の部活販売も論破しつつ、私は真央と一緒に学校の敷地外へと出た。

 そこでリュックにぶら下がったそのドーナツについて聞いてみた。どうやら秘密らしい。


「昼御飯だけど、あたしが勝手に店決めるからね。だからヨロピク」

「よろぴく……よろぴく? よろぴくってなんぞや?」

「―――ん? 秘密」


 私は『叡智の書』をペラペラとめくりながら、真央と一緒に目的の場所へと歩くのだった。






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