酸素が無駄に減るかと思ったら同胞(はらから)と出会った。
黒髪ショートヘアの髪型をした背の高い性別♀よ―――そう。
その白黒姿の女性は眉をしかめたかと思いきや、弓を担いでこの私にこう言ったのだ。
「武士の守るべき道と言われる事もあるけど、要は武術に関する道のことね。剣術とか弓術とかあるけど、ここであたしが勧誘しているのは弓道と呼ばれる武道よ。弓道っていうのはね、武術の一つで弓で矢を射る術の事を言うのよ、これでいい?」
私は驚いた―――普通高校には普通の奴がいないと思っていたが……
まさかこのようなところで普通の奴に出会うとは。
私は持っていた叡智の書をめくると【
「友だち…友…そうか。私はついに普通の友達と巡り会えたのだな」
「は? あんた何言ってるのかな? まだ初対面の人に向かって友だちって解釈は間違っていると思うよ? 別にもう弓道部に入る必要はないけど、いきなりマブダチだぜ! とかまじ勘弁。あとあたしは部活勧誘したいから、あんたと論争している暇はないの。そんじゃあまたね。同じ一年生だし、もしクラスが同じになったら友だちになるかどうか考えてあげる。じゃ」
その白黒の性別♀はそっぽを向くなり、再びキャッチを始めたようだ。
理由が理由なので私も反論せずトボトボと帰路につく。しかし入学式が終わって瞬時に着替えたのだろうか?
とするならばその判断力と機動力はすさまじいものであるな。ますます友だちにならねば。
私は再び叡智の書を開くと【
「ふむふむ。職権を利用して業者に特別な便宜をする。そして見返りとして得る不正な金品とな……だとすれば先程の♀を合理的に友だちにするには…」
——キキィィ———ゴォン! ———ガシャン——!?
私は『叡智の書』を読んでいるので周囲の状況がよく分からないが、何やら金属同士が接触する音だの急ブレーキをかけたような音が鳴っている。
まったくもってうるさいわけだが、そもそも初めての友だちが出来るかもしれないゆえ、その成功率を向上させるための方法を考えているのだ。
私は足元の前に横断歩道のマークが見えたので、渋々と顔を上げた。何やらそこには金属の破片が飛び散りかつ、箱の中に搭乗しているおっさんやらおばさんやら何やらが私に向かって何か口パクで何か物申している。
うむ、分からん。
「ふむ、見なかった事にしよう」
***
そして次の日の朝、普通高校のクラス表が記載してある書類に目を通す気にもなれないまま教室へと向かった。なぜなら私が専攻している学科はひとつのクラスしかないので、そもそも割りようがない。
事前に段取りしたルートを通り、建築科と書かれた板がくっついている部屋へと入る。ちなみに段取りとは手順の事である。
教室の窓際、その一番後ろ。そこに用意されていた何の面白みもないただの椅子に腰掛けると、私は手に持っていた『叡智の書』を机の上に置いた。
すると私の前に座っていた坊主頭で全然爽やかでも何でもないただのNPC♂がニヤけた表情をしながら私に喋りかけてきた。
「うわぁ〜〜可愛いな〜〜オイラ田中って言うんだ! 君の名前、教えてよ!」
「その必要はないし、そもそも爽やかでもイケメンでもないNPC♂に物申されたところで不快なだけだ。少なくとも私と会話をしたければ論するに値する価値を示してみよ。それが出来ないなら喋りかけてくるな、酸素が無駄に減る」
「こわいな〜〜でもオイラマゾだからさ〜〜大丈夫なんだ〜〜」
「ほう……マゾにはいくつか種類があるが。なら貴様はどのようなマゾに該当するのかは知らんが、私の警告を無視したその罪は重いぞ、さらばだ」
「———え? ———ギャァぁぁぁぁぁぁぁ——」
私は窓を開けると、その生命体をその外に放り投げる。これはつまり採光や換気を目的としその開口部を開けたまでであり、その前に居たNPCは10㍍程重力に引っ張られて落下して行ったようだ。
下には植栽がびっしりあるゆえに絶命する可能性もないしな。これで少しは酸素を無駄に消費しなくて済むだろう。
すると、同じ教室に昨日見た性別♀——いや、友だちが入ってきた。
先程の光景を見ていたのか、笑い顔となりながら私に声をかけてくる。
「あんた無茶苦茶な事するね〜〜頭のネジ吹っ飛んでるみたいだけど、私はそういう奴、嫌いじゃないよ?」
「嫌いじゃない? それはつまり……」
私が『叡智の書』を開こうとしたのだが、その手の動きを封じるように掴まれる。
黒髪の……友だちから名前を教えてと言われた。
「あたし、
「
「はい、じゃあ今日からあんたのニックネームはもりぞうね」
なぜ私の事をもりぞうと名付けたのか聞いてみると「適当」との事。
これはつまり個体名、近藤真央が妥当であり適切と判断したと言う事である。
だが…だが…なぜか納得がいかない。
個体名、近藤真央が私をからかうように笑うと、あたしの事は真央と呼んでとの事。ふと気になったので聞いてみた。
「なぜ私がもりぞうに対して、そちらが真央なのだ? これでは不公平であろう?」
「友だちって認識だからそう思うんじゃない? 親しいって認識で解釈すれば?」
その時私は心のなかで思った。
こやつは——
ガラガラっと教室の前方から誰ぞやが入ってくるなり「朝の会やるっぺ」と発言しおった、どうやらもうそんな時間のようだ。
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