ep9:【条件作文的な!】指定された文章を用いて短編物語を書いてほしい!

主催者:わちお(https://kakuyomu.jp/users/wachio0904)氏 

開催期間:2024年1月22日〜2024年3月30日

趣旨:条件作文――指定された文章を用いて短編物語を書く

ご本家様:https://kakuyomu.jp/user_events/16818023212310818427


ep title:絵画のような青空


小説情報:3000字程度、現代ドラマ、微微百合注意



   ◇ ◇ ◇


〈 Day1 / 放課後 / 帰り道――海の見える道〉


 私、藍城香澄あいしろかすみはずっと「海ばっか見ている人間」だった。そう麦わら帽子が似合う親友・笠根志乃かさねしのがいつも私を紹介するときにからかいながら言っていた。


 彼女はいつも元気で優しいけどもあまり友達を作らなかったが、静寂がただただ好きな私の数少ない親友だった。出会いはたった3か月前、中2の始業式の後の学活で隣の席の転入生・志乃しのが声をかけてくれたことだと思う。


 まるで水と油とまで言えるくらい私達は真逆な性格を持っているのだが、志乃は私の特異すぎる癖まで受け入れてくれた。


 というのも、昔から私は何かに集中してしまうと他人の声が聞こえなくなる癖がある人間だ。アスリートでかっこつけて言うならゾーンが近いか、波の音や風に揺れる木々の音。時には何てことのない帰り道の風景にも見入ってしまったことがある。


 その時はなんだか、気分がなんだか落ち着く。それを受け入れてくれたのは志乃ただ一人だけだった。



 今日も一緒に岬の見える帰り道、自転車を押して一緒に帰った。空がなんで青いのか、山はなんで緑なのか、そうやって中身のないような話を私にかけてくれる。その言葉一つ一つが暖かくて、暖かくて……。


志乃:「それじゃ、また明日」


香澄:「うん、また明日」


 私は手を振った。いつも麦わら帽子をかぶっている彼女が自転車に乗るとすぐにセーラー服を着た砂浜色のポニーテールが小さくなっていく。それをただ私はまたいつものように見つめていた。


 彼女が完全に姿を消してから、少し夏という季節ながら寒気がやってきた。夕焼け空に支配され始めた青空の下、私は歩いて家へと帰った。



   ◇ ◇ ◇


〈 Day2 / 放課後 / 帰り道――海の見える道〉


志乃:「ね、香澄、あの雲とかおいしそうじゃない?」


 志乃だけが自転車を押す帰り道、季節柄にあってセミがうるさく鳴き叫んでいる。彼女が指差す方向には空の彼方。私達がジャンプしてもずっと届かない淡くて少し夕焼けに支配された青に浮かんでいるのはまるでマシュマロのような雲だった。真っ白で、小さくて、それがまるでこぼしたように散らばっている。


香澄:「そうだね」


 私は首を縦に振った。左から右に目に見えて流されていく白雲。あの空高いところは風が凄いのだろうか、マシュマロのような雲が押し流されていく。でもまた左からマシュマロのような白雲がやってきてはどっかに消えて、引き寄せ押し流される。


 私たちはまた少し黙ってしまう。私から何か切り出せればいいのに、話の話題が出て来ないのだ。


志乃:「ねえ、香澄、私……」


 そういつもと違ってナイーブな声を志乃は出した。その声に私は彼女の顔を見る。少しドキリっとしたその声。目をそらしてうつむく彼女は「ううん、何でもない……」って彼女は首を振った。


志乃:「そうそう、もうすぐ夏休みだけど、香澄何する?」


 そう強引に話を切り替えた。少し生暖かい風が吹いた。髪がたなびいて、それで彼女の匂いが鼻を包み込む。


 私はこう伝えた。



香澄:「志乃といたい」



 何も恥ずかしいとも思わない、ただ私がそう思うっていうだけ。でも言葉に志乃は言葉を失った。ただ志乃にとって一番うれしくて苦しい一言だったということを私は知る由もなかった。


志乃:「じゃあ、明日も一緒に帰ろ?」


 私は大きくうなづいた。志乃はカバンから水筒を取り出した。歩きながら水を口にして、一つ息を吸う。その様子をまるで背景として眺めているようにしていると、志乃がにっこり笑った。



 その後はいつもと何にも変わらないように話していた。さっきの雲の話の続きに、部活の話。どれもいつものように元気な彼女が見れた。でも少し志乃の足が速かった気がした。


 いつもの分かれ道、志乃は自転車にまたがる。


志乃:「それじゃ、また明日」


香澄:「また明日」


 私は手を振った。いつもの志乃の後ろ姿。麦わら帽子が目立つ後ろ姿を私はまたいつものように見つめていた。


 でも今日も寒気がする。気象予報は明日も快晴と言っていたような。よく覚えていない。


 ゆっくりとまた私はいつものように一人で帰った。

 


   ◇ ◇ ◇


〈 Day3 / 放課後 / 帰り道――海の見える道〉


 今日もいつものように私は二人で帰った。でも今日を通して少し志乃の顔色が良くなかった。私が「大丈夫?」って聞いても「大丈夫」の一点張り。それで今日という一日を過ごした。


志乃:「ねえ、香澄……」


 そう志乃が急に立ち止まって名前を呼んだ。その顔を見ると、やっぱり苦しそうだった。「どうしたの?」そう聞いてみると志乃は海の方向を見ていた。


志乃:「今日、二人で海を見たいんだけど、いいかな?」


 私は志乃の指差す方向を見た。いつもの帰り道。揺らめいている波。穏やかな波の音。引き寄せられるように私はうなづいていた。


◇ ◇ ◇



 自転車を邪魔にならない場所に止めて、私たちはベンチに座って海に向かう。波はいつものように穏やかで昨日より若干潮が低い。この岬はこの最高の背景の割には人が全く来ない。夏祭りの時に時々使われるくらいで、その時は少しだけにぎわうくらいだろう。


 ――やっぱり落ち着くな……。


 波のさざめき。松の木に止まっているアブラゼミが酷く鳴いていて、あの鳴き声が残響として残っていく感覚。太陽の陽射しを常備している日傘で遮り、海風が少し冷たくて顔がほころんでしまう。


志乃:「ねえ、香澄……」


 そうさっきのような声のトーンで彼女は私に問う。「どうしたの?」って顔を向けると志乃は目を合わせてこういった。



志乃:「私も、香澄のことが大好きなの。だからずっとずっと一緒にいたい……」



 その言葉に私は目を見開いた。「え……」としか声が出てこない。志乃は私の反応を見てから目をつむった。


志乃:「やっぱり、こうやって香澄に言うの、恥ずかしいな」


 そう志乃が笑顔を作った。でも顔が真っ赤で、目が笑えていない。私は何か返さないとと、口を開くけど言葉が上手く出てこない……。でも……。



香澄:「嬉しい」



 ただこれだけは伝えた。いや、まるで夏の魔法で操られているように、私は自然とこの言葉を口にしたのだ。


 志乃はその言葉を聞いた途端に、顔から火が噴き上がりそうだった。


志乃:「ありがとう、ちょっとトイレで席外すね」


 そう志乃は麦わら帽子の後ろ姿を私に見せた。それはまるで逃げるように、私が一緒に行こうって言う時間さえももらえなかった。無気力に私は日傘を置いて空を眺める。今日はとても長くて地平線まで続く飛行機雲が浮かんでいた。




『絵の具で塗ったような、そんな青空は私の届けたい想いすらも飲み込んでしまったのだろうか。


 「待って!」という声もきっと今は届かない。


 昔は、辿っていけばどこまでも行けそうな気がしたひこうき雲も、今は私を置いてどこかへ飛んでいくだけになった。


 被っていた麦わら帽子を脱いで遠くの空を見上げる。


 そこに大きく存在していた入道雲と、目が合ったような気がした。』




 ――明日は雨でも降るのだろうか……。


 そうぼんやりとまたこの景色を眺めていた。


志乃:「お待たせ!」


 その言葉と同時に左肩を叩かれた。振り返るとそこには満面の笑みの志乃がいた。でも目が少し赤い。鼻も少しすすっていた。


 すると普段何も考えていない私の中に珍しく我ながらロマンチックなアイデアが浮かんだ。


香澄:「ねえ、志乃、一緒にトイレ行かない?」


 私はそう志乃に聞いてみた。でも志乃は笑ってごまかす。


志乃:「え、さっき、私トイレ行ってきたよ?」


 そういってベンチに座る志乃。私は無言で彼女の手を取る。少し冷たくて、でもじんわりと温かい手だった。



香澄:「私も志乃と一緒にいたいから、だからついてきて」



 そうこのセリフを言うと頭が熱くなった。気恥ずかしくて今にも目を背けてしまいたい。志乃はあっけにとられていたが、でも今度は声を上げて笑ってくれた。


志乃:「いいよ、一緒に行こう」


 そう志乃は私の体に抱き着いて言ってくれた。少し歩きずらいけどそれでいい。そう思って私は笑った。



 今、心の中がとっても暖かい、むしろ暑いくらいだ。だって今、私は志乃と一緒に歩いていたから。


 ep:絵画のような青空

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