ep10:【三題噺 #52】「告白」「正直」「無名」

主催者:柴田 恭太朗(https://kakuyomu.jp/users/sofia_2020)氏

開催期間;2024年2月7日〜 2024年2月14日 22:00

趣旨:三題噺――「告白」「正直」「無名」を作品本文中に『文字で』登場させる。テーマ、サブテーマ、一瞬登場するだけでもOKとのこと。

ご本家様:https://kakuyomu.jp/user_events/16818023213158639357




〈 Feb.13 / 8:00 / 佐世保南東中学校・2-2教室〉


貴光:「なあ、聞いてくれよ秋戸!」


秋戸:「は?」


 朝一番、秋戸を訪ねたのは隣のクラスにいる友達・木橋貴光きばしたかみつだった。そして彼・桜枝秋戸さくらえあきとはけだるそうに貴光に聞いた。


貴光:「トリックオアトリート! チョコを悪戯するぞ」


秋戸:「なんでチョコをあげたうえに、悪戯されなきゃいけねぇんだ! おまけにもう2月だろ!?」


 秋戸のツッコミに貴光は「えーなんで!」と聞き返す。


貴光:「せっかくのなんだからチョコの一つや二つや三つくらいもらえると思ったのに!」


秋戸:「バレタインデーってなんだよ、仮装大会で子供の前で着ぐるみを脱ぎたいのかよ!」


貴光:「ハロウィーンだけに……」


 秋戸――だからハロウィン関係ねぇよ!


 その勢いだけはM1決勝クラスの貴光のネタに俺は苦笑いを作りながらあしらった。今日は2月13日。そうバレンタインデー前日だ。


 秋戸――そう、だ!


秋戸:「チョコチョコ言ってるけどそもそもバレンタインデーは明日だろ!」


 そう秋戸が言うと貴光は突然黙りこんだ。この教室に飾られたカレンダーをジッと見に行って静止。


 そして「うわーお!」っていう声を上げてこっちに戻ってくる。


貴光:「ほんとに明日だ! わーい! チョコレートがもらえるもらえる!」


 秋戸――もらえるとは限らないんだよな……。


 そう秋戸は「まあな」と相槌打って誤魔化す。すると貴光は話を大きく変えた。


貴光:「所で、建都君はどこ、どこ?」


 そう貴光が首を右に左にと動かす。でも無論、建都――神崎建都かみざきけんとはまだこの学校には来ていない。


秋戸:「建都ならいつも通り寝坊だよ。確か昨日『春眠暁を覚えず』ってメールが送られてきたぞ」


 ちょっと前に習った五言絶句、孟浩然もうこうねん作の春暁しゅんぎょうの言葉をこんな形で使ってくる建都に貴光は腹を抱えて笑っていた。


貴光:「なにそれw 評価落つること知る多少って感じか?」


秋戸:「(意訳すると)評価はどれほど落ちてしまったのだろうか。まあ、寝坊に限ってはカンストしてるからね、落とそうにも落ちない」


 と貴光の前ではごまかした。でも彼の寝坊は昔っからの夜行性かつ不眠症によるもの。小学校の時にお泊り会を開いたが寝付けないことを言われた。寝たくても寝れない。だから当時の俺はどうにか付き合っていると朝陽が見えたのは良い思い出だ。


 秋戸――あいつは眠るのに人一倍苦労している。だからこうやって寝坊してもらえるとちゃんと寝れたんだだなって俺は安心するんだけどな……。


 俺のコメントにまた貴光が笑ったところで「おっはー!」っていう声が横から聞こえた。


貴光:「あ、ノブ、おっはー!」


秋戸:「おはよう、信国」


 ノブ、この学校で『ノブラジ』を担当する霧立信国きりたちのぶくにが秋戸の隣の席に座って荷物を置く。


信国:「にしても、今日も建都はお寝坊かい?」


貴光:「その通り、流石はやぶれかぶれに怪談話をする名探偵・伝説の寝坊王だな」


 そう建都にまつわる通り名を一度に読み漁った貴光。それに来て早々、信国は大きく頷いた。


 建都の不眠症を知ってるのは数少なく、今や児童数減少で廃校になった小学校出身の12人しかいない。


 ところで遅刻ギリギリ来ることに定評のある信国が来たってことは……。


 キーンコーンカーンコーンっていうチャイムの音。貴光が「あ、時間か、またねー」と元のクラスに帰っていく貴光を尻目に学校生活は始まっていった。




〈 Feb.13 / 12:30 / 佐世保南東中学校・2-2教室〉


貴光:「っで、建都教授、今日の依頼はどんな感じ?」


 10時くらいから学校にきた建都が眠たそうに大きなあくびをかました。いつも通り、貴光は噂を聞くのがとても得意な建都に聞いた。今から俺、建都、信国、貴光の四人で特異現象捜査部とくいげんしょうそうさぶの情報収集会議の時間だ。ちなみに部員は+ヒロイン2人+クルミ先生で構成されている。


 その教祖が霊感と不眠症持ちの建都。建都が顔の前で手を組み渋い顔をしている。


建都:「一つだけ。まあ、怪異っていうよりは、よこしまな人間の真っ黒い願望だけが今やひどく噂されているくらいだね」


信国:「ほう、邪で真っ黒い噂とは……!」


 まるで新聞記者のような信国の取材に建都は大きなため息をついた。


建都:「『されたい!』だってさ」


 3人――は?


 まるでここがSNSだったら例の『huhcat猫が「は?」って言うあれ』が登場するだろうか。


貴光:「建都、お前寝ぼけてないか?」


建都:「コレガチ」


秋戸:「ナ、ナンダッテー!」


 この『乗らないとですね、このネットスラングのビックウェーブ』状態だったので俺もその勢いのままに話すと建都は一度野球で言う『タイム!』の文字を作った。


建都:「まあ、一度冷静になろう、とりあえず、お茶でも飲もう!」


 そうして俺たちは水筒のお茶を飲んでみる。



〈 少年飲水中〉



建都:「よし、今回の怪異の噂だが内容だが、もう一度宣言する」


貴光:「ktkr(゚∀゚)キタコレ!!


 そうネットミームに囚われている貴光を尻目に建都は宣言する。再び顔前で腕を組む建都、自然と握っているシャーペンに力の入る信国、そのころ桜枝秋戸は大きなあくびをかましていた。


建都:「今回の噂だが『告白されたい!』だった」


 3人――は?


貴光:「冗談はよしてくれよ、建都」


建都:「マジこれ」


 それに信国は首を傾げた。


信国:「ってことは、今日はに言ってなし?」


 それに建都は瞳を閉じて大きく頷いた。それに俺たちは大きく笑った。


建都:「もう! なんで貴光タカちゃんは『っで、建都教授、今日の依頼はどんな感じ?』って聞くの!」


貴光:「だって……、バレンタインデーですから」


秋戸:「理由になってないし、明日だから!」


 そうツッコミを入れると貴光は『てへぺろ☆』って男気愛嬌。それに信国と俺は苦笑い、建都はあくびでごまかした。


貴光:「ってことで、今日の活動はお休みかな、バレンタインイブだし?」


 たいそう聞かない言葉を操る貴光が聞くと噂がないからねー、と建都はうなづく。すると死んだ魚のような目で信国が一言ぼそり。


信国:「ま、俺は放送部があるから正直言って関係ないんだけどね」


 まるで3轍目に差し掛かった社畜のごとき信国の目に同情を書けるように俺も肩に手を差し伸べる。


秋戸:「安心してくれ、俺もぶっちゃけ生徒会の仕事があるからね☆」


 そう言って俺たちは笑いあった。信国とハグを交わし、俺たちの会議は無収穫に終わった。



 秋戸――ところでなんで今日、貴光はあそこまでバレンタインデーに固執したのだろうか。


 秋戸はただ一つ残った疑問を残したまま背中を見せる貴光を見送った。




〈 Feb.14 / 7:30 / 佐世保南東中学校・秋戸の靴箱〉


 よく晴れた冬晴れ。でも無駄に寒い空気を切る自転車はいつも通り冷たい道を走ってきた。やっと着いた学校、手袋着用しながら手をこする合わせてポストのような形状の靴箱を覗くといつものスリッパと小さな箱が入っていた。


 それを疑いの目で開けてみると中にはチョコレートと小さな手紙。それに「マジで?」と内心思いながら、箱に戻し、それを手にしながら俺は自分の席に座った。


◇ ◇ ◇


 秋戸は席に座って箱を再度開けてみる。そこにはトリュフのようなチョコが一つと手紙が入っていた。


『ハッピー、秋戸もたまにはしっかりと休むんだぞ』


 の手紙。でもこんな誤字をする奴は1人しかいない。


 秋戸――本当に、どれだけだかな……。


 俺はそいつの顔を思い出しながらそのチョコを口に入れた。




   aftere pisode 秋戸の日記


 ――許さんぞ木橋貴光きばしたかみつ


 そう俺が思うのはなぜか。それは、バレンタインデーにもらったチョコを食べると凄く眠たくなったのだ。


 そう、チョコレートの中に睡眠導入剤を入れられていたのだ。そのせいで信国に「怪異・何度体を揺らしても起きない生徒会長」っていい感じに弱みを握られたのだ。ちなみに、生徒会長の特権で来年の放送部の部費1割増しでノブラジでの暴露を防ぐに至ったのだ(これでいいのか生徒会長)。


 ちなみに容疑者として名前の挙がっている貴光君の証言。


貴光:「だって、秋戸疲れてそうだったじゃん」


 確かにそうだけども、やり方が犯罪者のそれなのだ。ちなみに信国も配られた睡眠薬入りのチョコレートは建都が美味しく頂きました。



 余談だが、Feb.15――バレンタインデー翌日の建都が言った怪異はこれだった。


建都:「最近の怪異、っていうよりただの噂だけど……」


建都:「『会長桜枝、朝一番爆睡をカマス!』……、秋戸、どうしたん?」


 これに、俺はそっと目をそらしたのは言うまでもない。


 ――日記はここで途切れている。(ep end)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る