第16話 久々の団欒と憂慮

12月2日午後5時、喫茶ジェヘナに帰宅。もちろん会津高原も連れて。

玉川 好「あら、恋。」

奥羽 澪「希ちゃん!」

会津高原 希「こんばんは。」

白神 恋「済まない。少し貸切にしていいか?」

大館 馨「ええ、全然構わないわ。壮からのお達しで、ご丁重に扱えとのことだから。」


白神 恋「奥羽の真意はなんだ?別に知らなければ知らないと言っていいが。」

会津高原 希「一連の行動についてね。私も詳細は聞かされてないけれど、貴方の命を奪おうなんて考えてないと思う。」

大館 馨「それは私も同意。」

白神 恋「なるほど。まあそれは合点がいく。立川から出さないのもそれか?」

会津高原 希「ええ。今は多分話題にもならないけれど、歌舞伎町に行ったら分かりやすい。今あそこは危険地帯。」

白神 恋「危険地帯...邪竜か?」

会津高原 希「そう。しかも恐ろしいのが、日本人の構成員も増えてきていること。もう誰がマフィアかなんて、見分けがつかない。ここ2ヶ月でお宮入事件が多発している。」

白神 恋「本当か...。愛が心配だな。病院にいるとはいえ。」

乳頭 慶「歌舞伎町じゃ無ければ、または同伴とかなら行かせて貰えないのか?」

会津高原 希「うーん、出すなとしか言われてないし。ただ、壮の態度を見るにそこまで硬化していないはず。可能性はある。」

玉川 好「奥羽に会えない?」

会津高原 希「私が言えば、すぐにとは行かずとも会えるかも。いや、会うべき。」

白神 恋「それはどういうこと?」

会津高原 希「今蛇竜の総帥。一般人には知りえないけど。帳志堅二世になってるの。」

白神 恋「二世...!?いつの間に!?誰だ!?」

会津高原 希「李俊豪。あの金華楼のオーナー。クーデターによってね。壮も仰天してたわ。人間って、誰が野心を抱えてるなんて分からないものね。それはともかく」

会津高原は俺の目を見て

会津高原 希「壮は自分じゃ勝ち目がないって。それ程の相手なの。私、貴方がこの争いを解す鍵となるって確信してるの。」

白神 恋「...。」

乳頭 慶「恋...。」

会津高原 希「壮の目的は貴方たちの排除じゃ無い。だから」

白神 恋「会津高原」

俺は目を逸らしながら

白神 恋「俺はそんな出来た人間じゃない。自分の妹が事故にあったと聞いて、それからはもうグダグダだ。」

玉川 好「恋...。」

白神 恋「あの奥羽と言うやつも、前の俺なら体格とか関係なく倒していただろう。北澤相手でさえも打撲1つ付けられて、20中盤というのに心理的に衰えてしまった。」

玉川 好「...。」

2人とも否定しなかった。実際あれから成し遂げたことといえば、料理くらいだ。自分にとっては大きな進歩だが、世間はそれでは許してくれないだろう。会津高原始め、周りの人間は戦いを迫ってくる。しかし情けないことに、自分はそのしがらみから抜けられない。それはやはり、

田沢 良「もしここで戦いを放棄するなら、僕も君を放棄しなくちゃ行けなくなる。だって君は戦ってこそ価値があるんだから。」

白神 恋「良」

その声はガジェットのイヤホンから発していた。彼はその場にはいない。

田沢 良「無理と言うならいい。退職金に殺し屋を送るけど。」

自分が入った世界はこういう物だった。分かっていた。やはり自分はやらなくちゃ行けない。

白神 恋「壮はどこに来る?」

会津高原 希「第3ビルの事務所に呼ぶ。あ、彼のこと、若頭の「頭」って呼ぶといいと思う。みんなそうしてる。」

白神 恋「ほー...若頭?」

奥羽 澪「昔本物の極道だった時の、最終的な階級だよ。」

白神 恋「ふーん。」

乳頭 慶「えーと、ところでさ、若頭時代の奥羽ってどんなやつだったんだ?今のも知らないけど。」

奥羽 澪「ウチが直接所属してた訳じゃないけれど、ドスを両手に持って戦ってたような...。」

玉川 好「クレイジーだな...。」

奥羽 澪「ほんで、めっちゃ強い。なんせ、拳銃弾くらいなら弾けちゃうんだもん。あ、せやけどウチの吹き矢にはやたら弱いけども。」

吹き矢...?不思議な武器を使ってるのか?

大盾 馨「昔大勢のトンプソンサブマシンガン相手に善戦した時は感動したな〜。あのクーデターを抑えて若頭になったんだもん。」

乳頭 慶「人に歴史ありだな。」


まさにだな...とか、俺もライフル弾まで躱せることを自己申告しようと考えていた時、こんな遅くに来客が来た。その人物は

沢田 剛「ご無沙汰したな。恋。」

白神 恋「沢田さん...!」

この低音よりの中音の声はと振り返ると、久々に親交の深い人物、しかも上司に出逢えた。この方は沢田 剛(さわだ ごう)。ただし、直接的な構成員ではなく、あくまで公安警察から支援してもらっていた。

白神 恋「申し訳ございません。携帯等を没収されていまして。他の通話機器を取ろうにもリスクが...。」

沢田 剛「いや、いいんだ。君らが無事ならそれで。」

大盾 馨「どうしてここが...?」

大盾は唖然としているようだった。

沢田 剛「国家の諜報機関だ。それくらい容易いものだろう。」

乳頭 慶「俺はむしろ遅いと思ったけどな。」

沢田 剛「それは申し訳ない。NYが強烈に幅をきかせててな...」

そう言うと、沢田さんは、俺の周りにいる人物(主に会津高原や奥羽妹)に目を配り、

沢田 剛「...どうやら、今私はお呼びでないようだ。恋君に話があったが、また今度にする。」

そう言って、店を後にした。

会津高原 希「何しに来たの?。」

白神 恋「さあ...。」

ここで聞かれたくなかいような内容か?それなら別の場所に移動すればいいと思ったから、何かあるのだろう。

大盾 馨「さて、もう店じまいよ。」


田沢 良「やあ恋。」

自身の部屋に戻ってみると、良の姿があった。

白神 恋「なんだあの脅しは。おかげで奥羽 壮と対峙しなくちゃならなくなったじゃ無いか。」

田沢 良「それじゃ、この結界の中で一生燻ってる気だったか?」

白神 恋「それは本心じゃないが。あと、「結界」?」

そう聞くと、田沢はPCでここ周辺のマップを開いた。

田沢 良「ホームレスの連中と繋がらなくなったから、自前で調べてたんだ。そうすると、今都心で幅を聞かせてる中国マフィアが、やけにこの都市に侵入しないのに気が付いた。」

白神 恋「なるほど、だから結界か。原因は間違いなく...。」

田沢 良「NYだろうな。」

結果的に必要悪になっているということか。そう思っていた時、突如として後ろに人気が現れた。そして、

乳頭 慶「結界が決壊...か。」

白神 恋「...。」

田沢 良「...。」

乳頭 慶「...済まない。」

彼の余計な一言のせいで、この町の行く末を憂いてしまった。...いや、まさかな。しかしそのまさかは、すでに恋の近くに迫っていた...。






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公営マフィア 昭島 吾朗 @KAKIJAKIYOMUYOMU

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