ざわめく心
ここ数週間、ルゼルは国と魔法協会から協力を求められて行方不明者の捜索と原因探索を行なっていたらしく、ソフィーが書斎に入ったときにルゼルが見ていた書類は犯人が魔法使いであると仮定した場合の、罪を犯しそうな危険な魔法使いの一覧表だったらしい。
徐々に広がり行く行方不明者発生の範囲。もし行方不明者が動物に姿を変えられていたとして、これだけ多くの人に魔法をかけられる魔力を保持している魔法使い。
それらすべての情報をまとめて、推測して、ルゼルは犯人をある程度の人数まで絞ることができたようだ。
「では、行ってきます!」
「危険を感じたらすぐに逃げるように」
「わかりました!」
ソフィーの変身魔法をかけられた人間捜索は、同じくソフィーも変身魔法をかけられた状態でないとできない。
そうでないと動物がなんて言っているのか聞こえないからだ。
ソフィーは体質的に魔法をかけられた後の倦怠感などの副作用が出ないことを利用して、ここ数日ルゼルの許可をとって毎日街に繰り出しては変身魔法をかけられた人を見つけ出して屋敷に連れて帰った。
魔法を解かれた人々は元の姿に戻るものの、やはり最初にソフィーが見つけたフクロウの子と同じくみんな倒れ込んでしまい、無駄に広く使われていなかった客室は臨時的に魔法の副作用で倒れた人たちを休ませる部屋になった。
地元の医師も協力してくれて、発熱が治った人たちは自らの足で家に帰っていく。
行方不明者の捜索はふもとの街までというルゼルと約束をしたので、捜索範囲は広げられていないが風の噂で聞いたのか、自発的にルゼルの屋敷を訪れる魔法をかけられた者も出てきて、行方不明者捜索はかなり順調にできている。
「ソフィーの頑張りのおかげだよ」
ルゼルに言われた言葉を思い出し、ソフィーは頬を緩ませた。
正直なところ、姿を戻してくれる魔法使いがいるという噂が流れ始めた時点でソフィーが捜索に出る必要は減ってきていたが、もしかしたら噂を知らずに一人泣いている人がいるのかもしれない。
だから今日もソフィーは街を探索して魔法使いに変身魔法をかけられた人を探していた。
「ありがとう。これでやっと居場所がわかッたよ」
「え?」
ソフィーがいつも通りうさぎ姿で街の中を飛び回っていると、ふと上空から声が聞こえて立ち止まった。周囲を見渡すが誰もいない。
「気のせい……? いや」
聞いたことのある声だった。どくどくと心臓がいやな音を立てる。
ひんやりとした氷を当てられたみたいに急に寒気を感じて、ソフィーは考えるよりも先に地面を蹴っていた。
向かうのはルゼルのいる屋敷。今はルゼルの他にも客室に三人の患者と医師がいるはずだ。
「ルゼルさまっ!」
ルゼルの名を呼びながら懸命に走る。
ソフィーが行方不明者が多発する原因、犯人は魔法使いではないかと言ったあの日、ルゼルはもしそうだとして犯行動機がわからないと言った。
それがもし、誰かに危害を加えること自体が目的ではなく魔法を解除できる人間を探すのが目的だったとしたら。
あくまで変身魔法を使ったのは目的ではなくそれに至るまでの手段だったとしたら。
当たってほしくないいやな予感――女の勘というやつだろうか。
ソフィーの心の中を表すようにざわめく木々の隙間を縫って屋敷へ、犯人が向かったであろうルゼルの元へと足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます