第14話 新たな物語の幕開け?
サークル棟前で沢田さんと別れた俺達は、千春さんの車が停まっている駐車場まで戻ってきた。行きの時は座る場所でじゃんけんしていたが、今回はどうなるんだ?
「紗香ちゃん、良かったら私の隣良いかしら? おしゃべりしたいから♪」
「別にいーよ」
千春さんの誘いを受けた紗香ちゃんは助手席が確定した。つまり、俺・光・静ちゃんは後部座席になる。
「お兄ちゃんはもちろん真ん中ね」
「良いですよね? 照さん?」
2人が有無を言わせない熱い視線を送ってくる。これは選択の余地なしだ。
「良いよ」
全員乗り込んだ後、車は発進する。その後すぐに両隣の2人にシコシコされるのだった…。
「紗香ちゃんって今中学3年生だけど、高校生になったらバイトしたいと思った事ある?」
銭湯『千夏と千春』に戻る道すがら、千春さんが尋ねる。
「もちろん。欲しいものはたくさんあるし」
「やっぱりそうよね~。…ねぇ、良かったらだけど」
「何?」
「うちで働いてみない?」
「あたしが銭湯で?」
「ええ♪ 紗香ちゃんなら大丈夫かな~と思うんだけど…」
俺の知らないところで苦労してるのか紗香ちゃんに社会勉強させたいのか、千春さんの真意はわからない…。
「興味はあるから、いろいろ教えてよ」
彼女は乗り気か。
「ありがとう♪ 今考えてるのは『アメニティの補充と営業中の男湯・女湯のお掃除』かな♪」
「営業中なのに男湯に入って良いの?」
紗香ちゃんがそう言うのは当然だ。普通はダメだからな。
「その事はちゃんとお客さんに伝えてあるから大丈夫♪」
今まで貸し切り温泉だけ利用してるから、そういうルールがあるのを知らなかった。
「…ってことはさぁ、見放題だよね?」
テンションを上げる紗香ちゃん。
「タオルで隠してなければね♪」
「良いところじゃ~ん!」
観るのが目的になりそうで心配だ。
「営業前に玲君がしっかりお掃除してくれてるから、紗香ちゃんの負担は少ないはずよ♪」
「そうなんだ」
「話だけ聴いてもピンと来ないかもしれないから、今度見学してみる?」
「する。絶対する!」
この話をするために、千春さんは紗香ちゃんを助手席に誘ったんだな。
さっきの話を聴いて疑問に思ったことがある。ついでに訊いてみるか。
「千春さん。さっき言ってた仕事内容って、玲さんもしたことあるんですか?」
大人しい玲さんが営業中の女湯に入るとは思えないが…。
「もちろんあるわよ♪ 私の付き添いで初めて女湯に入った時の玲君、とても可愛かったわ~♪」
「可愛い…ですか?」
「ええ♪ あの子をスカウトしたのは高校1年生の時だけど、顔から火から出そうなぐらい恥ずかしがってたわね♪」
刺激が強いからな。光と初めてHする前の純粋な俺なら、同じ反応をしたかも。
「一部のお客さんに『可愛いわね~』とか『女の裸観たことある?』みたいにからかわれたこともあったっけ♪ 懐かしいわ~♪」
「…ずいぶん積極的な女性が多いんですね」
余裕があるとも言えるが。
「千夏ちゃんが“なんとかは引かれ合う”とか言ってたわね。なんだったっけ…?」
全然わからないので助言できそうにない…。
「とにかく、千夏ちゃんと結婚する前の玲君は営業中の女湯のお掃除をしてたのよ♪ けど大学卒業後の結婚を機に、入るのを止めたの」
「何で~?」
紗香ちゃんがツッコむ。
「『この歳で女湯に入るのは、さすがにマズいです』だって。お客さんは気にしないはずだけど、あの子は真面目だから」
「じゃあさぁ、2人は男湯に入るの?」
千春さんと千夏さんのことだな。個人的に愚問だと思うが…。
「もちろん入るわよ♪ あっちのチェックも欠かせないわ♪」
思った通りだった。チェックの仕方が気になるな…。
「そっか。じゃあ女湯を掃除する人手が足りないね」
男湯は3人体制で掃除できるが、女湯は2人になるからな。
「だからH大好きで女の子の紗香ちゃんに声をかけたのよ♪」
「なるほどね~」
千春さんが運転する車は銭湯に到着したので、俺達は現地解散した。彼女はこれから仕事だもんな。別れ際に応援の言葉をかけておいた。
車内で話していたバイトの件だが、紗香ちゃんは高校入学と同時に銭湯で働き始めた。1人ではなく、あるクラスメートと共にだが…。
その話は別の機会で語るとしよう。
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