第9話 大学祭④ ついに始まる下ネタイベント

 俺達は千春さんを連れてサークル棟前にやって来た。後は責任者の川宮君が何とかしてくれるらしいけど…。


正門付近ほどじゃないが、サークル棟前にも多くの人がいる。模擬店や展覧会があるから、関係者とお客さんが入り混じっているのだ。


うまく川宮君を探すことができたら…。


…待てよ、千春さんは川宮君に会ったことがあるはずだ。だって彼が銭湯に行って直接スカウトしたらしいし。(第2部 4話参照)


そう思って彼女に訊こうとした時、男子2人と女子1人の計3人グループがこっちを観た。あの中に川宮君がいる? 偶然見ただけか?


…いや、偶然じゃないな。グループの女子1人が俺達のほうに来たぞ。


「久しぶり。ちはっさ~ん!」


何だ? この人は千春さんを知ってるのか?


「恵ちゃん、相変わらず元気いっぱいね♪」


「元気がウチの取柄だから!」


その言葉通り、ハキハキとした印象で声も大きめだ。


「千春さん。この人知り合いなんですか?」


「ええ♪ この子は沢田さわだ めぐみちゃん。常連さんに“沢田さん”というタクシーの運転手さんがいるんだけど、その人の姪っ子さんなの♪」


「みんな、よろしゅう!」


『よろしゅう』って方言だよな? そのあたりの出身か?


「ウチは気分とノリで使うだけだから、細かいことはなしだよ」


顔に出ていたのか、沢田さんにツッコまれた。


「そうですか…」


「あのさ~、そろそろ良い?」

話の途中で追い付いてきたさっきのグループの男子2人の内、1人が声をかける。


声をかけてきたのは黒髪でスポーツ刈りの男子で、彼の隣にいるのは黒のキノコヘアーに加え黒メガネをかけている。


「あ、悪いね。川宮君」


彼が川宮君か。沢田さんとはどういう関係なんだ?


「千春さん、お忙しい中来てくれて嬉しいです」


「ありがとう♪ 私も若い頃に戻ったつもりで楽しんでるわ♪」


「それは良かった」


さっきから気になってるのは、どこで下ネタイベントをやる気なんだ? 3人がいたところにテントは張ってなかったし…。


「詳しくは部室で説明したいんだけど…」

川宮君は俺をチラ見した後、光達女子をじっくり見る。


「君達は『飛び入り参加』ってことで良いのかな?」


紗香ちゃんは喜んで参加しそうだが、光は微妙で静ちゃんは拒否するだろうな。


「いや、俺達4人は千春さんの同伴者だよ。ここに案内するためにね」


「そうなのか。まぁ、気が向いたらいつでも参加してくれよ!」


川宮君は軽快に話すものの、キノコヘアーの男子は全然話す気配を見せない。


「おい田中! お前もなんか話せ!」


「だって、こんなに多くの女子がいるから…」


現在、男子3人と女子5人になる。…千春さんをその枠に入れたら失礼かもな。


「すみませんね~。コイツ、全然女子慣れしてないもので」


「良いのよ♪ 少しずつ慣れていけば良いから♪」


「は…はい」


さすが千春さん。誰が相手でも優しい。その後、俺達全員自己紹介を済ませる。


「オレが先導するので、みんな付いて来てくれ!」


「ウチは最後尾にするわ~。部室の場所わかってるし」


先頭の川宮君・田中君に付いて行き、俺達はサークル棟の中に入る。



 川宮君と田中君がある部屋に入ったので、俺達も続く。


…部室の奥に折り畳み長机1台とパイプ椅子が2脚セットされており、机の上には多くのバナナが置いてある。あれを“男性の気を引きながら食べる”というのが、今回の下ネタイベントになる。


他に気になるのは、デスクトップのパソコンだ。バナナが置いてある机とは別の机に3台ある。3台ってことは、部員は3人なのか?


「オレと田中以外に『安藤』って奴がいるんだけど、あいつは超変わり者でね。オレ達以外の人と滅多に話さないんだ。だからここにはいない。パソコンの腕は超凄いけど」


「ここって、何部なのかしら?」

千春さんがキョロキョロしながら尋ねる。


「“パソコンゲーム研究部”になります。ゲームといっても、オレ達が研究するのはR18ですけど…」


言い終わってから、川宮君は紗香ちゃんを見る。よりによって彼女を見るって事は、おそらくグロ系じゃなくてエロ方面だな。


「R18? Hなゲームよね?」


千春さんの目が輝いている。見たくて仕方がないんだな。


「千春さんと沢田さんが下ネタOKなのは知ってますが、他の人達は…?」


「みんなOKなタイプだから安心して♪」


「良いことを聴けました。セーブできる自信がないもので…」


それはそれで問題だろ。そうツッコまざるを得ない。



 「ねぇ川宮君。バナナの甘いニオイでお腹減ってきちゃった。そろそろ始めたいんだけど…」


千春さんの言う通り、良いニオイが部室を漂っている。バナナのシュガースポットは程よく出ており、まさに食べごろだろう。


「わかりました。食べる様子を録画しますがよろしいですか?」


何で録画するんだ? 見るだけじゃ満足できないのか?


「…変なところに公開しないわよね?」

不安そうな顔をする千春さん。


「しません! あくまでオレ達3人が楽しむためですから。バナナにモザイクをかけてね」


そのモザイク加工は、多分さっき言ってた安藤君がやるんだろう。


「ちゃんと約束できるなら良いわよ♪」


「よっしゃー! 録画は任せたぞ田中!」


「うん…」


千春さんはパイプ椅子に座り、バナナの皮をむき始める…。

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