第4話 銭湯で聴く面白い話②

 銭湯『千夏と千春』の貸し切り温泉を満喫して帰ろうとした時、フロントにいる千夏さんから話を持ち掛けられた。


何でも、銭湯のマスコットキャラの構図を考えて欲しいとか。を使うのが条件らしいけど…。



 「…ここで話すと、お客さんがフロントに来づらいわね。場所を変えよっか」


「そうですね」


特に異論はないので、俺達は千夏さんに従うことにした。


「玲。後は任せた!」


「わかった」


フロント業を玲さんに任せた千夏さんは、フロントにある共用スペースに移動する。そこそこの空間と椅子があるし、話し合いには向いてるだろう。


俺達は椅子を円状に配置してから腰かける…。



 「アタシが考えてる構図はね…」


エロへの情熱が凄い千夏さんの事だ。きっととんでもないな。


「デフォルメされた可愛いリスがM字開脚してて~、股の部分にクリを置く感じかな。これは真正面アングルね」


思った通り卑猥だ。銭湯は〇俗店じゃないぞ…。


「それ、マズくないですか?」


「これでも妥協したのよ? ホントはリスに『いつでも入れて良いからね♡』とか『準備万端♡』みたいな吹き出しを入れるつもりだったんだから!」


そんなのを子供に見せたら『何を入れるの?』や『準備万端ってどういう意味?』みたいな質問が出るだろうな…。


「今度はみんなの番よ。どんどん言って!」

千夏さんが俺達4人の顔を観る。


「横からの視点で、可愛いリスが持ってるクリにキスするのはどうですか?」


トップバッターは光だ。千夏さんの反応はいかに?


「可愛さ・エロさ・楽な構図、全てにおいて良いわね!」


彼女は好印象だが、この程度のエロで満足する人じゃない。ハードルをかなり下げたな…。


「ありがとうございます!」


「あの…、ハムスターがひまわりの種を食べる感じはどうでしょう?」


次は静ちゃんか。彼女はアングルについて何も言ってないが、この場合は真正面だろうな。立って食べるか座って食べるかは、好みが別れそうだ。


「可愛いけどエロくない!」


「す…すみません」


ハードルは下げても、0にはできないようだ。千夏さんのプライドか?


「ねぇねぇ。リスに胸の部分だけクリの形をしたワンピースとかを着させるのはどう?」


紗香ちゃんの発言は寝耳に水だ。それは全員の顔が証明している。


「……ケモナーの心を掴もうとするなんて、紗香ちゃん凄いじゃん!」


若い子は発想が柔軟だよな。俺には絶対出てこないアイディアだぞ。


「最後は照、あんたよ」


紗香ちゃんの後に何を言えば良いんだ…?


「クリを抱き枕にしてるリス…とか?」

癒し系方面しか思い付かなかった。


「そこでリスにエロい顔させればワンチャンあるか…?」

千夏さんは考え込んでいる。


この銭湯は老若男女利用するんだから、エロくないほうが良いはずなのに…。それを指摘すると怒られそうなので黙っておく。



 「みんなの意見参考になったわ。ありがとね!」

千夏さんは満足気な顔で言う。


「特に紗香ちゃん。は全然考えてなかったから驚いたよ」


俺も同感だ。だが『斬新なアイディア=採用』とは限らない。


「次は話したかったことの2つ目ね。…これを見て」

千夏さんはポケットから折られた紙を取り出して広げた。


サイズはA4か? 彼女はそれを俺に手渡してきた。光達の視線が紙に集まる。


【女性の皆さん。魅惑のテクニックで男性を魅了しませんか?】

大きめの見出しでそう書いている。


何だこれ? 千夏さんは何でこれを見せた?


「それに母さんが出るのよ。あんたの大学がやる“大学祭”のイベントにね」


…本当だ。俺・光・静ちゃんが在籍してる大学の大学祭で間違いないぞ。去年の大学祭の期間、俺はずっとバイトしていたから一切参加していない。


今年は光達次第だな。観たい催し物はないし友達もいない。3人が興味を示さなかったら、俺は今年も不参加だな。


「千春さんは、どうしてこれに出るんですか?」

気になったので訊いてみた。


「銭湯の宣伝とお祭りを楽しむためよ。母さん、そういうの好きだから」


あの人らしいな。俺は見出しの続きを読む事にした。


【ルールは簡単。バナナ(事前申請でソーセージも可)を男性の気を引きながら食べて下さい。採点は観客が行います】


その後は開催場所・時間についてだ。…どう考えても下ネタだが、こんな訳が分からない事を考えるのは誰だ?


…企画発案者、川宮かわみや中輔ちゅうすけと書いてある。聴いたことないな。


「ちゅーすけって、ネズミみたいだね」

紗香ちゃんがつぶやく。


「そういう意味じゃなくて“なかちゅう”よ。そいつは次男で、長男は大輔だいすけ・三男は小輔しょうすけって言うんだって」


「千夏さん、ずいぶん詳しいですね」

家庭事情まで知ってるとは…。


「母さんが話したのよ。川宮がここに来て、母さんに直談判したの。あの時アタシも近くにいたのに、アタシには声かけなかったのよ! マジむかつく!」


彼の好みは千春さんだったようだ…。


「こんな企画に参加する女の人いるのかな?」


俺も静ちゃんと同じことを考えた。余程の物好きしかいないよな?


「それがいるみたい。沢田さわだ めぐみって人がね」


その人は下ネタの趣旨をわかってるのか? 単にバナナ目的だったりする?


「アタシと玲は見に行けないから、興味があれば行ってみれば?」


「気が向いたら…。みんなどう思う?」


「あたし行ってみたい!」

紗香ちゃんは乗り気だ。


大学祭は土日開催なので、彼女も参加できる。


「私も千春さんのテクニック観たいな~」


「…わたしも気になります」


光と静ちゃんもOKだな。


「全員行く気なので、千春さんの応援をしてきますよ」


「そうして。近くに知り合いがいれば、母さんも安心するだろうし」


こうして話し合いは無事終わり、お開きになった…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る