第5話 恥ずかしい事を教え合おうか

 今日は静ちゃんが俺達の家に来て2回目だ。前回同様、光の部屋にある折り畳み机を挟んで、俺と静ちゃんは座っている。光は俺の隣だ。


前回は俺のあぐらの上に座っていた光だが、脚が辛いので正直に話して止めてもらったのだ。光が乗っても問題ないような脚づくりをしないと…。


さて、今日の“男慣れ”とはどうしようかな~?



 「影山さん。光から君のことを聴いた時に思ったんだけど、男に興味を持ったきっかけは何なの?」


興味を持つどころか、男が苦手なタイプにしか見えないので訊いてみた。本来は初回に訊くべきだと思うが、踏み込んだ内容なので後回しにしたのだ。


「わたし男の人が苦手で女子校に入ったんですけど、光ちゃんがお兄さんのことを楽しそうに話しているので、わたしも苦手を克服したほうが良いと思いまして…」


つまり光の影響を受けて、に興味を持ったと? 静ちゃんも年頃のようだ。とはいえ、いきなり知らない男と接するのはハードルが高い。だから友達の兄を最初に選んだ訳か…。


「なるほど。苦手を克服したいって思うのは誰にもできることじゃないよ。影山さんは偉いね」


俺は静ちゃんの頭を優しく丁寧に撫でる。普段から光の頭を撫でているので、これぐらいは朝飯前だ。


「あ…ありがとうございます」

静ちゃんはちょっと顔を赤くしている。


照れてるところも可愛いな~。彼女は光に次ぐナンバー2候補だ。


「俺に出来ることなら何でもするよ。遠慮なく言ってね!」


脱ぐのもOKだが、それを言うと静ちゃんをビックリさせるので自重した。


「それじゃ…、手を握らせてください」


「手? 良いよ」


俺が右手を差し出すと、静ちゃんも右手を差し出す。…俺達は握手したことになる。


「どうかな? 男の手は?」


「なんというか…、大きくてゴツゴツしてますね」


「他のところも触らせてあげるよ。どこが良い?」

股間はどう? なんて言ったら、静ちゃん腰抜かすよな。


「えーと…、男の人の力こぶ触ってみたいです」


「構わないよ」


俺の返事を聴いた静ちゃんは光の反対側に移動し、両手で俺の力こぶに触れる。俺は今、光と静ちゃんに挟まれているのだ。


「すごいですね…」


「俺、体鍛えてないから凄くないと思うよ?」

むしろクラスメートの中では細いほうだ。


「そんな事ないです。男の人ってすごい…」


今は何を言っても無駄っぽいし、気が済むまで触らせてあげよう。



 気が済んだ静ちゃんは、再び定位置に戻った。今回の“男慣れ”はここまでだな。次はだ。


「影山さん。今日も光と仲良くなるためのおまじないやる?」


「やります。やらせてください」


やる気は十分だな。今回は…、フラグを立ててみるか。


「前回は光の手を握りながら見つめてもらったね。あの時以外で光の手を握ったことある?」


「ないです。光ちゃんの手スベスベで、ずっと触ってたい感じでした」


「ありがと♪ 静ちゃん。お兄ちゃんの手を触るのに、ガサガサは嫌だからね。お手入れは欠かせないよ♪」


どうやら俺の知らないところで頑張っているようだ。なら俺も…。


「光が一生懸命手入れしてるなら、俺もクリームを塗ってキレイな手にならないとな!」


光にだけ負担させる訳にはいかない!


「後でオススメのクリームを教えてあげるね。男女兼用だから心配いらないよ♪」


「頼むよ。2人でキレイな手になろうな、光」


「そうだね、お兄ちゃん♡」


……静ちゃんの視線でハッとなる俺達。すぐ2人の世界に入るのは悪い癖だ。


「…話を戻すよ。今日のおまじないは、前回より踏み込んだ内容にするつもりだ」


「踏み込んだ内容…ですか?」

首をかしげる静ちゃん。


「そう。影山さんが光と仲良くなるには、勇気を出して踏み出さないといけないんだ。今日はその一歩を踏み出してもらうよ」


「わかりました。…何をすれば良いんですか?」


「恥ずかしい事を教え合って欲しい」


それをきっかけに2人の距離は縮まって、体の接触を増やせる訳だ。これが“フラグを立てる”の真の意味になる。


「恥ずかしい事…? 何でも良いんですか?」


「もちろん。お互い恥ずかしいことを教え合えば、距離は縮まるはずだよ。その時になったら俺は席を外すから安心してね」


光には事前におまじないの内容は話しており、と伝えてある。悪い事なのはわかっているが、好奇心には勝てないんだよ…。


「それじゃ、後はよろしく」

俺は立ちあがり、光の部屋を後にした。

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