第9話 リーガーとの対決

 ノータの手が止まるとリーガーが怒号どごうを上げる。


「何をしているっ!さっさと、やれっ!!」


 その声に怯えながら。


「うぅ…………あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 止まった魔法が再び火をきだし、灼熱の炎を放った。


「ご主人様っ!!」


 アルルはとっさに飛び出した。


 心配する必要はないというのに、過保護な奴だ。


「…………馬鹿の一つ覚えだな」


 右手に力を込めると、自然と魔力が集まる。


 そして。


「でりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 思いっきり魔法をぶん殴り、灼熱の炎をかき消した。


「な、なんだと!?」


 リーガーは驚き、ノータは目を見開いた。


 それもそのはずだ。


 魔法を殴っただけで魔法をかき消したのだから。


 だが、考えてみれば、できなくはない。


 魔力は体を覆うだけで魔法を防ぎ、一点に集中させることで、強力な武器になる。


 魔法を防ぎ、武器になるなら、この二つ同時に使えば、魔法かき消すことができるはずだ。


 だが、無傷というわけではない。


 視線を右こぶしに向けるとやけどを負っていた。


「はぁ…………やっぱり、ノータ。お前、魔法使いの才能があるな」


「ど、どうして…………」


「考えてもみろよ?お前の魔法は一度でも俺に傷をつけたか?…………ないよな?つまり、そういうことだ」


 って言われてもわからないだろうけど、でもこれでノータの魔法が通じないことが分かったはずだ。


 すると、リーガーが動き出した。


「何をやっているんだっ!もう一度、魔法を打てっ!さもないと、二度と会わせないぞっ!!」


「んっ!?」


 怯えた表情を浮かべながら、再び人差し指をこちらに向けた。


「ノータ、お前はそれでいいのか?」


「私は、もう一度、もう一度、お母さんに会って笑顔で…………」


 ノータにとってどれほど母親のことが大事なのか俺にはわからない。


 原作にそんなことは書かれていなかったし、それを理解すること自体が難しい。


 ただ、こうして辛そうに魔法を向ける彼女を見ていると怒りが湧いてくる。


 だからこそ、今ここでお前を苦しめる縛りを解いてやる。


「ノータ、お前にいい知らせだ。お前の母親、ミストン・アルヘディだが、俺たちが保護している」


「え…………」


 力の抜けた声が漏れ、人差し指を下した。


「騙されるな!ノータっ!!早く魔法を打って殺せっ!」


「ちっ、うるさいな。アルルっ!」


「はい、ご主人様」


「な、なんだ貴様は!!」


 リーガーの背後に回り込み、即座に力づくで地面にたたきつけられ、抑え込まれる。


「女ごときがっ!はなせっ!」


「その女ごときに捕まる気分はどうですか?ノータちゃんの母親にあんな仕打ちをしておいて、絶対に許しませんから」


 いくら、リーガーでもアルルの拘束から逃れることは不可能だ。


「ほ、本当なの?」


「ああ、俺を信じろっ!って言っても信じないよな」


 くそっ!証拠の一つや二つ、持ってくればよかった。


 せっかく、切り札を切ったのにっ!!


 心の中で後悔する俺だが、ノータはこちらを見つめながら。


「信じる」


「え、信じるのか?見てもないのに?」


「…………うん。だって、あなたからはお母さんに似た優しさを感じるから」


 ノータがちょぴっと笑った。


 それは対面している俺だけがわかるほどの小さな笑顔。


 どうやら、これでチェックメイトみたいだな。


 だが、リーガーはまだ諦めていなかった。


「は、はなせぇぇぇぇぇっ!」


「きゃぁ!?」


 アルルを力だけ吹き飛ばすリーガーは息を荒しながら、こちらをにらみつける。


「大丈夫か?」


「はい、全く問題ありません」


 アルルは平気そうに俺の元まで駆け寄った。


 だが、問題はリーガーのほうだ。


 何か嫌な予感がする。


「どうなってやがるんだっ!どうしてこうもうまくいかないっ!やっと、やっと、やっと!俺の時代が来ようとしたのにっ!俺の第二の人生も、もう終わりだ…………もう引き返せないところまで来ちまったぁ」


 漏らすのは怒りではなく絶望叫び。


 リーガーってこんな性格だったか?


 常に冷静に物事を図り、最善策を常にとることを優先しながら、自分の身を守る。それがリーガーの戦い方だ。


 なのに、今のリーガーは少し強引すぎる。


「リーガー、お前何を言って」


「くそっ!なら、俺様にも考えがあるんだよっ!!」


 ポケットから黒い粒が入ったびんを取り出した。


「なんだそれは?」


「この体の弱点を補う代物しろものさぁ。さぁ殺しあおうぜっ!」


 そう言ってリーガーはびんごと飲み込んだ。


 すると、体中が膨張し、赤き閃光の光を放ち、赤いオーラを身にまとった。


「これが、魔力か。すばらしい、この力ならなんだってできる気がするぞっ!!」


「ご主人様、私の後ろに…………」


 リーガーには魔力がない。


 それが、原作の設定だ。


「どうして…………」


 リーガーから魔力を感じるんだ。


 あの瓶の中に入ってた黒い粒が原因か?だとしても、あんな物は原作で登場してないぞ。


 もしかして、これってちょっとピンチだったりする?


「お前たち全員皆殺しだっ!!!」


 リーガーは膨大な魔力をこぶしに込めて、迫ってきた。


 いくら、アルルでも無傷で、あれを止めることはできない。だからといってここでよけようにも狭すぎる。


 ここは俺が前に出るか?でも、あれを受けたらさすがにノータの魔法をかき消したようにはいかない。


 すると、ノータが手のひらを広げた。


 ノータ?一体、何をして…………。



 お母さんは言った。


『ノータ、この魔法は絶対に使っちゃだめだよ。でも、もし、大切なものが失われようとしたなら、迷わずに使いなさい。この世に、大切な物以上のものなんてないんだから』


 大切なものなんて私にはない。


 だって私にはお母さん以外いなかったから。


 でも、なぜか、目がこの人を追いかけるの。


 なんでだろう、お母さんに似ているからかな?この気持ちが何なのか、私にはわからない。


 でも、ここでこの人を死なせたら、二度とお母さんの笑顔が見られない。


 もう二度と、お母さんに会えない。


 なら、私はーーーーーー。


 掌に光が集まり、そして天へと捧げるように両手を広げた。


「スピリット・フォール・ライト」


 唱え終えると、リーガーにめがけて光の柱が差し込み、飲み込まれ、一瞬にして塵残ちりのこさず消え去った。


「な、なんですか、今の魔法!?」


「ノータ?」


「はぁ……はぁ……はぁ…………うぅ」


 そのまま倒れそうになるノータを俺はサッと支える。


「ありがとな、ノータ」


 スピリット・フォール・ライト、原作最強の魔法使いノータの切り札として使われた光魔法だ。


 実際に勇者シンとの対決の際にも奥の手として使われ、あと一歩ってところまで追いつめるほど強力な光魔法。


 まさか、この歳で使えるなんて、知らなかった。


「ご主人様、ありがとなって、お礼言えたんですね」


「俺を何だと思っているんだ。お礼ぐらい言えるに決まっているだろ」


「そうですよねぇ~~~あはは」


 今更だが、アルルって結構、俺に対して偏見がないか?


 まぁいろいろな悪い噂を考えるとそう思ってしまうのも無理はないが。


 でも、四六時中一緒にいるんだから、ちょっとぐらい俺のことを分かれよっ!!


「アルル、まだ気を抜くなよ」


「はいっ!!」


「よし、なら宿に戻るぞ。まだやらないといけないことがあるからな」


「わかりました」


 あとは、アルルの母親であるミストン・アルヘディを何とかするだけか。


 でも、この調子だと仲間になってはくれなさそうだな。


 はぁ、でもなんかいいことをした気分だ。


ーーーーーーーーーーー

あとがき


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