第8話 バエルのボス、リーガーのもとへ

 魔力の跡をたどると中心部に近くも遠くもない、きれいに塗装された宿の前に到着した。


「ここに、ノータちゃんが?」


「ああ、間違いない」


「それじゃあ、いきましょうっ!」


 っと張り切って俺より先に入ろうとするところをすかさず足を払い、そのまま、倒れ込んだ。


「いて…………な、なにをするんですか、ご主人様」


 上目遣いで涙目になるアルルの姿はまるで小動物だ。


 何、このかわいい生き物は…………って何を考えているんだっ!!


「ごほんっ!アルル、正面切っていくのはいいが、なぜ、俺より前を歩くんだよ。それに、怒りがき立つのもわかるが、冷静さを欠くな、みっともない」


「み、みっとも!?…………す、すいません」


「それとそろそろ、マジでご主人様呼びやめろよ。恥ずかしい」


「いえ、それは無理ですね」


 真顔で即答した。


「そんな真顔で言うことじゃないだろ。はぁ…………もういい。とりあえず、やることは簡単、正面突破だ」


「わかりましたっ!」


「敵は遠慮せず、殺せ。対抗してくるやつも殺せ。近づいてくるやつも殺せ。すべて、俺が許す」


「や、やりすぎでは?」


「お前が言うか…………てか、に受けるな、冗談に決まっているだろ。わかれよ」


「ご主人様のボケってよくわからないんですよ。全部本気で言ってるように聞こえて」


 結構、冗談気味に言ったつもりなんだけど。


 やっぱり、ライン・シノケスハットの口調になってしまうからだろうか。


「よし、だいぶ落ち着きを取り戻したな」


「え、まさか、私のためにわざわざ無駄話を…………」


 アルルは口を両手に当てて瞳を輝かせた。


「一番頼りにしているからな」


 しっかりと、俺を守ってくれよ、アルル。


 いくら、ライン・シノケスハットのスペックが高くても武器を一つも持っていないんだ。


 普通に後ろから刺されたら死ぬし、頼りにしないわけがないよね。


「ご、ご主人様…………大好きですっ!」


 思いっきり抱き着き、胸を押し当ててくる。


 く、苦しいし、か、固い…………。


「痛いっ!は、離れろっ!」


「ああ…………」


「ふざけてないで、いくぞ」


「はいっ!敵は全部、肉片一つ残さず、皆殺しですっ!!」


「じょ、冗談だよな」


「だといいですね」


 アルルの笑顔を見て本当に皆殺しにしそうだなっと心の中で思った。


 宿の中に入ると、正面に一人、接客をする一人の男だけが立っていた。


「いらっしゃいませ。ようこそ、ナスカへ。お二人ですか?」


「…………アルル」


「へぇ?」


 アルルはすかさず、男の背後に立ち、肩を抑えてひざまつかせ、クナイを首もとに押し当てる。


「な、なんですか!?」


 俺は膝を折り、視線を合わせた。


「ここにバエルのボス、リーガーがいるだろ?」


「な、何のことですか?」


「あくまでもしろるか。まぁいいさ、ならここは今日で閉店だな」


「な、何を言って…………」


「俺はライン・シノケスハット。アルゼーノン帝国の三大貴族、シノケスハットの長男だ。この意味、わかるだろ?」


「なぁ、あの問題児のライン・シノケスハット!?」


「顔はとにかく名前ぐらいは聞いたことがあるだろ?」


「ど、どうしてそんな人が」


「いいか、閉店したくなかったら、噓をつくな。それがお前にできる唯一の最善の選択だ」


 と髪をわしつかんだ。


「うぅ…………」


「そうか、残念だ」


 俺は手を放し、ゆっくりと右手を上げた。


 そして下ろそうとすると。


 クナイが少しずつ食い込んでいくのを感じた男は慌てて、声を上げる。


「ま、待ってくれっ!!」


「なんだ?正直になったか?」


「…………こ、この後ろの扉の先だ」


「そうか、親切にありがとな」


「これで、助けてくれるんだよな?」


 俺は男の言葉を無視して横を通り過ぎ、扉の前で足を止めて、振り返った。


「アルル、もうそいつに用はない」


「わかりました」


 アルルは男から身を引き、拘束を解いた。


「た、たすかーーーーーー」


 男はゆっくりと立ち上がろうとすると。


 バシッとすかさず男の首が飛び、鈍い音が鳴り響く。


「…………いくぞ」


「はい!」


 今日はアルルからすごいやる気を感じる。


 相当、地下通路のことが許せないんだな。


 俺は扉の先に入る前に足を止めて、振り向いた。


「アルル、冷静さを欠くなよ」


「分かっています」


 アルルの瞳にはやる気に満ち溢れていた。


「そうか、なら進むぞ」


 扉を開けると一方通行の道なりが続いていた。


 少し歩くと、すぐに扉が見えた。


 そして、扉を開けて部屋に入ると。


 広々とした部屋が広がっており、中央にはソファーに座る男とその隣に下にうつむくノータの二人がいた。


「なんだ?お客様か?いや、お前らは」


「わざわざ来てやったぞ、ノータ。そして、バエルのボス、リーガーさん」


 バエルのボス、リーガーは奥の手ではあるが引き際も正確に測れる鋭い目を持っている。


 ゆえに失敗したことがなく、常に結果は成功を収めてきた男だ。


「そうか、俺が差し向けたやつらは全員、やられたか。あははははははっ!…………実に面白くねぇな」


 笑った後、冷たい瞳でこちらを睨んだ。


「それによく、ここがわかったな。ここは俺のお気に入りの場所なんだがな」


「ここはアルキナの中心部に近くも遠くもない場所だ。つまり、お前にとって、最高の隠れ蓑になる。それぐらい、少し考えればわかることだ」


 本当は俺が付着させた魔力を辿たどったからだけど、バレていないみたいだな。


「はははっ!笑わせるな。ライン・シノケスハット様よ。そんな考えで突き止められちゃあ、話なんないんだよ。大人をなめるなよ、小僧」


 リーガーはどうやってここを突き止めたのかを探っている。


 だが、わかるはずがない。


 なぜなら、バエルのボスには致命的にかけているものがあるからだ。


 それは魔力がないこと。


 恵まれた身体能力と頭の回転の速さはリーガーの強みだ。


 だけど魔力がないという欠点があるせいで、どうしても劣ってしまう部分が出てしまう。


 相手が悪かったな、リーガー。


「余裕そうだな」


「当り前さぁっ!だって、俺には最強の切り札があるからな。そうだろ?ノータ」


 リーガーがノータへ視線を移すと、そむけるように下を向くノータ。


 瞳に一切の光はなく、まるで人形のようだった。


「まったく、ノータは、お前はそれでいいのか?一生、道具として扱われて、本当のいいのか?」


「だまれ、貴族の坊ちゃんがっ!こっちにはこっちの事情があるんだよっ!!」


 リーガーはノータを取り戻したことで勝った気でいる。


 それもそうだろう。だが、こっちにだって切り札があるんだ。


「こちとら、もう5年の付き合いなんだよ。そうだよな、ノータっ!!」


「ご主人様、私にお任せください。あんな奴、肉片一つ残しません」


 怒りが募るアルルの瞳は、もうリーガーしか写っていなかった。


 気持ちはわかるが、少し抑えてほしいな。


 普通に怖い。


「あははははははっ!殺し合いか?いいぜ、乗ってやるよ、やれ!ノータっ!!もし、ここであいつらを始末できたら、


 リーガーの言葉を皮切かわきりにノータは人差し指をこちらに向ける。


 すると人差し指に炎が集中する。


 あれは、またヘル・ファイヤーか。


「ご主人様!後ろに下がって…………」


 っと後ろに下がらせようとするアルル。


 しかし、俺はアルルの肩をつかみ、むしろ一歩前へ出た。


「んっ!?ご主人様、いったい何を」


 ノータと対面する。


 瞳に色はなく、まるで道具、いや人形のようだった。


「ノータ、お前にもう一度聞きたいことがあるんだ」


 その瞬間、ノータの魔法が止まった。


 お前なら、きっと、この言葉で終わるはずだ。


「母親は元気か?」


 その言葉に人形のような表情が歪んだ。


 まったく、まだ12歳だぞ。なのに、なんてひどい顔をしてるんだよ。


 俺は決めた。


 ここで、仲間にする前にノータ・アルヘディを救うと。


ーーーーーーーーーーー

あとがき


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