第2話 幼馴染と流れ星


 「結衣ゆい~!晩御飯出来たわよー!」


結衣 「は~い」


 部屋のベッドで寛ぎながら携帯をいじっていた結衣は1階から母親に大声で呼ばれ立ち上がる。2階の自室のドアを開け階段を下るとリビングへと向かう。


結衣 「あっ!今日、私の大好きな、から揚げだ!」


 テーブルに上に並べられている料理にから揚げを見た途端ルンルン気分で椅子に座る。


 「結衣は高校2年生になっても、まだから揚げが好きなんだな」


 父親に鼻で笑われ、結衣はムッとする。


結衣 「子供の時から好きな食べ物はずっーと好きなんだよ!いただきま~す!」


 箸を持つと一目散にから揚げを掴み口の中へと運ぶ。


結衣 「ふぁぁ~~!美味し~~!」


 至福の顔でから揚げを堪能すると、結衣は再び、から揚げを箸で掴みテレビを見る。


 「明日の夜、ふたご座流星群の見ごろがピークとなる予定―――」


結衣 (『ふたご座流星群』…か)


―――【5年前】


 結衣は近所に住む、幼馴染の男の子の家のベランダから星が広がる空を見上げる。お互い、昔から母親同士の仲が良く結衣は頻繁に訪れていた。


 「結衣!今日は流れ星がたーっくさん流れる、『ふたご座流星群』が観れる日なんだぜ!」


結衣 「ふ~ん」


 結衣は『ふたご座流星群』に興味が無く、目の前に広がる星空を見続けていた。


 「結衣…。興味無い顔してるけど、流れ星が流れてから消える前に3回、願い事が言えたら叶うんだぞ!」


結衣 「えっ!!本当!?」


 星空を見続けていた結衣はようやく、隣に立つ幼馴染の方へ振り向く。


 「そーだぞ!俺は『1万円貰えますように』ってお願いするんだ!」


結衣 「泰晴たいせいって本当に馬鹿だな~…。そんなの、毎年お年玉で貰えてるじゃん」


泰晴 「うぐっ…」


 泰晴は返す言葉が無く、言葉に詰まる。


泰晴 「じゃ、じゃあ!『結衣といつまでも一緒にいられますように』かな!」


 泰晴は歯を見せながら笑うと、結衣は頬を赤くし目を逸らす。


結衣 「泰晴にしては良い願い事だね!私もしょうがないから『馬鹿な泰晴といつまでも一緒にいられますように』ってお願いにしよ!」


泰晴 「『馬鹿』は余計だろー!」


 泰晴が結衣の方へ振り向いている時だった。


結衣 「あっ!流れ星が流れた!」


泰晴 「ゲ!見過ごした―――あっ!また流れたぞー!」


 2人は流れ星が流れる星空に向い呪文のように願い事を連呼する。


―――【現在】


結衣 (泰晴、元気かな。お父さんの仕事上の都合で引っ越したんだよなぁ…)


 結衣は泰晴の事を想い出しながらニュース番組が流れるテレビを見つめる。そして、晩御飯を済ませると結衣は自室に向いベッドの上に座ると携帯を触る。


結衣 (一応、泰晴の連絡は知っているんだよな~)


 結衣はアプリの連絡先画面に表示されている、泰晴の名前をずっと見つめる。


結衣 (最後に通話したのは3年前だっけ…。急にメッセージを送ってもな~。返信こなかったら何か嫌だな)


 結衣は泰晴の名前を見つめながら考え込む。しかし、連絡する勇気も無く携帯画面を真っ暗にしベッドの横になった途端、携帯の着信音が鳴る。


結衣 (ん…。誰だろ?)


 結衣はベッドの上で横になりながら携帯を持つと画面には『泰晴』と表示し驚く。


結衣 「えっ、えっ…えーっ!?泰晴から通話だ!!」


 急の出来事で思わずベッドから素早く起き上がる。気持ちを落ち着かせるよう、何度か深呼吸をすると応答をタップする。


結衣 「泰晴…?」


泰晴 「結衣~!久しぶり~!」


 最後に通話した3年前に比べ、泰晴は声が更に低くなり結衣はドキッとする。


結衣 「きゅ、急にどうしたの??」


泰晴 「今日さ、『ふたご座流星群』が見ごろらしいじゃん?5年前、結衣とベランダで一緒に観た事を思い出してさ…元気にしてるかな~って」


 泰晴と同じ事を思い出していた結衣は思わず笑う。


結衣 「あはは!私もさっき泰晴と『ふたご座流星群』を観た事、思い出したんだ!『1万円貰えますように』って願いもね」


泰晴 「こ、子供の時だったからな!それに、願い事は『結衣といつまでも仲良くいれますように』に変えたしな!」


 泰晴は笑う。電話越しだが、きっと5年前に見せたあの笑顔をしているであろうと結衣も笑う。


結衣 「でも、泰晴…引っ越しちゃったからなぁ」


 結衣がポロリと零すと泰晴は黙り込む。あぁ…雰囲気が悪くなる事を言ってしまった、と結衣は後悔する。


泰晴 「俺も…結衣に会えなくて寂しいよ」


 ボソッと言う泰晴に結衣は通話越しで顔を赤らめる。


結衣 「きゅ、きゅ、急にどうしたの!!」


泰晴 「い、いや…まぁ…」


 2人は黙り込む。結衣はそっちの学校はどう?友達は出来た?進学は?…と話したい事が山ほどあるハズなのに3年振りの会話で何を話せば良いのか混乱する。


泰晴 「そうだ、結衣!窓を開けて空を見上げてみて!」


 結衣は泰晴の言う通りに窓を開ける。冬の季節で寒い風が結衣の部屋に流れ込む。


結衣 「さむっ…」


 寒い風に身震いすると、ベッドの掛け布団を身体に巻く。


泰晴 「結衣、俺も窓を開けて空を見上げているんだ。でもさ、この空って結衣が観ている空と一緒なんだよな」


結衣 「そっか…。空はどこまでも繋がっているもんね」


 泰晴と通話をしながら結衣は満天の星空が広がる空を見続ける。


泰晴 「結衣!今回の願い事は何にするんだ?」


結衣 「ん~…」


 結衣は口ごもる。願いは泰晴に聞かれた瞬間に決まり切っているが恥ずかしく結衣は口に出せずにいた。だが、結衣は5年前に泰晴に言えず後悔をしていた言葉を遠回しに話す事を決意する。


結衣 「『泰晴とまた一緒にいれますように』…かな」


泰晴 「~~~~っっ!!」


 通話越しで泰晴が足をバタバタする音が聞こえ、結衣は更に顔を赤くする。


泰晴 「俺も…『結衣とまた一緒にいれますように』かな」


 2人は通話越しで空を見上げていると流れ星が流れ5年前のように呪文を願いを連呼する。だが、2人は心の中で


結衣 (『泰晴と付き合えますように』)


泰晴 (『結衣と付き合えますように』)


 と、揃って口に出せずにいる本音の願いを呟く。

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