第3話 1人で流れ星(男性)


 「部長!こちらの企画書を作成しましたのでご確認よろしくお願い致します」


 男性は自身満々に作成した書類を部長に提出する。部長は書類を手に持ち1枚目…2枚目…と目を通していくと、はぁ…とため息を吐く。


 「内容が頭に入りにくい。菅井すがいなりに、図解で分かりやすいようにしているようだけど、図解が多すぎて流れが分かりにくいな。俺が過去に作ったマニュアルのように作れ。作り直し!」


 『新人教育用マニュアル』を図解で分かりやすく作成した書類が却下され、菅井は肩を落とす。作成しては作り直して…を3回繰り返した結果、流石に菅井は参る。


菅井 (俺が入社した時、部長のマニュアルがぜ~んぶ文字だらけで分かりにくいから図解にしたのに…。んだよ、偉そうに)


 部長に対し菅井は不満を心の中で零す。自分は能力が高い!と勘違いする部長に部下は不満だらけだった。言動と行動が伴わない部長は、まさに自信過剰なだけだ。


 菅井は自席に戻り、また作り直す。そして、パソコンに表示されている時刻を確認すると、既に午後5時で今日は残業か~…と更に気を落としながら取り組む。


―――【4時間後】


 コンビニ袋を持ちながら菅井は玄関の鍵を開錠するとドアを開き家の中へと入る。


菅井 「ふ~。今日も疲れたな」


 菅井は仕事から帰宅するとネクタイを緩め、着用していたスーツを脱ぎ寝巻に着替える。そして、コンビニで買った弁当を電子レンジの中へと入れ温める。


菅井 (明日は休日だから気分がてらにどこか行きたいなぁ…)


 菅井はテーブルの前で目を閉じる。閉じていると電子レンジからチンッ!と音が鳴りすっと立ち上がり温まった弁当を取り出しテーブルの上に置く。


 箸を持ちながら携帯を触り動画アプリを立ち上げる。ソロキャンプの動画がトップに表示され再生ボタンを押す。


菅井 (ソロキャンプか…良いなぁ)


 動画を見ながら弁当の中を箸で掴み口の中へと運び食事をする。


菅井 (そういや、去年にソロキャンプする時に色々ネットで買ったし行くか。山中で社会のネットを切り離してボーっと出来るだろ)


 弁当の中身が空になり、食事を済ませると菅井はソロキャンプの準備をする。


―――【翌日】


 キャンプ用品を車の中へ詰むと菅井は運転席に座り走行する。時間が経つにつれ、建物が減り、山や木、畑の土…など自然の景色へと移る。途中、スーパーに寄りキャンプ用の飲み物、食材を買いこむと、再びキャンプ場へ向かう。


 キャンプ場へ辿り着くと車を停止する。そして、受付を済ませると菅井は再び車を走行し場所はどこにしようか…と悩みながら辺りを見渡す。


菅井 (寒い季節なのに、案外人がいるな)


 そして、ようやく人が少ない一角を発見すると菅井は車を止め外へ出る。白い息を吐きながら車から荷物をドンドン降ろす。降ろした荷物の中からまずはテントを張り、次に焚火台を設置し木を置くと火をつける。


菅井 (ふ~。あったけ~~)


 焚火に手を伸ばし温まると、足の低いテーブル、椅子を設置し座る。


菅井 (やっぱり自然は良いなぁ)


 ビルやマンションの建物が多い場所から離れ、菅井は目の前にある大きな山を呆然としながら見つめる。トイレから距離のある場所ではあるが、周りには人は全然おらず菅井は一人の時間をゆっくりと過ごす。


菅井 (寒くなってきたな…。暖かい飲み物でも用意するか)


 ケトルにスーパーで買った水を入れ焚火台の上に置きお湯を沸かす。そして、カップにインスタントコーヒーの粉末を入れお湯が沸くまで待つ。メラメラと燃える火を見つめていると距離が離れているが車が停止し女性が降りる。


菅井 (人来た…カップルかな~。一人でこじんまりとしたかったのになぁ)


 隣に女性が降り、カップルでも来たのだろう…と独身…いや恋人すらいない菅井はため息を吐く。しかし、女性一人で車から荷物を降ろしテントを張り、焚火台に火をおこす。


菅井 (女性、一人でキャンプ?男、一人の隣にテント張るって勇気あるな)


 菅井は目だけ動かし隣の女性を見ているとケトルから湯気が出始め、カップにお湯を注ぐ。菅井の周りのみコーヒーの匂いが香り、ズズッと音を出しながら飲む。


―――【5時間後】


 日は落ち、ランタンと焚火の灯りが菅井の辺りを照らす。スーパーで買った肉を焼き晩御飯を済ませた菅井はお腹が満たされ空をボーっと眺める。


菅井 (灯りが少ないから星が沢山見えるな)


 満天の星空を菅井は眺める。


菅井 (はぁ~~働きたくね~な。でも…33歳で仕事辞めてニートになってもなぁ。家族…イヤ、せめて奥さんいれば、頑張れるかもしれないけどな~)


 満天の星空が広がる空を眺めていると流れ星が流れ菅井は持っていたカップがピタリと止まる。


菅井 (おっ!流れ星!やっぱり、こういうとこだと普段気付かないモノが観れるんだな)


 普段はサラリーマンとして働き、不満だらけの心を浄化するにはピッタリの絶景だ。ピタリと止まった手を再び動かしコーヒーを飲むと次から次へと流れ星が流れる。


菅井 (えっ!こんなに流れ星ってホイホイ流れるもんだっけ!?)


 携帯を取り出そうとした時だった。


 「今日、『ふたご座流星群』の見ごろがピークらしいですよ!!」


 隣でテントを張った女性に声を掛けられ菅井は驚く。


菅井 「本当ですか!?今日、キャンプしにきて良かったです」


 隣の女性はクスクスと笑う。


 「昨日テレビで『ふたご座流星群』がピークだってニュースで流れていましたよ?」


菅井 「あ…あぁ!だから人が多いのか!知らなかった…」


 隣の女性は菅井に笑い続けていた。でも…人を小馬鹿にする笑いでは無く純粋な笑顔だ。


 「丁度、流星群ですし…何か願い事でもお願いしたらどうですか?」


菅井 「流れ星が流れてから消える前に3回、願い事が言えたら叶うってやつですか…。本当に叶うのかなぁ…」


 「この機を逃したら言い損ですよ?」


 菅井は腕を組み考え込む。しかし、女性の言葉にも一理あるのでとりあえず提案を受け入れる。


菅井 「ん~~~。じゃあ、『結婚出来ますように』って願っておきますか。恋人もいないけど…」


 「随分過程が飛んだ願いですね。じゃあ、私も恋人いませんが『結婚出来ますように』ってお願いしようかな」


 菅井と女性は2人で微笑ながら空を見上げ願い事を口にする。実際に距離が離れているが、心の距離が近付きずつある中、2人で揃って『結婚出来ますように』…と願う。

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