【短編】流れ星と願い~流星群を眺めながら願う4人達。想いは星に届くのか~

虹凛ラノレア

第1話 家族と流れ星


 リビングにカレーの匂いが漂う中、父親と子供は椅子に座りテレビを眺める。

 

 「明日の夜、ふたご座流星群の見ごろがピークとなる予定―――」


 「ふたご座りゅうせいぐん…?」


 ふたご座流星群の言葉もよく、わからぬ子供は首を傾げる。


 「流れ星がたくさん流れることだよ。そうだ、祐樹ゆうき!明日の夜、見に行くか?」


 休日は仕事で疲れた、折角の休みだから…とろくに相手にしてくれない父親から、急の提案に驚く。


祐樹 「えっ?良いの!?」


 父親は機嫌が良いのか微笑みながら頷く。祐樹は父親の言葉は嘘なのだろうか…?と最初は疑い見続ける。しかし、父親は笑みを崩さず祐樹の顔をひたすら見つめ、これは嘘では無いのだ…と現実を受け入れると椅子から立ち上がる。


祐樹 「やったーーー!!おかあさーん!お父さんが明日、ふたご座流星群を見に行こうだってーーー!!」


 大声で話す祐樹に母親も急の出来事で驚き、料理の手を止めキッチン越しで目を見開き話す。


 「えーーーっ!?お仕事は大丈夫なのー?」


 「あぁ、ようやく仕事が落ち着きそうだしな。最近、家族でどこかに行ってないだろ?」


 「ふふふ!じゃあ、明日は温かい飲み物と上着と…えっーと、それから…」


 母親は用意する物を口にし指を折ると、父親は吹き出す。


 「ははっ!!そんなに用意しても旅行って訳じゃないんだから、簡単な支度で構わないよ!」


 母親は指を折る事をやめ、舌をペロッと出し笑う。


 「あっ!そうね!私ったら!」


祐樹 「お母さん、はりきってるー!」


 久しぶりの母親の笑顔に祐樹も思わず笑う。家族全員揃って笑うのはどのぐらい振りだろうか?でも、今はこの幸せな時を一時でも噛みしめたい。その日に食べるカレーライスは味は一緒のはずなのに、祐樹にとって格別に美味しい晩御飯だった。


―――【翌日】


 夜道の中、父親は車を運転し、ふたご座流星群を観察する場所へと走行し続ける。祐樹は楽しみで仕方がなく昨夜はあまり寝れずにいたが、眠いという感覚は未だに無い。子供ながらに、夜に出かける事は新鮮な感覚でもあり、祐樹は走行中の車の窓から景色を眺める。そして、いつ頃着くのだろうか…?と気持ちが走り後部座席から顔を出す。


祐樹 「ねえねえ!お父さん!お母さん!あとどのぐらいで着く?」


 両親は揃って笑う。


 「ははは!祐樹、まだ出発してから10分しか経っていないぞ?」


 「ふふふ。そうよ?後、40分はかかるからゆっくりしていなさい?」


祐樹 「は~い」


 運転する父親に母親は飲み物を受け渡すと、祐樹は再び後部座席の車の窓から景色を眺める。上を見上げると雲1つも無く、真っすぐに見つめるとビル、看板、街灯はライトアップし夜景に心打たれながら見続ける。


―――【40分後】


 出発した頃に比べ、辺りの街灯がぽつりぽつりと少ない場所に辿り着くと、走行していた車は止まる。


祐樹 「着いた!?」


 走行していた車が山中で止まり、祐樹は一目散に声を出す。


 「予定通り着いたぞ。しかし、駐車場いっぱいだな」


 「皆、ふたご座流星群を観にきたのね」


 両親が車のドアを開けると、祐樹も開け外に出る。辺りは真っ暗でよく見えないが息を吸うと空気が澄み、森林の匂いがする。そして、駐車場はふたご座流星群、目当てでガヤガヤと賑わう。


 「よし!荷物はこのぐらいね!」


 「じゃあ、いこうか!」


祐樹 「おー!!」


 3人は更に山中の奥へと歩く。幸いな事に目印の看板はライトアップされ誰もが見ても分かりやすい道の中を歩く。ほんの少し歩くと、車の窓から眺めていた街中の幾つもの光が豆粒程度にライトアップし見落とすように眺める。


祐樹 「わ~!綺麗~!」


 山の上から眺める夜景に感動した祐樹はいつまでも見続ける。自分の家はどのなのだろうか?そして、学校はどこにあるのだろうか?と小さな建物をあちこちと見つめ、一生懸命に探す。


 「祐樹~!レジャーシートを敷いたから座るわよ~!」


 「ここで寝そべって空を見たら星が…あっ!流れた!」


 流れ星が1つ流れると、周りの人々は騒ぎ立て空に釘付けになる。


祐樹 「えーー!!どこどこ~!」


 祐樹は急いで敷いたレジャーシートまで駆け寄り靴を脱ぐと仰向けで寝そべる。


 「祐樹、知ってるか?流れ星が流れてから消える前に3回、願い事を言いきれたら叶うんだぞ?」


 祐樹は起き上がり、父親に顔を近づける。


祐樹 「本当!?願いか~何にしようかな~…」


 そして、また仰向けで寝そべり願い事を何にしようか考える。


 「お父さんは~…。『宝くじが当たりますように』…だな!」


 「じゃあ、お母さんは…『家族全員が健康でありますように』かな!」


 両親は願いがすぐに決まるが、祐樹はいまだに考えていた。


祐樹 「う~ん…う~ん…」


 「祐樹は…ゲームソフトが欲しいんだろ?」


 父親は分かり切った顔つきで話すと祐樹は頷く。


祐樹 「へへ…。分かっちゃった?じゃあ、『新しいゲームソフトを買って貰えますように』に決定!」


 「随分長い願い事だな!」


 「祐樹ったら~。長い言葉にしちゃって~」


 両親は祐樹の顔を見ながら笑う。祐樹も笑顔のままだが本当の願いは…違う。僕の願いは最初から決まり切っているんだ。僕は知っている、夜中にトイレで目が覚めた時に、お父さんとお母さんがいつもいつも喧嘩をしている事に。僕の願いはただ1つなんだ。


 『お父さんとお母さんがいつまでも仲良くいれますように』


 僕は輝きを失う事の無い、満天の星を見つめながらずっと、ひたすら…心の中で何度も何度も呟く。

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