21話。(吸血鬼視点。)

 それは無限の闇でした。どこまでも続く、終わらない暗闇。歩けど歩けど、先が見えない。もうどれだけの時間をこの中で過ごしたかも分からなくなりました。それでも彷徨い、歩き続けた。しかし、それももう疲れましたね。少し休みましょう。


 一度手を抜けば、それからはずるずると墜ちていくだけ。歩いては休み、歩いては休み、休み、歩いては休み、休み、休み、休み……。いつの間にか、その場から一歩も動くことはなくなりました。何せどこまで行っても景色は変わらず、終わりが見えないのですから。もう無駄だろうと。何をしても変わらないだろうと。目を閉じ、私のが来るのをひたすら待ち続けました。


 そんな時でした、私の下に一筋の光が舞い込んできたのは。決して強い輝きではない、本当に微かな光。ですが、優しくて温かな光。気付けば私は手を伸ばして……そこで意識が途切れました。


 次に私が目覚めたのは、雑音交じりの騒々しい男女の声が聞こえた時でした。もう名前も分からない、こんなところで終わるとは、でも旅は楽しかった気がする、やり取りは楽しげであったり悲しげであったり……聞いていて不思議と嫌な心地はしない、そんな声。未だにぼんやりとした視界の中、彼らは私に気付いたようでこちらに近づいてきました。首から下ははっきりと見えるのに、顔だけはぼやけている。そんな彼らは顔を覗き込むように私を見つめると再び何かを話し始めました。そんな彼らは頷くと、私にはっきりと聞こえる声でこう言いました。


「上手く使ってくれ。」


 と。何の事かと理解する前に、意識は再び朦朧とし、私は耐え切れず意識を手放してしまいました。


 そして訪れた、肉体の目覚めの時。何やら周囲を膜のようなもので覆われ、外側に薄らと人の頭のような影が映っており……それを認識した瞬間、身体に抗い難い奉仕の心。忠誠心。そういった類の気持ちが沸き上がるのを感じました。肉体の構築が完了し、膜が破れその身が顕現すると同時に無意識に地に膝を着け、新しいへと口上を述べている自分がいました。


「我が忠誠、御身に捧げます。マスター、何なりとお申し付けください。」







そしてお仕えして早々、マスターの話を聞いた私は早速ダンジョンを出て周囲の調査へと向かいました。ダンジョンの外は鬱蒼とした森が広がっており、余り視界が開けておらず闇夜に包まれた森の細部まで調べようとすると少し手間が掛かりそうです。後ろを振り返れば切り立った崖が聳え立ち、その一部がダンジョンの入り口として穴が空いているのですが……このままでは少々目立ちすぎますね。多少は偽装した方がいいかもしれない後ほど言上致しましょう。さて、ひとまずは上空から見下ろす形で目星を付けてから気になるところを調査するとしましょうか。


「……ふむ、ざっと見たところ脅威となりそうな存在は居ないようですね。」


何故使えるのかは知りませんが、身体が感覚で覚えていた気配遮断アンディテクトを使用して気配を絶ち周囲の探索にあたっているものの、ダンジョンの生贄となった村人が暮らしていたであろう村以外では見つけてもせいぜい猪等の害獣くらいでしょうか。わざわざ特筆して報告するようなものは……む?あれは……。


木々の隙間を駆け抜ける三つの影、そしてそれを追う十程度の集団の影。何やら面倒ごとな気もしますが、何か新たな情報を得られるかもしれませんし……まぁ特に利のない話であればだけのこと。兎に角、一度介入してみましょう。上空から両者の間に入るように降り立ち、対話を試みます。


「こんばんは、皆様。お困りでしたら話を聞きましょうか。」


極めて自然に、にこやかな笑顔で好々爺風を演じてみましたが、三人組も集団も突然の私の登場に困惑しているようでした。しかし、少しの空白の後ようやく現状を理解できたのか両者が同時に口を開きます。


「助けてくださいっ!」

「何だ爺!邪魔すんならぶっ殺すぞ!」


この言葉だけでどちらがであるかは一目瞭然。ですが念のため話を聞いておくべきですかね。明らかにならず者である集団の方へと身体を向け、問いかけました。


「此処は我がマスターの治める(予定の)土地。諍い事であれば他所でやって貰いたいのですが……まずはあなた方から話を聞きましょうか。あなた方はどうしてこの方々を追いかけていたのです?」


「おい無視すんな!……ちっ、そいつらはな、俺達のなんだよ。しかも超が付くほど特別な商品だ。それなのに商談が成立する直前に逃げ出しやがったんだ!おかげで俺達の面目は丸つぶれでな、もう多少から連れ戻してこいってボスに命令されてんだ。何せそいつらはなぁ、」

「馬鹿部外者に余計なこと言うな!」


おお、ぺらぺらと詳細に話してくれるかと思いましたが残念です。大方事情は分かったので構いませんが。さて、残りはこちらですか。よく見れば男女二人と子供が一人、恐らくどこかの一家ということでしょうかね。


「では今度はあなた方に。私に助けを求めた理由は何でしょうか。」


私の問いに口を紡ぐ一家と思しき三人。答えに窮するような質問はしていないはずなのですが。このまま黙っているようなら見て見ぬ振りもあり得るかと思っていた矢先、子供が口を開きました。


「あ、あの……い、いきなり知らないところに連れていかれて……お父さんもお母さんも、私も、ずっと辛くて……ただ、帰りたかった、の……。」


ゆっくりと言葉を紡いでいく度に目に涙を溜め声も震わせながら語りだす子供。ふむ、まぁこちらも事情は概ね想像通りでしたね。親らしき者よりも子供が先に話を切り出すとは思っていませんでしたが。その子供の様子に親も胸を打たれたのか、その場に両膝をつき、私に必死に訴えかけました。


「お願いします!私達はどうなっても構いません!せめて子供だけでも、どうか、どうか……!」




「対価を。」


「……え?」


「あなた方は助ける見返りとして何を対価として差し出すのですか?」


────────


書いてから思いましたが、敬語キャラの語り口で地の文も書くと何か違和感凄いですね。読んでいる皆さんはどうでしょうか。

もしかしたら後ほど地の文は修正するかもしれません。

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