13話。

 村人とは違い、しっかりと整った装備。一人一人が纏う圧、オーラがあるといった方がいいか。素人目から見ても場慣れしてます、と顔に書いてある四人組。う~ん、もしや彼らはかなり腕利きの冒険者なのでは?そうすると少し困ったことになる。


 私がダンジョンに仕掛けた罠は熟練の盗人シーフであれば簡単に見破られてしまう。盗賊の鼻だったか盗賊の勘だったか……名前は忘れたが、盗人シーフは技能を磨いていくと罠がどこにあるのかを感知する能力を手に入れる。四人組の中にも一人、身軽で動きやすい軽装の者がおり、恐らく彼が盗人シーフだろう。つまり右と左の道が余り足止めの効果を成さないのだ。まぁそもそも前回の村人が予想外だっただけで、罠だけで完全に侵入者を撃退できるとは考えていなかったし、オリゴスがいればダンジョンの制覇をされることなど万が一にも無いとは思っているが……それでも自分の考えた手札があっさりと攻略されてしまうのは悔しいものだ。


 どうしたものかと無い首を捻っていると、冒険者達が動き出した。彼らはまず左の道に向かうらしい。盗人シーフらしき男を先頭に、ゆっくりと慎重に進んで行く。村人とは違いあっさりと落とし穴を回避し、その先も盗人シーフが指を指すたびに罠が見破られる。手慣れている。過去にもこういったダンジョン攻略のようなことをした経験があるのだろう。不死アンデッドのことに夢中で適当に作った罠でもここまですいすいと進まれると少しへこむな。


 しかし次の罠はそれなりに自信がある。道の途中に小部屋があり、部屋の奥に宝箱を置いている。更にその宝箱にたどり着くには必ず決まったルートを歩かねばならない。少しでも間違ったルートを歩けば正しい道以外の部分が全て床が崩れ、地の底に真っ逆さまとなる。まぁ無事に正しいルートを通って宝箱を開けたところで中身は空なんだが。できたばかりのダンジョンに何を期待しているんだね。そういった精神的ダメージを与えたところで、更に更に宝箱を開けた瞬間から天井が下りて来る。急げば扉まで間に合う速度にはしてあるが、当然帰りも間違った道を歩けば床が抜ける。我ながら悪魔のような発想だ、人間というのはどうしても欲が出てしまう。そこを突いたいやらし過ぎる罠が満載の部屋。冒険者達もどうやら小部屋の存在に気付いたようだ。さあ、私の現状最高傑作の罠を堪能するがいい!





 彼らは小部屋を完全に無視して、先に進み始めた。





 な、な、なぜ!?どうして!?なんでそんな酷いことができる!?おかしいじゃないか!人間というのは愚かで、宝箱なんて見たら飛びつくような者ばかりじゃないのか!?もしくは自分のことを出し抜けるとでも思ってるのかと他者を侮り罠を看破した気になるような付け上がった奴!少なくとも私が今まで見て来た人間は全員そうだったぞ!?


 くっ……私の前提が間違っていたということか。そうだ、確かに完全に無視を決め込まれてしまえばこちらからできることはない。罠というものは殆どが受動的であり、相手から何らかのアクションがあってこそ機能する。相手の盗人シーフは相当の手練れのようだな。


 そのまま彼らは左の道を突き進み、オリゴス達の待つ古戦場跡、ボス部屋へと辿り着いた……と思いきや、彼らは来た道を引き返し始めた。冒険者達の体調が悪いといった様子はない。いや、少し顔色が悪いか?まさかオリゴスの放つ強者のオーラを察知したというのか。実力差があり過ぎればどれだけ自分が相手と比べて劣っていようがその実力差を理解することはできない。もしオリゴスの……骸骨将軍スケルトン・ジェネラルの実力を対峙することなく理解できたというのなら、やはり人間の中ではかなりの腕前の持ち主だ。これは思った以上に警戒の度合を引き上げた方がいいかもしれないな。


 彼らは入り口まで戻ると、少しの休憩をはさんだ後今度は右の道へと進み始めた。当然のように矢の罠は随時看破され、自分の中では不規則にしたつもりだった射出パターンもどうやら割り出されたようだ。自分でも把握していない無自覚の規則。それをも掴んでしまうとは、敵ながら天晴れと言うしかない。ちなみに右の道は左の道と対称になるように小部屋を設置していたが、こちらも無視された。解せぬ……。


 左の道である程度慣れたのか、右側の道はそんなに時間が掛からずに攻略されてしまった。ここでもボス部屋へと足を運ぶことはなく、そのまま引き返し入り口へと戻った。ここで私はようやく気付いた。彼らは攻略が目的なのではなく、このダンジョンの調査が目的なのではないかと。確かにあの村人達のことも含めて考えると色々とつじつまが合う気がする。


 恐らくこのダンジョンの近くにある村の住民がここを見つけ、試しに数人送り込んだ。送り込まれた村人は帰って来ることはなく、近くの冒険者ギルドに救援を要請した。そして攻略の前段階として先遣隊として調査のために冒険者が派遣された……という流れか。ふむ、それなら迂闊にボス部屋に入り込まないのも理解できるな。彼らの目的は生か死か、死線を乗り越え名誉を手に入れることではなく、生きてダンジョンの内情を報告することなのだから。う~む、正直そっちの方が困るな。私はまだまだ不死の研究やるべきことがある。そのためには地盤の安定と平穏が必要なのだ。


 こちらを害するつもりが現状はないのかもしれないが……将来のことを考えれば仕方がない。もし中央の道も抜けた上で、そのまま帰還しようとした場合は……。



 オリゴス最高戦力を以て彼らを排除する。



────────────


冒険者たちの命運やいかに。

生かすか殺すかも決まってないです。

あと名前も。何ならこの週末は名前を考えるのに使うかもしれません……。

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