6話。
今では存在しないはずの目を焼くような激しい光がようやく晴れようとしている。ただの頭蓋骨であるはずの我が身が光を感じていることに対して興奮を抱く間もなく、徐々に開けていく視界。我が眼に映ったそれに目を奪われるのは当然のことであった。
眼前に立っていたのは、明らかに
「……
これが、将軍の存在感。他の者を圧倒する、
「あ、ああ……はっ……はっ……。」
素晴らしい。実に素晴らしい。素晴らしい、のだが……何故私には今手足や肉体が存在しないのか。これほど恨めしく思ったことはない。触れたい。撫でたい。抱きしめたい。舐めたい。味わいたい。全身で彼の存在を感じたい。
ご馳走を前に待て、と命じられた犬のように
頭部を覆う鎧の目元、薄く開いた隙間から赤い眼光が私を見据える。明らかに私を認識して、私を見ている。そんな彼はゆっくりと片腕を動かし、腰に備えた大剣へと手を伸ばす。がしゃ。がしゃ。彼が身じろぐ度に鎧が鳴る。しかし、すらり、と大剣を鞘から引き抜いた時には鎧が擦れる音も、剣が鞘に擦れる音も鳴ることはなかった。一切無駄のない動作。剣の心得などさっぱりない私でも彼が優れた武人であることは理解できる。目の前で剣を抜く所作にも微動だにせず、彼の一挙一動を目に焼き付ける。まずい、と思うことすらない。仮に彼が制御範囲外の存在で、今一瞬のうちに私のコアが頭蓋骨と共に粉砕されたとしても……全く後悔や未練がないとは言わないが、かなりの満足感を持ってこの世を去ることができるだろう。
私が今世との別れを惜しむことなく剣を抜いた彼を見続けていると、再び彼が動き出す。彼が剣を頭上に構える。ああ、この大剣も素晴らしい物だ。黒曜のように美しく、彼が振るうたびに万物を裂き、万難を切り捨て、将軍の名に相応しい業物として後世に語り継がれてもおかしくはない代物だ。私の愛する
そうして剣は、地面に突き立てられた。続けて彼は、こう言った。
「……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます