4話。

 私は絶頂しかけていた。いや、絶頂していたかもしれない。いや、絶頂し続けているかもしれない。今私に肉体があったとすれば、目前に広がる素晴らしい光景を見ているだけで生娘のように頬を赤らめ、永遠に眺めていられることだろう。


 現れた一匹の骸骨スケルトンに夢中になっている内に、なんと30体、一個師小隊相当数の骸骨スケルトンが誕生していたのだ。余りにも嬉しい誤算だった。どうやらダンジョンの命令オーダーで魔物を生み出すには最低限必要なコストがあり、その支払ったコストに見合う量の魔物が誕生するらしい。つまり先ほどごそっと抜け落ちたコスト……ここでは生命力、としよう。感覚的に抜け落ちた生命力の量は私の内にある壺の3割程消費したように思える。私の現在の生命力の3割は、骸骨スケルトン30体に相当するというわけだ。


「はあ……はあ……私の一部がこの骸骨スケルトン達の中に……?あああああ、私が一体どれだけ不死アンデッドの仲間になれたらと考えたことか……!今その夢の一端が、ここに現実となっている……!!ん?いや待て、今の私は頭蓋骨のみ……すでに夢は達成されていた!?もう何もかもが夢のようで……いっそ死んでもいい!いや死にたくない!私はまだ死霊術の研究を続けるんだ!」


 そして存在しないはずの涎がじゅるりと垂れ落ちそうなほど、骸骨スケルトン達の骨に穴が空いてしまいそうなほど、じっくりじっくりと舐め回すようにつぶさに観察していった。そこで幾つか気付くことがあった。


 まず一つ目、全ての骸骨スケルトンが同じ規格であること。普通、骸骨スケルトンは人間の死体、骨格を媒体に生まれるためどこか歪であったり、基にする人体の体格によって背丈、骨密度などの性能が左右される。しかしここで生まれた骸骨スケルトンは全て、まったく同じなのだ。今まで数百、数千の骸骨スケルトンを見てきた私が言うんだから間違いない。


 そして二つ目、骨の性能が高い。これも本来は死んだ人間由来の物故か、少し朽ちていたり脆い箇所、死因となった箇所は最初から破壊されている、という弱点となる部分が必ず存在する。不死アンデッドと戦う際によく『弱点を点け』と言われるのだが、それはこれが原因だったりする。私の知っている不死アンデッドというのは、良くも悪くもこのように依り代の影響を受け易い。しかしここの骸骨スケルトン達はどれ一つとして傷がない。まるで至って健康、寧ろ骨まで鍛え上げた成人男性の肉体から綺麗に一切の傷を付けずに骨だけ抜き出しました、という代物をお出しされているようなものだ。


 そして最後に三つ目。これが一番の問題、いや素晴らしい点なのだが……。最初はただの確認作業だった。一番初めに召喚した骸骨スケルトンに対して前に歩け、という指示を出した。当然主人である私の指示には従うのだが、歩みを進めるうちに地面に突き刺さったままの剣や鎧を避けて歩いたのだ。何を当たり前のことを、と思うかもしれないが、不死アンデッド、特に低級の骸骨スケルトンには自我というものが存在しない。生前強い恨みや心残りを残した者がごくまれに人間のようなふるまいをする場合もあるが、非常に稀なケースだ。普通は物事を考えるということもない。だから私の出した指示に愚直に従い、剣や鎧に引っ掛かり転ぼうが前に進もうとするのが本来想定していた挙動なのだ。


「これは……素ンっっっっ……晴らしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 素晴らしい!実に素晴らしい!これは研究のし甲斐がある!非常に素晴らしい!骸骨スケルトンを召喚しただけでこれなのだ!きっと屍人グール怨霊ゴーストを召喚したらもっともっと新しいことに気付くに違いない!彼らを進化させたらもっともっと素晴らしい真実に近づけるだろう!


 想像するだけで妄想が止まらない。私のこれからの薔薇色の人生、骨生?はきっと楽しいことで満ち溢れているでしょう。さあ、次の検証を始めなくては……。



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 お気づきでしょうが、彼の口癖は「素晴らしい!」です。

 興奮すればするほどクソデカボイスになります。

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