3話。

 不死アンデッドの出現条件とは何か。細かく挙げていけばキリがないが、大まかに砕いて言えば『土壌』である。不死アンデッドにも住み易い土地というものがあり、骸骨スケルトンは古戦場、屍人グールは墓地、怨霊ゴーストは廃協会などなど……。勿論これはあくまでも発生し易い場所であり、必ずしもここにしか発生しないというわけではない。古戦場で発生する屍人グール怨霊ゴーストも幾らでもいる。しかし、生まれた後に定着するかどうかは別なのだ。


 不死アンデッドにも食事の概念はある。人間と全く同じ物ではないが、やはり成長するには不死アンデッドの好む物を摂取し続けなければならない。当然不死アンデッドの種族毎に好みは違うため、その点も配慮しなければならない。そこが土地に不死アンデッドが定着するかどうかの話につながってくる。


 逆に言えば、どのような土地であれ特定の不死アンデッドが好む『土壌』へと変貌させれば良い。以前の場所では不死アンデッドが好む土地にするなど周囲の圧力から大規模に行うことはできなかったが、ここ《ダンジョン》では全く気にする必要はない。好きなだけ不死アンデッド好みの場所へと弄れるのだ!


「ふっふっふ……ついに、ついにできたぞ第一階層!私の姿を見た時から最初の研究はこの種族にすると決めていたのだ!これ以上相応しい『土壌』はこの世に存在しないだろう!」


 目の前に広がるのは、荒れ果てた土地。地面は数多の足跡で踏み固められ、至る所に錆び、傷み、ぼろぼろになった剣や鎧が散見される。つわもの共の存在した跡。残念ながら人骨や血肉の類は現状では用意できなかったが、いずれ訪れるお客様の血肉を以て埋めて貰うとしよう。幸いだったのは階層作成の小物として剣や鎧は生成することができたため、可能な限り古戦場の雰囲気を醸し出すことに成功した。ちなみに地面は鎧の足部分だけ生成して口で咥えながら歩き回った。この身体に疲労というものは無いと思うのだが、それでも精神的に疲れた。


 実際の古戦場跡に残っている人骨や魂の事を考えれば骸骨スケルトンの発生率自体は低いだろうが、『土壌』はある程度再現出来ている。放っておけば『土壌』の生み出す負のエネルギー、闇の魔力を元に少しずつではあるが骸骨スケルトンが生まれていくことだろう。しかし今はそれだけでは満足できない。なぜなら今の私には不死アンデッドを直接生み出す力があるのだから。


「さあ!不死アンデッドの楽園への一歩を私と共に踏み出そう!不死召喚サモン・アンデッド!!」


 一面に広がるお手製古戦場跡を前に、命令オーダーを下す。私の身体頭蓋骨を構成する何かがごそっと抜け落ちる感覚と同時に、辺りを眩い光が包み込む。


 かっと周囲を照らした後、荒れた土地がぼこぼこと不規則に蠢き出し、遂に一本の骨の腕が地面を突き破った。かたかたと音を立てながら、ぼこっ。ぼこっ。と土を掘り返すように盛り上げ、その全貌を露わにしていく。


 かくして、私の前には一体の骸骨スケルトンが姿を現した。


「ああ。ああ……!なんと素晴らしい能力……!すでに生まれている不死アンデッドを使役し、呼び出すことなら以前の私にも出来たが、一から不死アンデッドを生み出し使役する等神の御業としか思えない……!さあ、さあ!今まで私が見てきた骸骨スケルトンと何が違うのか、それとも同じなのか!全てを私に見せてくれたまえええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 研究欲の我慢の限界が来たのか、自分の姿を初めて認識したときと同じように極度の興奮状態を示す炎を双眸に宿しながら骸骨スケルトンの周りを叫び回り始めた。心なしか感情を持たないはずの骸骨スケルトンが鬱陶しいと感じているように見えるのもお構いなしに、むしろそのことに気付き「骸骨スケルトンが感情を!?!?!?!?!?」と更に興奮のボルテージを上げながら骸骨スケルトンの身体を隅々まで観察していた。




 ぼこっ。


 他にも盛り上がり始めた土があることにも気づかずに。

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