【第一章:転校生(6)】

「と言うわけで・・・」と真中しずえは沢木キョウの方を向いて発言はつげんうながした。


「田中君が良いんだったら言うけど、本当に良いんだね?」と、左手で前髪まえがみを上げる仕草しぐさをしながら沢木キョウは田中洋一に確認かくにんした。「うん、いいよ」と田中洋一は答えた。


「僕が思うに、このトランプってカードの裏に何のカードかが書いてあるような気がするんだよ。」

「でも、どれも同じ模様もようだよ。」


すると空木カンナが、「ねぇ、しずえちゃん、このカードとこのカード、なんか裏の模様がちがくない?」と沢木キョウと真中しずえの会話をさえぎってきた。


「そうかなあ・・・」と真中しずえは言ったが、「ほら、ここ。この真ん中の円形の模様がちょっと違うよ。こっちは青い色がいのに、こっちは色の濃い場所が少しずれてる」と言いながら空木カンナは模様が違ってる箇所かしょを指で押さえた。その途端とたん、田中洋一は「あちゃー」という顔をした。


「え。本当?それがタネなの?トランプの裏の模様でどのカードかわかるってこと?」

「まあ、そうかな。」

「えー、でもそれだけじゃわからないよ。だって洋一君はトランプの裏の模様を見ただけでしょ。一枚ずつすべての模様を覚えたってこと?洋一君が?そんなことできるわけないじゃん。」

「なんか僕ちょっとバカにされてる?」

「え?違う違う。全然違うよ。バカになんかしてないよ。」

「本当?」

「ほんとほんと。だから、どうやって裏の模様だけでカードを見分みわけたか教えて。」

「えー、どうしようかなー。羽加瀬君や空木さんはわかる?」


羽加瀬信太はちょっといて「模様の違いに何かパターンがありそうな気がするんだけど、よくわからないや」と言った。そして、トランプの裏の模様を何枚かくらべていた空木カンナに目を向けて「空木さんは何かわかった?」と聞いた。


「このトランプの裏って円形の模様が五つあるでしょ。真ん中に大きな円形の模様と、四隅よすみにはそれよりも少しだけ小さな円形の模様。その五つの模様ってぱっと見では同じに見えるんだけど、よくみると少しずつ違うんだよね。点対称てんたいしょうになっていたり線対称せんたいしょうになっていたり、で。でも、ほら、このカードみたいに対称たいしょうになっていない模様もあるんだよね。」


「あー、ほんとだ。良く気づいたね、カンナ」と、真中しずえは感心かんしんして言う。そして「いきなりそんなところまでバレちゃうとは思わなかったな・・・」と頭をポリポリと書きながら田中洋一がためいきじりで続いて言った。


「って言うことは、それが正解せいかい?」

「うん、正解。裏の模様のパターンでどのカードかわかるんだ。」

「でも、どうやって?」

「えっとね、真ん中の大きな円形の模様はトランプの種類を示してるんだよ。例えば、こっちは線対称の模様でしょ。それはハートなんだよ。」

「じゃあ、こっちの点対称は?」

「それはダイヤ。」

「これは?」

「えっと、それは点対称でも線対称でもないから、クローバーだね。」

「じゃあ、点対称でもあり線対称でもある模様はスペード?」

「正解。」


「で、数字を表すのは周囲しゅういの4つの模様なんだよね?」と、沢木キョウが二人の会話に割って入った。


「うん、そうなんだ。そっちはちょっと複雑ふくざつ。周囲の四つの模様のうち、一つだけ点対称かつ線対称なら、そのカードは『1』を表すんだ。そして、点対称かつ線対称の模様の数が増えるごとに『2』、『3』、『4』となるんだよ」と田中洋一が続ける。


「そうすると、点対称の模様の数が一つだけならそのカードは『5』で、点対称の模様が増えるごとに『6』、『7』、『8』となるんだね」とトランプの表と裏を見比みくらべながら空木カンナがくわえる。


「うん。で、『9』から『12』は線対称の模様の数で表してるんだよ」と田中洋一が言うと、「じゃあ、『13』は?」と真中しずえが間髪かんぱつ入れずに聞いてきた。


「それは四隅よすみの模様が全て点対称でも線対称でもない図形ずけいのカードなんじゃないかな?」と、これまでだまってみんなの会話を聞いていた羽加瀬信太が少し小さな声で言った。


「当たり。みんな良くわかるね。この手品のタネが今日バレるとは思わなかったよ」と、田中洋一が苦笑にがわらいをしながら言うと、「沢木君がトランプの裏にタネがあるって言ったからだね」と、トランプを両手に何枚かずつ持ちながら真中しずえが沢木キョウに向かって言った。


「手品のタネをばらすようなことをしてごめんね。」

「ううん、全然いいよ。でも、よくわかったね。」

「実はね、これと同じような手品をアメリカでも見たことがあって、僕もお店で買って持ってたんだよ。」

「あー、そうなんだ。」

「でも、タネがあるとは言っても、模様のパターンをおぼえる必要ひつようがあるから、これって少し面倒めんどうな手品だよね。」

「まあね。これでも結構けっこう頑張がんばって覚えたんだ。」


「手品のタネはわかったけど、確かにちょっと複雑だね。洋一君にしては良く覚えたなと思うよ」と、半分からかいながら真中しずえが言うと、「余計よけいなお世話」とトランプのたばそろえていた田中洋一が笑って言った。


すると、「あれ、どうしたの?」と空木カンナが沢木キョウに聞いた。


「え?」

「なんか考えごとしているような感じだったから。」

「いや、別に何でもないよ。ただ、田中君が頑張って覚えた自分の手品のタネがばれたのに、普通ふつうににこやかにしてるから少しおどろいただけ。くやしがったり、ムッとしたりはしないんだね。」


「洋一君はそんな細かいことは気にしないよね?」と、真中しずえが言うと、「手品のタネがばれてみんなに笑われるまでが僕の手品ショーだからね」と言って、なみだをぬぐうそぶりをして田中洋一はみんなを笑わせた。


「ほんとにおこったりしてないの?」と、左目にかかりそうだった前髪まえがみをあげながら沢木キョウは聞いた。


「全然だよ。本音ほんねを言うとちょっとくやしいなとは思うけど、みんなが僕の手品を見て楽しんでくれてるってだけでいいんだ。ほんと気にしないでいいよ。」

「君はナイスな人なんだね。」

「え?そう面と向かっていわれるとちょっとれるね。」


「いつもめられることないもんね!」と、真中しずえがふたたびからかう。


「もう、本当に余計なお世話だよ。でも、僕の手品を見てくれる友達が一人増えてうれしいよ。って、えっと、沢木君はもう僕らの友達・・・だよね?」

「もちろんだよ。友達が一人もいない学校に転校してきて不安だったけど、初日しょにちにこんなに沢山たくさんの友達ができて嬉しいな。これからよろしく。あ、それと、僕のことはキョウって呼んでいいよ。アメリカでもみんなそう呼んでたし。」


「じゃあ、みんな下の名前でびあおうね」と、真中しずえがって入る。「それ、この会話の流れ的には僕のセリフだと思うんだけど・・・」と田中洋一が言うと、みんなは一斉いっせいわらった。


(「第一章:転校生」おわり)

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