25 すったもんだ

科学的なものでないとすれば何らかの魔法により居場所がバレていると考えるしかないだろう。ともなれば何に魔法をかけられているのかが問題だ。


「追跡魔法か」


「追いかけられているときは困惑であまり頭が働かなかったが、今考えるとその可能性が高いだろうな。だが、そんなものかけられた覚えはないぞ?いや、覚えがあったらダメか」


「最近なにか面識の無い者に、自分の私物を渡したりしてないか?修理だとか、修繕だとか」


「うーん……」


 騎士が考え込む。


 自覚が無く、違和感が無いのならば当たり前を利用されている可能性が高い。現代人で言うのならば、スマホを常時携帯する人が多い。そこを踏まえると携帯に監視アプリなんか入れてしまえば場所は筒抜けだ。スマホでなくとも常に持ち歩いている物、鞄とかストラップとかがその対象になりやすいらしい。好奇心で調べたネットの情報が、この世界に通じかはわからないけれど参考にする分にはいいだろう。


「なんでもいい。例えば、その腰に着けている剣を研磨にだしたとか」


「それはない。だが今使っているマントはいつの間にか破けていて修理に出したな。これ、リバーシで違うもののように見えるだろうが、いつも使ってるものなんだよ」


「他は?」


「いや、これくらいだな」


「……篠野部、来た」


 失言したこと気にしていたのか。戌井は先程まで黙っていたが、不安げな表情で荒くれ者の来訪を告げた。ここまで耐えたのは予想外だが嬉しい誤算だな。


「どっちだ?」


「噴水正面から見て一時の方向」


「僕らが来たのと同じ方向か」


 さて、この状態をどうすべきか。マントで確定してるわけではない以上別の何かの可能性がある。僕と騎士が透明化して戌井に言伝を頼み残る?また戌井に縛り上げさせるか?


「……マントは脱がないで、このまま行こう。不審者を魔具堂に連れていきたくないが、仕方無いだろう」


「早くしないと来るよ」


「わかってる。今から向かう場所は魔具堂。一応だが追跡魔法の確認をして貰おう」


 発案者である僕を先頭として進んでいく。戌井には通ってきた道と、その周辺に糸を張るように指示をした。こうすればさっきのように戌井が相手の位置を察知できるだろう。 


 メンバーに騎士を加え路地裏を走っていく。後ろや屋根の上から飛び出てくるなんて事はなかったが、戌井の話によれば間違いなく僕らの方向に来ているのだと。


「戌井、テグスで妨害できないか?」


「軽くでいいならできるよ。拘束したお陰で在庫が少ないんだよ」


「それでもいい」


「オッケー」


 これならば少しは時間が稼げるだろう。


「魔具堂って何なんだ?」


「魔法具や魔道書を売ってる店」


「師匠の店」


「君らの師匠とか気になりすぎるな」


 妨害をいれつつ、裏路地から表の通りに出る。複雑な道を行き、何とかチンピラたちとの距離を稼いで魔具堂についた。


__バタン!__


 勢いよく開けてしまった扉が大きな音を立てて壁にぶつかった。


「ふお!?」


 扉の音に驚いたマッドハッド氏は椅子からコロンと転げ落ちた。


「なんじゃあ!?」


「早く入って」


「ま、まってくれ。なんだこの怪しい店!?」


「いいから早く入る!」


「うお!?力強い!?」


 僕らと同じような感想をこぼし中に入るのを拒む騎士を戌井が店内に、いつもは発揮しないような馬鹿力__いや、魔法で押し込まれ、勢いに負けて顔から行ってしまった。


 戌井が騎士を店の中に押し込んだのを見て僕は慌てて扉を閉め急いで鍵をかけた。


「マッドハッド氏!なんでもいいのでこの店事、僕らを隠す魔法をかけてください!」


「ふむ、いいじゃろう」


 先程まで地面に転がり何事かとこちらを見ていた。僕や戌井、騎士の慌てように、ただ事ではないと判断して直ぐに杖を振るってくれた。


「今、この店に認識阻害の魔法をかけた。ここは空き地になっとると認識するじゃろう。向こうが対策を講じるか、何かが切っ掛けに認識阻害が解除されるまではの」


「はぁ……ありがとうございます。いきなり、すみませんでした」


「……あんだけ走ったのシマシマベアーの時以来かも」


「いってて、まさか女の子に力押しで負けるなんで……俺って剣と防具付けてるはずだから結構重いはずなんだけど……」


 騎士は焦った戌井によりテグスに引っ張られ、戌井に突き飛ばされるような形で店内に転がっており、それを戌井の素の力かと思ったのか落ち込んでいた。


「あんたが店に入ろうとしないからテグスで引っ張り込んだの!人をゴリラみたいに言わないで!」


 騎士の言い方に不服をもった戌井が騎士に噛みついた。だが直ぐに不満をどこかに捨てたのか、騎士に手を差し出していた。


「突き飛ばしたのは謝るから、いつまでも伏せたないで、起きなよ」


「そうする。失礼」


 戌井の手を掴み、騎士が起き上がる。服を手で叩いている間にマッドハッド氏に事情説明をすることにした。


「何者かに国軍の騎士が狙われており、追跡魔法をかけられている。ある理由から助けることにして、魔法のことならと、わしのおる魔具堂に連れてきた。そういうことじゃな?」


「はい。そんなところです」


「なりほどの。魔法による事象について、わしを頼るというのは正解じゃろう。よくぞ、ここに来たの」


 ざっと、簡単に事情を話、理解して貰い。判断を誉められていると、どうにも後ろが騒がしい。


 何事かと思って振り替えれば騎士が青い顔をしてマッドハッド氏を見つめていた。何故とも思ったが“すごい魔道師”らしいの、この反応もわからなくはない。


 そう思っていたが次の瞬間、騎士が衝撃的な言葉をこぼした。


「も、元王宮魔道師だったけど筆頭の座を蹴って、魔法学校の教師になったジェフ・マッドハッド卿?」


「ん?そうじゃが?」


 騎士の言葉を肯定したマッドハッド氏により、店内の空気は固まってしまった。騎士からすれば“なんでこんな凄い人が田舎に”ってところだろう。でも僕と戌井は違った。


 マッドハッド氏はわかっていたはずだ、僕らの目的を、そのために必要なものはなにか。それは王宮勤めの者が知ることが許される異世界のものを召喚する魔法だと言うことを。


 僕と戌井が無言でマッドハッド氏に詰め寄る。


「じいさん。説明してくれない?」


「お話を、マッドハッド氏」


 平時の時よりも小さい声、だがその声には確実に覇気がこもっていた。


「……あれ、わし言っとらんかったか?確かに王宮魔道師じゃったが異世界の者を召喚する方法は知らんぞ?」


「……どういう事です?」


「あんなもん滅多に使わんからのう。王宮勤めの魔道師のみが知ることを許されるなんてあるが、それは魔法を使うときだけじゃ。基本、異世界の者を呼び出すことの無い普段じゃと筆頭しか知らんのだ。すまん、すまん。言い忘れとったの」


「……」


「……」


「どうしたんじゃ?二人とも」


「ふ、二人のさっきの顔、怖かった……」


「いや、うん。なんでもないよ。うん」


「はぁ……」


 なんと言うか……今の気持ちをどう表現すればいいのかわからない。さっきまでの不信感や激情と言うのに相応しいかどうかわからない何かは脱力感に変わってしまった。


 ……お年寄りだから仕方ないと思うべきなのだろうか。


「……ちょっと、座らせて」


「……僕も」


「おお、椅子を出してやろうな」


 僕らがここまで疲労している理由である本人は呑気に魔法を椅子で奥から出そうとしていた。


「ええっと。ご、ご苦労様です?」


「はは、うん。大丈夫」


「ああ……」


 魔法で人数分の椅子を用意し、倒れてしまった椅子を起こす。いつの間にかポットを持ってきて紅茶を入れだした。


「まあまあ、一先ず茶でも飲んで落ち着きなさいな」


「余計に私らの心をかきみだした本人はじいさんじゃんか」


「いやあ、ほんとにすまんのう。当たり前の事過ぎて言い忘れとった」


「そうですか」


 今度からちゃんと確認しておこう……。

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