24 不憫な騎士

カルタ視点


カツアゲされている王国軍のお忍び中の騎士を発見した。字面のインパクトは中々だな。不憫な騎士だ。


 騎士殿は争い事をしない方針で言ったのか。それとも路地裏で方をつけるつもりか。路地裏に駆け込んでいった。


「どうすっかねえ。素直に追いかける?」


「ああ、俺が透明になって追いかけよう。君は隠れて追いつつ合図を待て。合図をしたらあの荒くれ者達の足止めをしてくれ。集合場所は……君がこの前猫と戯れていた噴水だ」


「あいさい」


 僕らも少し遅れて路地裏に入る。人目につかないところで透明になる。


 戌井はどうするのかと、チラリと見てみれば鞄から大量のテグスを取り出し、それを操って屋根の上に上っていた。


「……器用だな」


 そういえばマッドハッド氏に言われていた課題、四日程していたら見れる程度に形になっていたな。


「じゃ、私は上から行くから」


「落ちるなよ」


「そっちこそバレないでね」


「ふん」


 窓に自分が写らないことを確認して、時々光を反射するテグスを目印に騎士とチンピラを目指して駆け出す。


 薄暗い路地裏を走っていくとチンピラの一人が地面に転がっていた。状況を見るに散乱している荷物に足をとられたんだろう。


 無視して進んでいくとすぐに追い付けた。者を倒して、人に紛れて残りの二人も撒いていた。これは介入する余地は無いかと思っていたら、どこからどもなく続々とチンピラ達が現れた。


 騎士は一度撒いたはずのチンピラ達の登場に驚きはしたものの、動揺するでなくすぐに走り出した。


 水路に落ちたチンピラも、荷物に下敷きになったチンピラも気づきば騎士を追いかけてる。


 さすがにこれは可笑しい。なにかに巻き込まれたか、その立場ゆえに狙われているのか判断はつかないが、もしかしたらシマシマベアーの一件と関係があるかもしれない。


 走って、走って、何度も振り払うがチンピラたちは食いついてくる。やはり、チンピラたちは何らかの手段で騎士を追跡してるのだろう。


 連絡機器を使っていないのを見るに騎士の居場所の受信端末が全員に行き届いている。受信端末らしきものは確認できていないのが痛手か。……後々、探るとしよう。


 騎士が困惑の言葉をこぼす。本当に不憫な騎士だな。


「さて、そろそろ動くか」


 光の屈折率を変えて、透明化したまま体の一部で一瞬だけ光を反射させる。


 これが合図、合図はなにかと言ってはいないがこれなら流石に気が付くだろう。


「おわっ!?」


 一番前にいたチンピラが戌井の仕掛けたであろうテグスに気が付くこと無く引っ掛かり、ズサァッと顔で地面を滑るようにして転けた。


「なっ!?」


「はあ!?」


 後続の二人は驚いて止まろうとするものの、その足を止められること無くテグスと最初に転んだチンピラに足を引っ掻け転けた。


 それを確認して、すぐに騎士の腕を掴み人声かけて集合場所に向かって走り出す。チラリと後ろを見てみればチンピラを屋根の上から覗き込み、テグスでグルグル巻きにしている戌井がいた。


 あのテグスならば、そこまで稼げる時間はないか。急ぐべきだな。


 騎士から飛ばされる疑問に答えること無く、手を引き続ける。その間に騎士に気づかれないように騎士も透明化させる。


 ここ二ヶ月と数日。暇があれば地図を見つつ、あちこち歩き回った結果。ある程度の地理は把握している。だから迷うこと無く突き進んでいく。


 集合場所の寂れた噴水、そこに付いたら騎士の手を離す。こうして触れなければ騎士の透明化はパッと解除される。


 そのあとは自分の透明化解除の為に集中する。


 そうして集中していると、いつの間にか戌井が到着していた。


「んー、怪我はなさそうかな?篠野部、戻れそう?」


「少し手こずった」


 どうやら僕は彼女ほど器用ではないらしい。魔法を得てから三ヶ月、何度やっても慣れないし手こずる。マッドハッド氏はこれが普通、戌井が早すぎると言っていた。


 ……少し、本の少しだけ劣等感を覚えた。


 まあ、今は関係ない話だ。


 少し時間をかけて透明化を解く。どうにか、こうにか、すぐに解除できるようにならなければ。


「助けてくれるのはありがたいんだけど……君ら、いったい何者だ?こんな田舎に透明化の魔法が使える魔道師は早々いないはずだぞ。そんなことが出来る君らくらいの年なら魔法学校にいってるはずだ」


 やっぱり若者は魔法学校や軍学校に憧れを持ち、その方向に進んでいくのか。


「ん?何か疑われてる?」


「仕方ないことだろう。いきなり、しかも透明になった状態で、ここまで連れてこられたんだから警戒もする。それに僕らは未だに見習い、この透明化は僕の自己魔法の一貫だ」


「なら尚更疑問だ。自己魔法まで開発しているのになぜ魔法学校に言ってないんだ?」


 ああ、確かに自己魔法はコツコツと組み立てていくものとのことだ。コツコツと積み上げるもの、だから僕らくらいにの年の子供には早々に自己魔法が使える者は少ない。これは、怪しまれても可笑しくないか。


「諸事情ー」


「はあ、まあいい。で、片田舎の魔道師殿達は、なんで俺を助けたんだ?」


 なにか話せない事情があると察してくれたのか、あっさりと退いてくれた。


 騎士の言葉に少し考える。言うべきか、適当に隠すべきか。


「目的があってね。ヘラクレス・アリス殿」


 包み隠さず言った方が余計な衝突はしなくてすむはずだ。


 騎士は僕が包み隠さずに目的を言ったからか、顔を隠すフードを外した。


「なるほど、俺が誰かわかっててやったと。下手に隠しだてするよりは好感がもてるな。その目的は?」


「王都、魔法学校について知ることだ」


 僕たちの目的は帰ること、その魔法の有りかは王宮、その王宮に勤めになるのには魔法学校に行くべきだ。


 僕らはマッドハッド氏以外に魔法学校に行こうとしていることを誰にも言っていない。相談するには魔法学校について調べるべきだと判断した。


「その前に、あの荒くれ者の対処が先じゃない?」


 戌井は苦い顔をして、そう言った。どうにもテグスが切れたのがわかったらしい。ジェスチャーで指と指をくっ付け、力ずくでブツッ千切れるのを表現していた。


 距離と位置がバレていることを考えると動いた方がいい。


「そうだな。そろそろ、ここにも来そうだ」


「お前ら、荒事には慣れてないだろ。どうすんだ?」


 荒くれ者の対処をすべきと言った戌井の言葉に心配の言葉をくれた。どうもずいぶんと優しいらしい。


「どうするって、そりゃあ」


「追跡できないようにするしかないだろ」


 追跡のための装置を壊すなり、魔法を解くなりす。それか、あのチンピラたちを諦めさせること。方法なんていくらでもある、一先ず安全で確実性の高い選択をとろう。


「さて、追跡の方法を探ろうか」


「機械か魔法か、また別の何かか。対処法も変わるもんね」


「ああ、戌井。悪いが周囲の警戒を」


「刺繍糸?仕付け糸?」


「切れやすく、分かりにくい仕付け糸を」


「あいよ」


 戌井は最初からわかっていたかのように鞄の中から多束の仕付け糸を取り出した。仕付け糸をまとめていた紐をほどき、その糸を操って放った。


「篠野部、この噴水の広場に入る道の全てに数メートル感覚で糸を配置した。切れた糸を感知できるから、そこから距離を把握できるよ。切れやすい仕付け糸を更にばらしてるから引っ掻けたとしても気づかないと思うよ。なにより地面すれすれに糸を張ったからね」


「それでいい」


「でも今すぐに移動しないでいいの?」


「敵がどこから現れるかわからない状態は避けておきたい。少なからず、どの方向からこちらに向かっているのかは知っておきたいからな」


「なーる。もう少し遠くまで仕掛けとくかな」


「……やっぱり、魔法学校に言っていないのが不思議だな」


 戌井も自己魔法が使えるのを知って騎士は余計に不思議そうにしていた。しかも戌井は自己魔法の連度は高いから余計にだ。他は苦戦しているけど。


「でさ、なんで場所わかるんだろ?発信器でも付けられてるのかな?」


「はっしん?」


「ああ、気にするな。方言が出ただけだからな」


「え?……あ、ごめん」


「そういうことか。なら別にいい」


 そう、この世界の科学力は低い。どこまで進んでいるか詳しいことはわからないが、少なくとも発振器が存在してないことは騎士の反応でわかった。そして、上手いこと方言だと誤解してくれたらしい。

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