最終回

身勝手な理由で殺人を犯したことに、私は怒りと困惑を一度に感じていた。しかし、彼は全くそれまでの余裕を崩さずに、冷徹にこう言った。


菊「そんなことだって?言ってくれるなぁ探偵さんよ。お前には分からんだろうがな、俺はこの作品を作り上げることに人生をかけていた。ここに婿入りしたのも、人喰い蜘蛛に間近に触れられるからだよ。


俺が求めた物に近づけるには、リアリティが必要だった。だから、人を殺す必要があった。これで満足か?」


彼はそう答えると、再び笑ってみせた。死者を冒涜するその様に、私の中では、だんだんと怒りが強まっていた。そんな渡したを笑っていた彼は…



___いつの間にか、死体に変わっていた。


突然何も言わなくなった菊さんの後ろに立っていたのは、網縫館の外に出なかったはずの椿さんだった。


私たちがさらに困惑したことを横目に、彼女は狂気的に笑った。その笑い声は、どこか悲しさを秘めているようだった。


椿「ハハハハハッ!そう、やっぱりここは呪われた所ね!現代になって人喰い蜘蛛の惨劇が再び起こるなんて、まさに蜘蛛屋敷と呼ぶのにふさわしいわ!」


彼女は、涙を流しながらそう言って、その手に持っていた、血で汚れた包丁を見た。


時間が経って、彼女は少しだけ落ち着いたのか、私たちにこう告げた。


椿「皆さん、このような惨劇に巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません。そして、最後にわがままを言わせてください。今すぐに、ここから立ち去ってください」


言われるがままに私たちは網縫館を後にした。その日の夕暮れ時に、網縫館から男女合わせて五人の死体が見つかったというニュースが報道された。


人喰い蜘蛛は、一人きりで巣食っていたのだ。誰からも理解されなくても、己のために、その命を捧げたのだ。


「蜘蛛屋敷殺人事件」と称したこの事件は、何ともやるせない事件だ。自己の利益のためだけに殺人を犯す。分かりやすく、ひどい話だが、犯人も人喰い蜘蛛に人生を狂わされた悲しい側面を持っていたようにも思える。


遥か遠い昔のことだと思っていたが、現代にも人喰い蜘蛛は呪いとなって残っていたというのだろう。その呪いが生み出した惨劇だったのだ。


(蜘蛛屋敷殺人事件 終)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

断罪の探偵 1 蜘蛛屋敷殺人事件 柊 睡蓮 @Hiragi-suiren

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ