第18話

夢遊病。睡眠時遊行症とも言う。眠っている時に無意識のうちに歩き回るが、当の本人にはその記憶は残らない。(ネットで調べた内容をざっくりまとめたらこうらしいby作者)


彼女が日記帳には、「何故か夜中に歩き回っていると夫に指摘され、診察を受けた結果、夢遊病と診断された」ということが書かれていた。


内容のせいか、それとも目立つ書かれ方だったのかははっきりと覚えていない。しかし、本当にそんな内容が書かれていたということははっきりと覚えている。


玉藻さんにとっても驚くべき出来事だろう。睡眠導入剤の作用時に、夢遊病によって倉庫まで行った彼女は、偶然にも犯人と遭遇してしまった。


そして、殺害の様子を見られたと勘違いした犯人によって、口封じとして殺されたのだ。


さらに残酷なのが、殺された彼女は、最後に足を切り落とされた。倉庫の傷はもうひとつの殺害で出来たものであるため、露天風呂でやられた可能性が高い。


このことについては納得してもらえた。しかし、その推理が正しいことで、新たに「何故犯人は倉庫にいたのか」という疑問が生まれた。


その疑問に対する答えは、この事件で使われたもうひとつのトリックを倉庫で行ったからだ。この事件における最も複雑なトリックだ。そのトリックは一玉さん殺害に使われたものだ。


トリックの証明のために、私だけが倉庫に戻り、ビデオ通話で説明していくことにした。


そもそも、一玉さんがどのように殺害されていたか思い出してもらおう。彼女の死体は大広間で首を吊った状態で発見された。死体の足は切り取られていた。


そして、少し時間が経った後に、縄がちぎれて死体がテーブルの上に落ちた…といった感じだ。


私が倉庫に着いたタイミングでもう始めても良いか聞くと、1分ほどの時間が経った後に始めて良いとメッセージが届いた。電話越しに一言、「それでは、今から首吊りトリックを証明していきます」と言った。


首吊りを偽装するためには縄が欠かせない。それも2、3m程度ではない、相当な長さが必要だ。


このトリックでは倉庫と大広間を行き来する必要がある。最初にすることは、倉庫の穴から大広間へ縄を降ろすことだ。この時に縄が全て落ちると首吊りを偽装出来なくなるため、縄の先端を縛って穴から落ちないようにする。


倉庫での作業を終えたら、次は大広間だ。犯人は大広間へ行くと、一玉さんの首を絞めた。この時は私のカバンを使ったが、実際は生身の人間の首だ。


足を切り落とすことを考えると、気を失わせる、最悪絞殺するために強く絞めたのだろう。そして、実際の犯行ではこのタイミングで足を切り落としたことになる。首吊りトリックを実行すると犯人ですら切れなくなるからだ。


大広間での作業を全て終えたら、再び倉庫へ戻る。そして首吊り偽装の大詰めに入る。柱に縄をくくり付ける作業だ。


この作業は、まず縄を倉庫から引っ張るところから始まる。死体の頭部が天井に着くぐらいが合図だ。そこまで行けば、少し落ちても首吊りを偽装することは可能だ。そして引っ張った縄を柱にくくり付ける。これは縄を固定するためのものだ。


この首吊りトリックと切り落とされた足の二つは、人間業ではないように見せかけたり、「人喰い蜘蛛伝説」を連想させたりすることで、「人喰い蜘蛛の仕業だ」と怪奇的なイメージを私たちに植え付けることに繋がる。


本来ならこれらの作業を全て終えたところで一玉さん殺害のトリックは全て完成していた。

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