第6話先輩

「よーしお前ら席に着けぇ」


椿が試験を受けた翌日、オレは学校にていつも通りのホームルームを過ごしていた。


今ホームルームを担当しているのはうちのクラスで昨日椿の情報を話していた担任の灰岡先生、通称灰人だ。


「昨日も言ってた通り、今日は新しく転入してきた生徒を紹介する」


ワァァァァ!!!


転入生と聞いて、クラスが一気に騒がしくなる。みんな元気だねぇ。


「お前らラッキーだな、今日からはうちのクラスの仲間だ。仲良くするように、というか問題起こされると後々担任であるオレが面倒事に巻き込まれるから仲良くしろ」


先生として、その発言はいいのだろうか?


「ってな訳で、入ってこーい」


ガラガラと扉が開かれ、廊下で待っていたであろう椿がゆっくりと教室に入ってくる。制服はまだ貰っていなかったので和服の袴姿でだ。他に着るものなかったのかね?


「八九師椿です」


「えーっ、八九師…ややこしいから椿と呼ばせてもらうな?」


「えぇ、構いませんよ」


「椿は八九師…お前もややこしくなるから神威って呼ぶわ」


「オレへの了承はなしですか…」


「椿は神威の遠い親戚らしい、ってな訳で親しみやすい神威のクラスに配属されたわけだ。みんな、神威に感謝しろぉ」


「どうぞよろしくお願いしますね」


ものすっごい笑顔で挨拶する椿は、ふと一瞬だけオレを見て何やら悪巧みしてそうな顔になったような気がした…気のせいか?


ワァァァァ!!!


「すっげー美人!!」


「お人形みたい!!」


「可愛い!!」


「スタイルいいー」


椿を見た感想は人によってそれぞれだが、椿を悪く言うやつは1人もいたりしなかった。まぁ悪く言うやつはオレが許さんのだが


「因みに」


椿が満面の笑みで、オレに視線を向ける。

…なんか嫌な予感がする。


「私、親戚であろうと関係なしに、私の身も心も既に神威の物ですので、ご理解お願いしますね?」


その言葉を聞いた途端、男共は灰と化し、女子は興奮し始めた。

ってかアイツ、早速やらかしやがった。


「えぇーー!!なになに?八九師君とそーゆー関係なの?!! 」


「キャー!!女子トークが捗りそー!!」


「八九師と椿ちゃんが…」


「あの野郎絶対に許さん」


「ジワジワとなぶり殺しにしてくれる」


今フリーザ様がいた!!?

オレはクラス中からの男子共の殺気に当てられ、ものすごく嫌な予感を感じながらホームルームを過ごしてしまうことになってしまった。


「はいはい、聞きたいことは休み時間にでも聞いてくれ、えーっと椿は神威の隣に席を用意しておいたからそこに座ってくれ」


「はい」


ゆっくりと、椿はオレの隣の席に座って小声で話しかけてくる。


「よろしく頼むぞ♪神威」


「やけに嬉しそうだな」


「当然じゃ、妾学校は初めてじゃからの、何気に憧れておったんじゃ」


「あ、さいですか」


そして授業は進み昼休み、いつものメンバーの佐竹と上原とオレの3人が飯を食おうとしていたところに、椿がやってきた。


「失礼、私もご一緒してもいいですか?」


「ことわr「どうぞどうぞ!!汚い所ですが」「オレ達夢でも見てるのかな?」オイ」


ここは断るべきだろう、コイツは授業が1時限終わる度に質問攻めにあってた平穏とは程遠い休憩時間を過ごしてきたやつなんだぞ。

しかもこいつの噂は学校中に響き渡り、今では一躍時の人だ。


「フフッありがとうございます」


「あぁ、椿ちゃんにお礼言われちゃったよ」


「オレ、もういつ死んでも悔いは無いぜ」


やっすい命だなぁ


「あ、そうだ神威、はいコレ」


椿が自分の持っていた物とは別の、もう1つの弁当箱をオレに手渡してくる。


「?何これ」


「何ってお弁当よ?見たまんまの」


「いや、そうじゃなくて」


オレが聞きたいことはそこじゃない


「お袋が持たせたのか?朝は忙しいだろうからオレの弁当は要らねぇって言ったのに」


「違うわよ、私が作ったの」


「「「はっ!!?」」」


つまりその弁当は、椿が作ったと言うことに…これはマズイ!!!


「椿ちゃんの手作り弁当なんて、羨ましいぞ八九師ちくしょう!!」


「お前、幸せもんだなぁ」


オレの肩に手を置いて涙を流しながら話しかけてくる佐竹と上原だが、この程度ならまだ可愛いもんだ。なぜなら…


「椿ちゃんの手作り…」


「あいつ、マジなんなん」


「帰りにホームセンターでセメント買ってこねぇと」


「やつが逃げ出す前にな」


明らかに殺意のこもった視線が、教室の男子共から向けられているのにオレは気づいていたからだ。


「ほら、早く食べて、それともあーんして欲しい?」


そんな事を気にも止めず、椿はオレに弁当を手渡してくる。


「ニヤニヤしながら言うんじゃねぇよ全く」


オレは弁当を受け取り、蓋を開けた。

そして肝心の中身だが


「牡蠣フライに、刻んだオクラ…玉ねぎの炒め物に、白米の上に胡麻…デザートはアボカド…」


精のつくものばっか…


「神威には(闘いを)頑張って貰わないといけないからね」


おい、重要な所を省いて意味深にするんじゃない。


「八九師!!お前ぇ〜!!!」


「もう椿ちゃんとそんなところまで!!!許せん!!オレはお前を許せねぇ!!!」


やっべ、嫉妬の念で凶暴化しそうになってるこいつら


「そういえば、さっき机の引き出しにこんなものが入ってたのですが」


椿が見せてきたのは3通の手紙…おい、この時代にラブレターか?


「椿ちゃん、それはラブレターですよラブレター」


「チッもう手を回してる奴らがいやがったのか」


「ラブレター?これが…」


ってかいつの間に引き出しに入れたんだそいつらは、


「もう読んだのか?」


「ううん、まだ」


「なんならオレが読んでやるよ」


オレがラブレターに手を伸ばすと、椿は取られる前にオレからラブレターをヒョイっと距離をとった。


「ダメ、これは勇気を出して書いてくれたんだから、他の人に読ませたりしたら可哀想よ」


「椿ちゃん…」


「なんてええ子や…」


涙を流しながら天を仰ぐ2人だが、椿はそんなこともお構い無しに、3通のラブレターを読み終える。


「どうやら放課後に体育館裏と校庭と校舎裏でそれぞれ待ってるみたい。名前は書いてないけど」


ナニソレ、分身でもして行けっての?


「どーすんだよ?さすがに同時には行けねぇだろ?」


「うん、だから順番に断ってくるから、帰りは待っててね神威」


面倒くさっ!!しかも断るの確定かよ。


「椿ちゃんは八九師にゾッコンだなぁ」


「羨ましいこった」


オレ達を見てる佐竹と上原が何やらコソコソと話しているが、聞こえねぇ


それから放課後、椿が告白を断りに行ってる頃、オレはと言うと


「待て八九師ぃ!!!逃がさんぞぉ!!!」


「ちょっとオレ達とかくれんぼしようぜ!!鬼はオレ達がやってやるからよぉ〜!!」


「ちゃんと隠れられるようにセメント持ってきてやったからよぉ!!!」


「埋める気じゃねぇかちくしょぉぉぉぉ!!!」


殺気を纏った男子共から、全力で逃げ回っていた。


「ぜぇ!!はぁ!!くそっ!学校中敵だらけじゃねぇか!!」


オレは荒い息を抑えつつ、柱の影に隠れていた。


「おい」


「!!!?」


そこに、1人の男子生徒がオレの前に現れる。赤い髪にオレより少し背が高く、つり目で細身だがいかつそうな男だ。


「ちょうどよかった、ちょっと付き合え」


え?告白ですか?


「ごめんなさい、僕ノーマルなんです」


「告白じゃねぇよ!!!」


男子生徒はオレの目を見ながら話し出す。


「オレは2年の里見ってんだ。お前に話しがある」


先輩だったのか、全く分からなかった。


「その先輩がオレになんの御用で?」


「お前、刀持ってるだろ」


「!!」


まさかの言葉に、オレは一瞬だが息をすることさえ忘れてしまっていた。


「ついてこい、オレが話しがあるのはその事についてだ」


ゴクリと唾を飲み込み、オレは里見先輩について行くこととなった。


そして、告白を断り終えた椿は…


「神威?…どこに行ったのじゃ?」


———————————————————————フォロー、応援、コメント等よろしくお願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る