第5話 ういは

「何はともあれ…学校どうしよう」


「しらぬ」


「でもこの傷のまま行く訳にもいかねぇよなぁ」


「しらぬ」


「オメーも入学届けの手続きに行かねぇといかねぇんじゃねぇのか?」


「しらぬ」


…ご機嫌ななめだなぁ、まぁ仕方ねぇっちゃ仕方ねぇんだろうけど。


「あの…ご主人様…」


オドオドとした様子で、ういはちゃんがオレに話しかけてくる。何かあったのか?


「ん?どうした?」


「あの…その…私のせいでごめんなさい」


そう言いながら頭を下げるういはちゃんはどこか申し訳なさそうに言ってくるが、この子は何一つ悪いことなんてしていないんだ。謝ることは無い。


「気にすんなよ、それに、世の中笑ってないと幸せが寄ってこねぇぞ?」


「は…はい!」


オレがういはちゃんをなだめた後、椿に目をやると


「むーーー、妾だって頑張ったのに」


気がつけば椿の頬袋がパンパンに…


「分かってるよ。ありがとな椿」


オレは、椿の頭を優しく撫でてあげた。


「…神威のたらし」


「なんで!!?」


「たらし?」


コテンと首を傾げるういはちゃん、そして、それでも時間は確実に進んでいた為、とりあえずオレは学校に行くことにした。


「やべっ!とにかく学校には行かねぇと」


ここで更にひとつ、問題が発生する。ういはちゃんどうしよう…


「あ、そうか、椿!ちょっとういはちゃんを頼んだ!」


「……妾との時間もう1日追加じゃ」


オレの貴重な休日が2日間全て潰された!!?


「だぁー!分かった!1日でも2日でも好きにしやがれってんだい!てやんでい!」


オレは、カバンを拾って学校に走り出す。


「とにかく!ういはちゃんを頼んだぞ!!!」




椿視点


「さて、任されたからにはしっかりと仕事をこなさんといかんわけじゃが」


妾は、ういはの顔をジッと見る。


「?」


とにかくこの幼子には注意せんといかんのう、神威はこの子のピュアな視線に弱すぎる。


「よいか?ういはよ、神威と一番最初に契ったのは妾じゃ、そこを忘れぬようにな」


「は、はい!分かりましゅっ!た!」


噛んだ…かわっ…はっ!いかんいかん、妾までほだかされそうになったわ。


「くっ!なんて卑劣なやつじゃ!」


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「大丈夫じゃから行くぞ、ついてまいれ」


妾は、ういはの手を引いて学校へと向かう、今日は手続きもあった為、都合よくお義母様もいる為、お義母様にういはの事を頼んでみるとしよう。


「あ!椿ちゃん!良かったぁどこに行ってたの?心配したのよ」


お義母様に心配をかけてしもうた、悪いことをしてまったのぅ


「申し訳ありませんお義母様、実は急な用を思い出しまして」


「急な用?それも気になるけど…その子は?」


ういはは、妾の前に出て、お義母様に挨拶をする。


「は…初めまして!ういはです!よろしくお願いしましゅ!」


また噛みおった。もはやわざとではなかろうか?


「あらぁ、可愛らしいわねぇ、椿ちゃんのお知り合い?」


「え、えぇまぁ、私の遠い親戚ですの」


嘘も方便じゃ、ここは心痛むがお義母様にはういはは妾の親戚と言うことで納得してもらおう。


「そうだったの」


「そこで、お義母様にお願いがありまして」


「ん?なになに?」


妾は話せない所を省き、家庭の事情ということにしてういはを家で預かれないかと頼んでみた。


「いいわよ」


「え!?いいんですか!?」


なんとあっさり…妾の時もそうじゃが、どこか抜けておるような気がせんくもないのぉ。


「こーんな可愛い子なら大歓迎よ!ね?ういはちゃーん」


お義母様は、ういはにギュッと抱きついて頬擦りをする。


「あ…あの…」


ういはは、どうしてよいのか分からずにただアタフタとしておったが。


「ん〜かわいいわねぇ、昔の沙耶を見てるみたい。あ、椿ちゃん、私がこの子の面倒を見ててあげるから、入学試験があるらしいの、受けていらっしゃいな」


「あ、はい、分かりました」


妾は走って、学校の中へと走っていった。



神威視点



「ウィーッス」


ガラガラという音を立てて、オレは学校の教室へと入っていくと、教室中の視線が一気にオレへと集まった。

あっ、そういやオレボロボロなんだった。


「ちょっ、お前どうしたんだよ?もう3時限目だし、ボロボロじゃねぇか」


「何かあったのか?」


佐竹と上原が、オレの所にやってきてオレに話しかけてくる。


「なんでもねぇ、ちょっと目と目が合った短パン小僧君にポケモン勝負を挑まれてポケモンがいないオレは肉体1つで戦って来たところだ」


「ポケモン自体この世にいねぇよ」


「つくならもっとマシな嘘つけよ」


友達を疑うなんて、酷いやつらだ。友情は大事にしないと儚く崩れるんだぞ。


「ま、案外大丈夫みたいだし、いつも通りでいいな」


「そうだな」


「オレ、オマエラ、キライダ」


もうちょっとくらい心配してくれてもいいと思うんだが、ここまでボロボロの人は普通いないよ?救急車呼ぼうよ。


「あ、そうだ昨日ゲーセンに来なかったお前にお土産だ」


佐竹がポケットからある物を取り出した。それはなんと


「胡蝶様のストラップじゃあないか!!!」


「お前胡蝶ちゃん好きだもんなぁ」


「キモイぐらいにな」


「失敬な!好きで何が悪い!」


好きなものを好きというのは悪いことでは無いはずだ。


「金はオレが出して上原が2回で取った。感謝しろよ?」


「お前らだいちゅき!」


オレの先程とは違う反応に、2人は呆れた顔をしていた。


「手のひらクルックルだな」


「手首がネジ切れる勢いだな」


こーゆーものなのだから仕方ない、オレはそーやって生きてきたのだ。


「おーい、お前ら席につけぇ、授業始めるぞぉ」


先生が教室に入ってきて、生徒たちは全員席に着く。


「あー、今日の授業は…って、八九師ぃお前その怪我どーした?」


「ちょっと短パン小僧君にポケモン勝負を挑まれまして」


「ふーん、ま、次から挑まれないようにしろよぉ」


適当にあしらわれた!!?


「そーいや、お前ら喜べ、近いうちに転校生が来るかもしれんぞ、オレさっきここに来る途中に別室で試験受けてるの見てきた」


キャァァァ!!!


教室中が、歓喜の悲鳴で湧き上がった。オレの怪我はもういいのね…


「先生!先生!その人ってイケメン?」


「いやーん、告白されちゃったらどーしよー」


「いやいや、かわいい女の子かもしれねぇじゃん!」


「かぁーっ!お友達になりてぇ!」


騙されるなお前ら、そいつの実態は刀だぞ。


「なぁなぁ先生!男?女?どっち?」


「喜べ男子共女の子だ。しかもエラいべっぴん」


ワァァァァ!!!


まだこのクラスになるとも決まってないのに、エラい騒ぎようだこと。


「はいはい、どうせ明日には分かるんだから授業するぞぉ」


そして授業は進み、放課後、今日は急いで帰らないといけない、椿の合否とういはちゃんの事が心配だからだ。


「八九師、今日は一緒に帰ろうぜぇ」


「昨日はゲーセンだったし、今日はどこ行くよ?」


「わりっ!今日も無理だ!また誘ってくれ!」


オレは、急いで教室を飛び出した。


「あいつ、バイトでも始めたんかな?」


「今度聞いてみようぜ」


バタン!と勢い良く扉を開けてオレは家に入った。


「ただいま!」


「あら、おかえり」


「おにぃおかえり〜」


帰ってきたオレを出迎えるお袋と沙耶、だが椿たちの姿が見えない。


「なぁにぃ?そんなに慌てて」


「お袋、椿は?」


「椿ちゃんならあんたの部屋に居るわよ。可愛い女の子と一緒にね」


「そ…そっか」


どうやら椿は、約束通りういはちゃんを連れて帰ってきてくれたようだ。


「あら、あんまり驚かないのね」


「い…いや、驚いてるよ!アハハハ」


「それになぁにぃ?この制服、ボロボロじゃない」


血とかは何とか水道で洗ったからごまかせたものの、やっぱ切れた後や破れはごまかせないか。


「ちょっと、教室から転落した」


「大事故じゃない!!?」


「お母さん大丈夫だって、現にこうしておにぃ帰ってきてるんだから」


妹よ、本来ならもっと心配しろと思うべきなのだろうが、今だけはグッジョブ


オレは、自分の部屋に行こうと階段を上る。


「あ、そうだ。部屋に行くんなら椿ちゃんに伝えてくれる?」


「?何を?」


お袋が、ウィンクしながらオレに言ってきた。


「椿ちゃん、試験合格だって、制服はもう少しかかるから明日は私服でいいけどもう登校していいそうよ」


「ん、了解」


「ただいまぁ」


ガチャ


オレが部屋の扉を開けると、そこには椿とういはちゃんが何やら話しをしていた。


「だから、神威の一番の使いは妾であって…あ、おかえりなのじゃ」


「おかえりご主人!」


「…なにやってんの?」


「何って、妾とういはのどちらが神威の一番の使いかを力説しておったところで」


その力説いる?


「ご主じーん!!」


ういはちゃんが、帰ってきたオレの足に嬉しそうに抱きつく、かわいっ!


「これういは!まだ話しの途中じゃろうが!」


「いーやー!お姉ちゃんのお話しもうやー!」


相当の力説だったのか、中々にキツイ話しだったようだ。


「まぁまぁ、落ち着けって椿」


「神威はういはに甘くないか?!!」


そんなこと言われてもなぁ


「あ、そうだ椿、試験は合格らしいぞ、私服でいいから明日から学校に来れるってよ」


それを聞いて、椿は胸を張って当然とでも言いたげな顔をする。


「当然じゃ」


あ、言ったわ


「あの程度の問題なら妾にとって造作もないぞ」


「ま、そりゃよかった」


「3人とも〜!ご飯出来たわよ〜!!」


「「「はーい」」」


お袋に呼ばれたオレ達は、リビングへと降りていった。

———————————————————————フォロー、応援、コメント等よろしくお願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る