第4話契りのやり直し



「持ち主が倒されたって…え!?あの人殺したのか!?」


マジで?オレヤバいんじゃね?と思い、ふと倒した男に視線を向ける。


「う…ううっ…」


あ…よかった生きてる。じゃあなんでういはちゃんはご主人様じゃなくなったって?


「ふむ、どうやらあの子の中では勝負に敗れる=《イコール》殺される事だと思い込んでしまっとるようじゃのう」


椿がそんな事を言って、ういはちゃんを見続ける。そうか、まだ幼いから言葉の意味を理解しきれていないんだ。

ってか、刀に幼いとかあんの?


「あの…ご主人様?」


完全にオレをご主人様としてロックオンしてるんだけどこの子、そしてそれを聞いた椿は何か負のオーラみたいなのを放ってるし。


「ヒッ!!?」


やべっ、思わずビビって声でちゃった。


「確かに、お主のご主人様は神威に負けたが、まだ生きておるじゃろう、お主のご主人はまだその男じゃぞ」


椿は負のオーラを出しつつも、笑顔で女の子に話しかける。


「いや!!私のせいで負けちゃったの!!もう足を引っ張るからって叩かれるのは嫌!!!」


おっと、幼子の本性が見えちゃったよ。まぁそりゃあのくらいの子が大の大人から叩かれてたら逃げたくもなるよなぁ。


「しかしじゃなぁ…」


椿も自分より小さい子を相手にする分、やりずらそうだし、これを聞いちゃった以上このままにしておくのも寝覚めが悪いし


「なぁ椿、いいんじゃないか?あの子のご主人権限を変えてあげても」


パァァァっ、という音でも聞こえてきそうなくらいのういはちゃんの笑顔に反して、椿は鬼のような形相でこちらを見てきた。


「神威!!!」


こわっ!でもここで引くのは何か違う気がする。ここで引いちゃダメだな。


「でも、このままにしておくのも可哀想じゃん、それにお前もこのままういはちゃんを帰したら寝覚めが悪いだろ?」


「ングッ…」


椿も同じことを考えてはいたのか、口を噤む。

まぁそりゃそうだろうな、会って2日目だが、椿は優しいやつだ。あの子をどうにかしようと考えてはいたんだろう。


「だって…その…契りをかわすとなると、1度刀にならないといけないわけで…その…あの…」


モジモジとさせながら、言い淀む椿だが、何がそんなに気に入らないのだろうか……あっ


「契るって事は…」


「ウム…その…接吻を…せねば…ならぬ訳で…」


それが怒ってた理由か…まぁでも、目の前で自分のご主人が違う人とキスって…うん、まぁ確かに嫌だわな。

だが、このままじゃ埒が明かない。ここは椿を何とか説得しねぇと。


「分かった!!今度の土曜日1日中お前の言うことを何でも聞こう!!それでどうだ!!」


「ホントか!!!」


うーわっ、すっげぇ嬉しそう、オレ何されるんだろ。

シンプルに怖い。


「んふふふ〜神威とデート、神威とデートじゃ〜」


小声で聞き取りずらいけど、とりあえず何とかなりそうでよかった。


「分かった、今回だけは目を瞑ろう。じゃがどーする?お主、呪文は唱えられるのか?」


「無理」


オレが即答した事で、椿は頭に手を置く。


「はぁ、そんな事だろうと思うたわ 」


「ナッハハ…」


もはや苦笑いしか出来ない…


そう言うと、椿はういはちゃんに向かってゆっくりと近ずき、背丈に合わせてしゃがみこむ。


「それでは、今から主の魂を1度外してもう一度移し身させるぞ、よいな?」


ういはちゃんは、黙って両手をギュッと身体の前で握りながらコクコクと頷いた。…かわいい


「何か今、余計な感情を察知したような気がするんじゃが」


こわっ!エスパー!?

オレはもう、余計な考えをしないように無我夢中で頭の中で素数を数えることにした。


「ではゆくぞ」


そして椿は、ういはちゃんの額に2本の指を当てて呪文を唱える。


「なれ、契りの契約を破棄したもう、再度移し身なり変わらん」


そう言ってういはちゃんの姿は光に包まれ、大太刀に変わる。


「え?終わり?」


「まだじゃ」


オレが終わりかと思った瞬間、再度刀が光り、ういはちゃんが姿を現す。


「ほれ、出来たぞ」


「意外とすぐなんだな」


「当たり前じゃ、こんなのを長々とやっておれるか、呪文を省略した分、妾の気を半分近く使こうたわ」


よく見ると、椿が先程より疲れているのが目に見えて分かった。よっぽど頑張ってくれたんだろう。


「絶対、褒美は頂くからの」


目がマジじゃん…

オレは椿から、視線をういはちゃんに変える。


ういはちゃんは自分の身体をジッと見ていた。


「これで…終わり?」


コテンと首を傾げるういはちゃんを、椿は機嫌の悪そうに返事をする。


「そうじゃ、あとは神威と契るなり、中国に行くなり、アメリカに行くなり好きにすればええわ」


後半2つ、願望で国外に追い出そうとしてんじゃん…


「あ…ありがとう!お姉ちゃん!」


ぺこりと頭を下げて大きな声で礼を言うういはちゃんに、さすがの椿も顔が真っ赤だ。


「べ…別に礼を言われる筋合いなどないわ…って何をニヤニヤ見ておるか!」


おっと、優しいやつなんだなと思いながら椿を見てたのがバレちまう。


「別にぃ〜、気にすんなっtムグッ!」


「ハァァァァァ!!!?」


視線を戻した途端、ういはちゃんが勢いよくオレの首に飛びついてキスをしてきた。そして、一瞬大太刀の姿に変わると、もう一度人の姿に戻って元気な笑顔でこちらを見る。


「これからよろしくお願いしましゅ!ご主人様!!!」


フッ、今日も家族の説得で一日をつかいきってしまうのだろうな。と、オレは悟った顔で天を仰いだ。


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