領主の娘はひろい世界に憧れているようです 12
「いやーやっぱフィールドにくると血が騒ぎますねー。なんつーかこう、普段は秘められしオークの血がふつふつと……! どっかに女騎士とか落ちてませんかね、ぐへへ」
「落ち着け。お前には無理な相談だと思うけど落ち着ついて」
「それは無理な相談です!」
「知ってた」
俺はリューを連れ、『シャクナの森』を訪れていた。
この気味の悪い森にはもうあまり近づきたくなかったが、ここでちょっとやるべきことがあったのだ。
ちょっとした用事の時は便利屋リューちゃんを使うに限るのだが――オークの血が覚醒してしまったらしく、人の話も聞かずにナイフを振り回している。
発情期の猫みたいである。
本当計算できねえ戦力だなこいつ……。
「……お前の一族ってみんなエルフみたいな見た目してるんだろ? もうエルフでいいじゃん。どうしてエルフみたいに森でお淑やかにできないの? なんでそんなに野蛮なの? バカなの? 死ぬの?」
「いやいやそこはですね、譲れない一線なんですよ。見た目はエルフでも心はオーク。野蛮が正義、女騎士に『クッ殺せ……』と言わせてやっと一人前、みたいなところがあります」
「オークって本当に女騎士狙ってんのか……」
やめろよ、かわいそうだろうが。
「かくいうわたしもね、全盛期にはちょっとしたバーサーカーだったわけですよ。ええ、切れた導火線と呼ばれて恐れられていました」
「お前、それバカにされてるからな」
その爆弾、一生着火しねえじゃねえか。
と、リューとバカ話をしていると――。
――ガサッ……
右手の茂みから音。
目を凝らすと、そこには子犬型の魔獣がいた。
「リュー、あの魔獣生け捕りにできるか?」
「女騎士ですか!?」
「魔獣だっつってんだろ、どんだけ女騎士クッ殺したいんだよ。いいからいけ」
「うぅ……人使いの荒い人ですよ、餌もくれないくせに。むしろ今にわたしを餌にしそうですね……」
リューはぶつぶつ呟きながらも、きっちり仕事をこなしてくれた。
リューに「うぉら!」とナイフの柄でぶん殴られ、気絶する魔獣。やだ野蛮。
「よしよし、よくやった」
俺は『ミラー』でキリシャの姿に化け、気絶した魔獣の顔を持ち上げた。
魔獣の瞼を親指で開け、目を合わせる。
そして、唱える。
”我が
すると、魔獣の首には赤い光の首輪がはまった。『
ちなみに、この首輪はテイム済みであることを他の冒険者に知らせるための目印だ。
今は不要なので無色にしておく。
俺の偽テイムじゃ数日くらいしか調伏できないだろうが、それで十分。
「リュー、あと五匹くらい同じように魔獣を捕まえてくれ」
**
その日、モンターヴォは『シャクナの森』の入口付近でずっと待機させられていた。
師匠のカイ(ほんとはモトキ)にそう命令されたのだ。
「まったく……どうして高貴にして比類なきエリートであるこの僕が森で待ちぼうけを……」
不満はあったが、言うことを聞かないとまたブートキャンプじみたしごきが待っているので、ちゃんと直立不動で待機していた。
木々の隙間をぬうように吹きつける風――吐き気をもよおすほど不快だが、我慢できないほどではない。
待ち続け、いつの間にやら陽はくれていた。
と、その時。
「ぎゃぁぁぁぁ……!!」
「助けてくれー!!」
「誰か、誰かぁぁぁ……!!」
森の中から甲高い悲鳴が聞こえてきた。
おそらく初級冒険者がろくな装備も身につけずに森に入り、『初心者殺し』にでも出会ったのだろう。
これだから愚民は、とモンターヴォは吐き捨てる。
財力だけではなく知力にも乏しいらしい。
フィールドでは万端の準備をしなくては死ぬに決まっているだろうが。
もちろん、モンターヴォには助けるつもりなどなかった。
庶民風情が死のうが生きようが、自分には関係ない。
勝手に死んでしまえばいい――
――その時ふと、モンターヴォの脳裏に街の人々の笑顔がよぎった。
しごきぬかれたモンターヴォに、頑張れ、負けるな、と声をかけてくれた善良な人々。
暖かい、人のぬくもり。
「――――」
今ここで、魔獣に襲われている冒険者たちを見捨てたら、あの人たちに会わせる顔がない。
なんとなく、そう思った。
「……まったく!」
モンターヴォは冒険者たちを助けようと走り出し――しかし。
『――ぼっちゃん……どぉして……どおしてなんですか……』
声が聞こえた。
あの日の声。
モンターヴォを縛り、呪い続ける声。
「あっ……」
モンターヴォは足を止めた。
襲われている冒険者を助けにいくのはやめにした。
そうだ、今更自分が善行を成していいわけがない。
正義の味方を気取るなど。
自分はずっと、悪徳の道を進まなくては――
「――おい、モンターヴォ!」
その時、モンターヴォの師匠であるカイが森の中から現れた。
「なにしてんだよ、あの悲鳴が聞こえないのか!? 早く助けに行け!」
「なぜ高貴にして冷酷な僕が庶民ごときの命を……あなたが行けばいいでしょう」
「うるさい! これは命令だ!」
「命令……命令ならば仕方がないですね」
(命令、これは命令だから仕方がないんです。僕は仕方なく冒険者たちを助けるんです)
大義名分を得たモンターヴォは両腕で枝を薙ぎ払いながら走り、冒険者たちの悲鳴が聞こえる森の奥へ向かった。
これは決して自分の意志ではない、と己に言い聞かせながら。
**
「うーん……」
モンターヴォの背を見送った俺は『ミラー』を解いて元の姿に戻った。
「俺が命令しなくても、今のモンターヴォなら助けにいくと思ったんだがなあ……」
俺は先ほど、『
魔獣をうまく使役し、冒険者をモンターヴォの待機場所付近へと追い立てた。
俺のシナリオでは、悲鳴を聞きつけたモンターヴォが
魔獣を退治して冒険者たちを救い、評判が超上がる――となるはずだったのだ。
しかし、モンターヴォは俺が促すまで冒険者を助けにいかなかった。なにやってんだぶっ殺すぞ。
「なーんかなにかに縛られてるって感じでしたね」
茂みに隠れていたリューがひょっこり顔を出す。
「そうだな。なんかトラウマでもあるんだろうなあ」
「まったく人ってやつはめんどくせーもんですよ。心のままに行動すれば大抵全部なんとかなるってぇのに」
「いや、お前くらい心のままに行動するのもどうかと思うけどな」
「お、ヤリ○ン男がそれ言っちゃいます? 手当たり次第心のままに女に手ぇつけまくってるモトキさんがそれ言っちゃいますー?」
「いや、これでも自制してるんだけどな」
「自制? 今まさにわたしの服に手を差し入れてるモトキさんのどこにそんなものが? またお外ですか! まだ微妙に明るいですから見られちゃいますから……! あなた人が接近しても平気で継続するから見られそうでいつも怖いんですよ! わたしのおっぱい他の人に見られても――ぁ……や……強くつままないで……くだ……さ……ぁあ……」
リューの服をベロンとたくしあげる。
ブラを剥ぎ取って、ポイッと放る。
丸出しになった双丘が夕陽に照らされる。
人が来たら見られてしまう――リューは焦っているだろうが、胸の弱い部分を俺に強くつままれているので、快感で身動きがとれないでいる。
「はは、みっともないな。お前も一応貴族のくせにお外でおっぱい丸出しか」
なじってやると、リューは涙目で俺を睨み、ぷるぷる震えながら頬を膨らませた。
しかし抵抗はできない様子。こういう時はかわいいもんだ。
「あーあ、このままだと見られるかもな。どうする、他の男たちに見られたら? ああ、見られたいんだっけ? お前の上向くおっぱい見せてやれば?」
リューの胸を指でいじめながら、耳元で言葉攻め。
「や……モト、キさん……以外に見られ……たく、な……ぁ」
……こういう時だけは本当にかわいいんだよな、こいつ。
そうしてリューをもてあそびながら、俺はモンターヴォのことを考える。
まあようは、自分を縛る鎖の声に従って生きている類のやつなのだろう。
鎖の声に従って生きるものは、どんどん行動や言動が単純化していく。
そうして、いつの間にかとるに足らない『キャラクター』になってしまう。
その鎖をほどいてやれば――モンターヴォは晴れて主人公への道を歩むことができる。
「モトキさ……他のこと、考えちゃ、や、です……」
「ん? ああ悪かった悪かった」
リューとキスをし、俺は続きを開始した。
「モトキさん、だけ……服着てて……ずる、いです……脱い、で……」
リューは震える手をこちらに伸ばし、俺の服を脱がしてくる。
まあ、たしかに俺だけ着てるのはフェアじゃなかったかもしれない。
俺は夕陽の元、リューと一緒に全裸になった。
……なるほど、たしかにこれは恥ずかしい。
見られるかも、というスリルを味わいながら――俺たちはそのまま獣みたいにしまくった。
リューはいつもの三倍くらい尽くしてくれた。
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新連載開始しました!!
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人間を操る禁忌のスキル【ヒューマンテイム】を使って上り詰めていく邪悪な少年の話です。
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