神官ミリアは神の言うことしか聞きません 2
「――というわけで、女神クィーラ様のご加護によってこの世界は成り立っているの。どう、いかにクィーラ様が偉大かわかったかしら?」
礼拝堂の奥にある小部屋で、神官ミリアは俺に対して数時間に及ぶ説法をノンストップで行った。
「はい……わかりました、よくわかりました、クィーラ様は偉大です……」
子供に化けてそれを聞いていた俺は、げんなりと頷く。
「あら、伝わったのならよかったわ。聡明にして賢明なる子羊よ、あなたにはきっと、クィーラ様のご加護があるはずよ」
よしよし、とミリアは俺の頭を撫でてくる
俺の頬をくすぐる彼女の金髪――いい匂いがする。
「…………」
俺はさりげに、間近にあるミリアの胸に目をやった。
純白の神官服に包まれているそれは、ルビィほどではないがなかなか大きい。
形もよさそうだ。
思わずごくりと息を飲んでしまった。
「それじゃあ、僕は家に帰りますね……」
洗脳じみたミリアの宗教教育に、俺の耳と体はすっかり疲れ果ててしまった。
今日はまだ他にやることがあるのだ。
早く帰ってリューと合流しなくては――と、席を立とうとした俺の肩をミリアがガシッと掴む。
「帰る? あらあら何を言ってるの、これから説法第二章が始まるところではないの。クィーラ様が
「いや……でも、もう僕お家に帰らないと……ちなみに説法って何章まであるの?」
「あらあら説法に終りなんてあるはずないわ。だってクィーラ様の御威光は未来永劫続くのだから。教えだって終わることなく無限に増えていくに決まってる。そんなの、当たり前のことではないの!」
「あの……でも僕、本当に家に……」
「いいえ、大丈夫。たとえ帰りがいくら遅くなっても親御さんはきっとわかってくれるはず。だってこの世にクィーラ様の教え以上に大事なものなどあり得ないもの。門限なんて問題ではないのよ」
逃げようとする俺の腕をぐいぐい引っ張るミリア。
……やばい、この女やばい。
本当に一つも人の話を聞いちゃいない。
クィーラ教はそこそこ大きな教団なのに、この教会がさびれている理由がわかった。
このちょっとアレな女神官に、みんなあまり関わりたくないのだ。
逃げようとする俺と逃がすまいとするミリアの攻防――
と、
「ミリア―! いるかー?」
礼拝堂の方から声が聞こえた。
こんな時間に参拝者か?
「この声は!」
ミリアは顔に喜色を浮かべ、慌てた様子で礼拝堂の方へと駆けた。
俺もそのあとについていく。
「ユータロウ……?」
ドアの隙間からのぞくと、礼拝堂には転生者のユータロウがきていた。
ミリアはユータロウに膝まづく。
「ユータロウ様……女神クィーラがこの世界に遣わした、遠き尊き転生者……今日はなんのご用なの?」
どうやらユータロウは、女神クィーラが遣わした転生者らしい。
なるほど、だからミリアはユータロウを愛し、ハーレム要員の一人になっているのだろう。
「ああ……遠征から帰ったからな。クィーラ様に戦果を報告してほしくてな!」
ユータロウはさわやかに答えた。
その表情がいまいち冴えないのは、先日俺に女を一人奪われてしまったからだろうか。
「あらあら、それくらいお安い御用。
ミリアはユータロウが遠征で成した偉業を聞き出し、紙に書きつけていく。
そしてミリアはその紙を、祭壇の火にくべた。
『天送の儀』と呼ばれる儀式だ。
「女神クィーラよ、ユータロウに祝福を!」
ミリアがそう言うと同時、爽やかな風が舞い起こった。
その風はユータロウの胸の中に吸い込まれていく。
「……あれが、レベルアップか?」
この世界における神官の役割は、おおきくわけて2つ。
まず一つ目は、冒険者の武功を女神に報告すること。
女神はそれに合わせて、冒険者に新たな力を与える。
ま、要はレベルアップだ。
そしてもう一つは――いや、これはまた後に語ろう。
「あらあら? なんだかクィーラ様がお怒り……いえ、がっかりされているのかしら」
ミリアはクィーラの彫像に向かって、不思議そうに首を傾げた。
彼女にだけ感じるなにかがあるのだろう。
はっきりわかるわけではないが、クィーラの感情が漠然と伝わってくるのだ、きっと。
女神クィーラが怒っている――その原因は明白だ。
自分の遣わしたユータロウが、ハーレム要員を一人寝取られたから。
やはり俺のあの行為は、しっかりとユータロウ陣営にダメージを当てている。
俺は小さくガッツポーズをしながら、こっそり教会の裏口から出て行った。
**
教会から逃げた俺は宿に戻ってリューを連れ出し、ある場所へと向かった。
ミリアの説法が長引いたせいでこんな夜更けになってしまったが、しかし夜遅い方が好都合ではある。
なにせ俺はこれから――墓を暴くのだから。
半時ほど歩き、俺とリューは人気のない墓所へと到着した。
「いやーモトキさんが変態猟奇野郎ってのは前々からわかっていましたが、まさか墓地にまでわたしを連れ込むとは。あなたの変態度合を少し見誤っていたようです。はいはいどんなプレイをお望みですか、棺をベッドに見立ててわたしを押し倒しますか? 腰が冷えそうですが、まあ対応してあげないこともないですよ。バッチコイです!」
「いや、さすがに今日はそういうんじゃない……なんだリュー、今日はなんか積極的だな」
「いやちょっと……わたしも若干の危機感を抱きはじめましてね」
リューは墓標に手をつき、はぁ……と嘆息した。
「危機感?」
「……わたしはですね、チキンなモトキさんはなんだかんだで他の女とは最後までやれないだろうなープークスクス! と高をくくっていたんですよ。そしたらあなためっちゃルビィさんとやりまくってて。ついには次の女にも手出し初めて、やっべこれ、最初の女のわたしやり捨てされるパターンじゃね? って。だからほら、もうちょいサービスしたろかなって」
「ははっ」
「あ、あいまいな笑いでごまかした……! ごまかしましたよこの男!」
地団太を踏むリュー。
「いやまあ、なんだ、お前のそういうところ好きだし、捨てないよ、――たぶん」
「たぶんー! はいメイビーいただきましたー。この世でもっとも信用ならない言葉の一つでーす」
「いやまあ、捨てないから。とにかく今は仕事を手伝え――ちょっとあたりを見張ってろ」
俺はリューに周囲を見張らせ、ある墓標に近づいた。
そして俺は『ミラー』の力を使い、エルフのエリエーヤの姿に化けた。
彼女の魔法『土繰り』を使い、墓標の下の地面を操作し、のける。
すると、土の下から棺が露出する。
俺は今度は、ルナの衛兵のオークに化けた。
怪力の彼の腕力を使い、釘で打ち付けられた棺の蓋を外す。
そこには、すでに骨と髪だけになった死者の姿が
「ためしたかったんだ、肉体がすでに朽ちた相手にも化けられるのか、って」
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