神官ミリアは神の言うことしか聞きません 3
「うーん……」
俺は宿のデスクで考えこんでいた。
「頭を抱えてどうしたんですかモトキさん? 頭が痛いんですか? あ、頭が悪いんですか?」
「なんで言い直した……悪くねえよ」
「じゃあ存在が痛いんですか?」
「じゃあってなんだ俺は痛くねえよ!」
「あちゃー、モトキさんを傷つけてしまいました。わたし心が痛いです!」
テヘペロしながら自分の頭をこつんとやるリュー。
……うぜえ。
うざいリューを無視し、俺は思案を続ける。
昨晩、俺の実験は失敗に終わった。
墓から掘り返した朽ちた死体の人物に、俺は『ミラー』で化けようとしたが、うまくいかなかったのだ。
「まあ普通に考えれば無理なんだが……前はうまくいったんだよな」
俺は呟く。
以前、リューと共に紛争地帯を踏破した時、俺は道にごろりと転がっている兵士の死体を目撃した。
死体は首に矢が刺さっており、完全に息絶えていた。
俺はその時ふと思い立って、その死んだ兵士に化けようと『ミラー』を使った。
すると、俺はその兵士の生前の姿にちゃんと化けることができたのだ。
もちろん首に矢はささってなかったし、体のどこにも傷はなかった。
「つまり……」
俺のスキル『ミラー』には、死体を見てその人物に化けると、生前の姿を再現する機能が搭載されているはずなのだ。
だが……昨日は失敗した。
死体が朽ちているとさすがにダメなのだろうか――いや。
直感だが、できそうな気はする。
できない道理はない。
ならばなぜ現状できないかというと――
「俺のレベルが足りないからか……!」
レベルを上げ『ミラー』の制度を上げれば、俺はきっとそれすら可能になるだろう。
可能にしなくてはいけない。
神官ミリア攻略には、朽ちた死体から生前の姿を再現する力が必要なのだ。
でも、レベルアップってどうすれば――。
「ちょっとモトキさん、さっきからなーにをぶつぶつ。悩みがあるなら相談プリーズ! 頭脳明晰才色兼備なこのリューちゃんがバシッとお答えしちゃいます!」
「そうだな、たしかに相談するべきだ。――というわけでちょっと
「はっはー! ここに本妻がいるってぇのにセカンドのとこに向かうとはそりゃどーいう了見ですかぶっ殺――むぐぅっ!?」
俺はリューの唇を唇でふさいだ。
「んー……んぐっ!?」
舌を差し込んで、くちゅくちゅとリューの口の中をかき回す。
そして抵抗が弱くなったリューを、ぽいっとベッドに放り投げた。
完全にここから激しくやる感じだったが――俺は逃げて宿を飛び出した。
後方から「な、生殺しぃ――!?」と声が聞こえたが、無視した。
**
「いらっしゃいま――あ、モトキくん! どうしたの? エ、エッチしにきたのかな……? 昼間はだめ……恥ずかしいよ」
「……人を体目当てで通ってる男みたいに」
「ちがうの?」
「否定はできないが……今日はちょっと聞きたいことがあってきた」
俺はルビィが出してくれた椅子に座り、レジの中で彼女と向き合う。
「なあルビィ、女神とレベルアップについて教えてくれ」
**
読書家のルビィはさすがに知識が豊富で、俺にわかりやすく解説してくれた。
この世界の冒険者はまず、幾多と存在する女神の中から自分の奉ずる女神を決める。
そしてその女神の加護を受け、冒険へ。
そして冒険から帰ってきたら、神官を介して、女神に冒険の成果を報告する。
すると女神はその成果に応じて加護を増やしてくれる――そういう制度だ。
ユータロウの奉ずる女神はクィーラ。
ユータロウはクィーラの導きでこの世界に転生してきたのだから、それは当たり前のこと。
「だけど……」
俺の奉ずるべき女神はおそらくクィーラではない。
俺をこの世界に転生させた女神は別にいるはず。
なので、クィーラにレベルアップをお願いするわけにはいかないのだ。
「なあルビィ……お前の知ってる女神の中で、一番性格の悪い女神ってどれだ?」
「せ、性格が悪い……?」
「ああ。例えば他の女神をおちょくったり、計画に横やり入れたり、原初の人類からなにか盗んだり……ろくでもないことするような」
「あ、それなら……!」
ルビィはパンッと両手を合わせた。
「多分、ユーヴァ様だと思う。女神クィーラの妹なんだけどね、お姉さんのことからかって逆上させたり、お姉さんが人類に授けた叡智の炎を盗んでそれでサッカー始めてドライブシュート決めちゃうような女神さまなの!」
「女神ユーヴァ……」
その性格の悪さ……間違いない、そいつが俺を転生させた女神様だ。
他の神を妨害し、物語をかき回す者。
物語の破壊者――『トリックスター』という類の神。
完全に立ち位置が俺と一緒だ。
「なあ、女神ユーヴァを信仰してる教会ってこの街にあるか?」
「うん、あるよ。地図かいてあげるね――あ、でも……」
「ん? どうした?」
「地図かいたら、モトキくんすぐいっちゃうのかな……? せっかく会えたのに」
「――――」
あまりのかわいさに、俺の意識は半ば飛んでしまった。
リューとはしないで我慢してきたのだが、さすがにこのかわいさを見せられては抑えがきかない。
上階でルビィの祖父が寝ていて、しかもいつ客が入ってくるかもわからない状況で、声を抑えながら俺たちはした。
声を漏らしそうになるルビィの口を手でふさぐのは、なんだか犯罪ちっくでとてもよかった。
……これから教会にレベルアップにいくのに、女体とまじわってしまってよかったのだろうか、なんて思ったりもしたが。
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