幕間 イレギュラーな転生者だってハーレムには憧れます
「んじゃ今日も頼む」
俺とリューは今日も、
またここで、ユータロウに化けた俺とリューとで、している『ふり』をするのだ。
「うぅ……このままだと野外羞恥プレイに慣れてしまいそうな自分がいやです……いや自分は大好きなんですが今の自分はさすがにちょっとあれです……いや自分は大好きなんですけどね……」
リューは羞恥心にぷるぷるしていた。
「まあ、ふりだからふり。約束通りこれが終わったら今日は高級鮮魚おごってやるから」
「うーん、今更なんですが魚だけだといまいちモチベあがんないんすよね……チラッ」
露骨になにかをねだるような視線を向けてくるリュー。
「……わかった、酒もつけてやる。好きなだけのんでいい」
「よっしゃバッチコイってんですよぉ!」
「露骨にやる気を出したな……」
リューと『ふり』を開始。
リューにはあえて大きな声で、吐息まじりにユータロウの名を呼んでもらう。
しばらく続けていると、背後で鎧戸が開いた音がした。
ルビィが見ているのだ。
愛するユータロウがわざわざ自分の家の近くで別の女としているのを――。
「ルビィ、ショックだろうに」
俺はぽつり呟いた。
衝撃的なシーンを二日連続で見せつけられて、ルビィは今きっと、いろいろ考えているだろう。
『どうしてユータロウさんは他の女と毎晩しているのだろう。わざわざうちの近くで。しかも、あの小説の出回ったこのタイミングで。わたしへのあてつけだろうか……』
などと。
ただでさえ人は、引きこもってる間はいろいろなことを考える。
人と会わずにずっと同じ場所にいると、無駄に想像力をめぐらせてしまうのだ。
妄想力のたくましいルビィのことだ、彼女はユータロウのことを考えに考え抜くはずだ。
今までは無条件に信仰していたユータロウとを一人の人間としてとらえ、その心理を推測しようとする。
ルビィの中で、ユータロウが神から人間になる。
「――よしリュー、今日はこれくらいにしよう。ふりとはいえ二日連続で恥ずかしいことさせて悪かったな。明日からは次のフェイズに移行する」
そう声をかけたが、リューは返事もせず、壁に手をついたまま動かなかった。
「リュー?」
なんだと思って顔を覗き込むと、リューは口を開いて深く呼吸を乱し、切なそうに目を細めていた。
「お前、興奮してるのか」
顔を上気させたリューはちゃんと呼吸ができないようで、辛そうだ。
介抱してやるべきだろうか?
いや――。
このチャンスを逃す道理はない。
俺だって転生者のはしくれ。
ハーレムをつくりたいという願望は人並み以上にある。
「こっちこい」
リューの手をぐいぐい引いて、さらに人気のないところまで連れていく。
俺は廃墟の壁にリューの背を押し付けた。
「なんですか……急に……」
リューは口ではそう言うが、抵抗するようなそぶりはない。
ではさっそく、リューのチェニックを破ってやろうと――いや。
普通に脱がしてはつまらない。
「いいこと思いついたぞ」
俺は『ミラー』を使い、かつての盟友であるエルフのエリエーヤの姿に化けた。
あいつのデバフ系魔法『装備崩壊』をリューの服にかける。
「え、ちょ……これ……! なにしたんですか!」
リューはあわあわと慌てる。自分のはいているスカートが端からぼろぼろと崩れ落ちていくからだ。
「くぅぅ……もしかしてこれ一気に脱がされるよりもよっぽど恥ずかしくないですか!? あれですか、料理前に水揚げされたお魚状態ですかわたしは! お魚をおごってもらうつもりだったらお魚はわたしでしたってオチですか! そしてわたしはあなたに落とされる二重オチですか! やりますね!」
「こんな時でも口減らないのな、お前……」
恥ずかしさの裏返しだろうか、いつもの3割増しでやかましいリューである。
そんなやりとりをしているうちに、リューの服は全部崩壊した。
外で全裸をさらす、エルフによく似た美女。
ツンと上向く双丘が月明りに照らされる。
下半身の乙女の秘部も――。
両手を俺におさえられているので、リューは体を隠すこともできず、恥ずかしそうに目を伏せていた。
「ちょっ……モトキさん、興奮してるとこ悪いんですが、わたしからお願いが一つありますので聞いていただけますか」
「今更やめてくれとお願いしてきたら、俺はお前を今後一生鬼畜と呼ぶ」
「わたしが鬼畜だったらあなたなんですか、地獄の大魔王ですか――そうじゃなくて」
リューは照れたように続けた。
「お顔……元のあなたに戻して下さい。あなたの姿でして欲しいんです」
そういえば、俺の姿はまだエリエーヤのままだった。
「いいのか、俺なんかで。ユータロウとかに化けてしてやろうか?」
「言っときますけどね……普段わたしがなんだかんだであなたにセクハラ許したりしてるのはですね、あなたを気に入ってるからってのもあるんですよ。女の子をなめんなって話です、なんとも思ってない人に体さわらせるかってんですよ……」
「リュー……」
「いやまあ、地球転生者の本妻ポジション確保しとけば人生安泰って打算もありますけどね」
「それは、あまり知りたくなかった……いや、まあいいか」
まあ、人生なんてそんなもの。
転生前はこんなかわいい女子と触れ合う機会なんてなかったのだから、文句なんて言ってられない。
リューは静かに目をつむる。
俺は元の姿に戻ると、そんなリューにキスをした。
それから、今度はふりではなく――本当にした。
互いに初めてだったので、なかなかうまくはいかなかったが。
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