魔導書屋の少女は英雄との恋に憧れているようです 5

「モトキさん、あなたいつになったらルビィさんをユータロウさんから寝取るんですかぁー。寝取る寝取る言う割に、ほとんどなーんもしていないじゃないですか。あれ、もしかしておじけついちゃったんですかー? ぷーくすくす。あなたのチキンっぷりには鶏さんも裸足はだしで逃げ出すでしょうねえ、やつらもともと裸足はだしですけど!」

 リューはそう言ってゲラゲラ笑い、ジョッキのビールを飲み下す。

 騒がしい酒場の中でも、リューのやかましさは群を抜いている。


「昨日やった相手をよくそこまで罵れるもんだ……」

 昨日、俺はリューとした。

 互いの初めてをささげ合った。

 

 一度愛し合ったのだからもっとこう、甘い雰囲気になると思ったのに、今朝起きてからずっとリューはこんな感じであった。

 なにかにつけて罵ってくる。 


 ……おかしいな、なんだこれ。


「リュー、なんか怒ってるのか?」


「いえいえ大事な初めてをお外で奪われたこととか、お気に入りの服を変な魔法で上下ちりにされたこととか、子供できないように気を使ってくれなかったこととか、わたしちっとも恨んでませんから。ええ、ちっとも」


「悪かった、悪かったから……」

 旗色が悪かったので俺は話題を変えることにした。

「リュー、気をとりなおしてこれからの作戦の話をしよう」


「はーい露骨な話題転換いただきましたー」


 嫌味をいってくるリューを無視し、俺は続ける。

 これからいかにして、魔導書グリモア屋の少女ルビィをユータロウから寝取るかについて、説明をする。


「いいかリュー、説明するぞ。――ルビィという魔導書グリモア屋の少女は、本来はユータロウのハーレム要員として消費されるだけの存在だ」


 放っておけば、ルビィはユータロウの物語に飲み込まれ、喰われてしまう。

 

 ルビィは、弱いからだ。

 戦闘力の話じゃない、キャラクター性の話だ。

 自我が弱い。だから簡単に運命に飲み込まれ、ユータロウという強者のなぐさみものになる。


 ではどうすればそれを防げるかというと――。

「ルビィという存在のキャラクター性を立たせる。ユータロウにも負けないくらいに、ルビィのキャラを強くするんだ」


「んでも、強くするってもどうするわけですか? あの気弱ちゃん、そうそう独り立ちしないでしょうよ――あ、こっちビールおかわりくださーい!」


「いや、キャラを強くする方法ってのはちゃんとあるんだよ」


 物語において、キャラクターが強くなるまでには三つの過程がある。


 1、試練

 2、贈与者との出会い

 3、出立


 これを合わせてイニシエーションと呼ぶ。

 俺たち転生者も、これを経てきている。


 1、地球で死ぬという『試練』

 2、チートスキルをくれる女神、という『贈与者との出会い』

 3、異世界への『出立』


 このように。だから俺らは強いのだ。

 能力的にも、キャラクター性も。


「俺は今ルビィに、このイニシエーションを与えてるわけだ。今は最初の『試練』の最中だな。全過程が終わったとき、強くなったルビィはユータロウの物語から解放される――そこを、俺がぱっくりいただく」

 あの爆乳を、俺のものにする。


 そうやって一人二人と寝取っていき、ユータロウの物語を破壊する。


「ところでさ、リュー。俺はこれから他の女と次々寝る気まんまんなんだけど、お前としてはそれどうなの? 嫉妬するとかないの?」

 俺は聞いた。

 嫉妬するリュー……見てみたい気もする。


「まーそらなんにも思わなくはないですが、あなたの童貞はわたしのお腹の中にしっかり格納されてますからねぇ。本妻感あります。ま、お遊びくらい許してあげますよ」


「格納て」


 しかし器の大きい女である。

 最初の相手がこいつでよかった。


 俺は昨晩のリューの姿を思い出す。


 夜の街で、誰かに見られるかもしれないというスリルを味わいながら抱き合った。


 早くルビィとも――。


 あの爆乳を……!


「さすがに他の女のおっぱいをわたしの前で想像するのはどうかとおもうんですよね」


「してないしてない想像なんて、言いがかりはやめろ」

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