第38話 怒り

 復帰出来る可能性が無くなりだしてから搬入の風景が甦る。


 関西吹奏楽コンクールの客を背にした。あの満席ではない席。来年は人が入っているかもしれない。


 そこに立つチャンスは無い。杖をつきながら行くことは出来ない。外は雪が降っていた。十二月らしい。クリスマスは病院でかな。


「断ったんだけどね。せめてこれって部長さんが」

 病室に帰るとどうやら本当に千の千羽鶴と寄せ書き。


「母さん、受け取らないでって言ったよね! これで光に罪悪感出たらどうするの。貸して捨てて来る」

 もう治らないかもしれないのに、姉の言葉には涙が出ていた。


「食べ物の制限がなくて良かったわね。個室だし、火はダメだけどケーキ食べましょ」

 イチゴが乗った甘いケーキだった。母さんの元気が無い。


「私ね、転校させない方がいいと思うの」


「母さん何言ってんの? このままだと光は罪悪感で周りは遠慮で関係性が悪化して苦労するの光だよ」

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