その3 対策。

私はビビり、全身の震えが始まった。

それを悟られないよう、スーッと部屋を出た。



イケ:「では、準備をいたします。」



イケちゃんは、あの丁寧な口調で一言発し、私に続いて部屋を出た。


私達はキッチンのある方へ歩みを進めた。

部屋から十分離れ、声が聞こえないと思った場所で、私は振り返ってイケちゃんに...



新井:「埜瀬さん、ヤバい。キッチンで相談させて。」



と、言った。


イケちゃんには伝えない方が良いのかもしれない、という考えも一瞬湧いたけれど、お互いの命に関わる事だから、言わないのはおかしいとすぐ思い直した。

ガンになったら告知してほしいタイプだよ、私は。



イケ:「うん、わかった。」



察するものがあったのか、夫からの返事はあっさりしていた。



新井:「埜瀬さん、あなたに殺意を抱いてる。」



キッチンに入ってすぐ、核心から話を始めた。



イケ:「え?なんで?」


新井:「詳しい理由まではわからないけど、埜瀬さんはあなたと男女の関係を望んでるよ。」


イケ:「そうなの?じゃあ、むしろ、はるかの方が危ないんじゃない?」


新井:「私も危ないけど、イケちゃんも殺そうとしてる。」


イケ:「それはなんでわかったの?」


新井:「思考を読んだ。だから間違い無い。」



夫は驚きの表情を一瞬浮かべ、顎を上げて天を見ようとした。

しかしすぐ、その顎に手を当てて、考えるポーズに移った。



イケ:「思考を読むのは、今は自由にできるようになった?」


新井:「眼鏡を外して、近距離で目を合わせないとダメ。」


イケ:「なるほど...。」



納得してくれたみたいだ。



イケ:「1回だけ試してもらっていい?」


新井:「わかった。」


イケ:「私の思考を読んで。」



私は眼鏡を外し、夫の目を見た。



「できるだけ穏便に済ませたい」

「眼鏡を外したはるかも綺麗だ」

「今まで思考読まれまくりだったのかな?」

「2人で一緒に居た方が安全か?」

「はるかのニキビに効く料理を作らねば」



新井:「あのさあ...。」


イケ:「何?」


新井:「私のニキビよりも、お客さんの好みとか状態を優先した料理にしなよ。」


イケ:「おぅふ!」



妙な吐息を漏らし、「本物だこれは」という顔をし、夫は私から目を逸らした。



新井:「私達2人ずっと一緒だと埜瀬も手を出しにくいとは思う。」


イケ:「だよね。今日はずっと一緒に居ようか。そして地下室で2人で寝る。」


新井:「だけどそれだと、実家が襲われるかもしれない。」


イケ:!!!!



夫は、ハッとしたようだ。


埜瀬は仕事で実家に出入りしている。

だから、祖父母や両親は、玄関の扉を開けてしまいかねない。



イケ:「確かにそうだ...。」


新井:「それも防がないといけないね。」


イケ:「第三者を交えて説得できたらそれが一番良いんだけど。」


新井:「私の超能力が根拠じゃあ、誰も本気にしてくれなくない?」


イケ:「その能力、我々以外誰も知らないし、証明するにもリスクが大きいね。」


新井:「埜瀬はそれらしき行動をまだ全くしてないから証拠もない。」



う~~~ん、と、夫は考え込んだ。



新井:「こうしてる間に実家に向かわれるのが怖い。私が見張ろうか?」


イケ:「そうだね...ただ、それだとはるかが危ない。」


新井:「でも早く監視しないと、何されるかわからない。」


イケ:「わかった。ちょっと待って。」



夫はそう言うと、いつものスマートフォンとは違う、トランシーバーに似たものを取り出した。

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