その4 監視。
夫は、その通信機器で話し始めた。
イケ:「2名、追加警備お願いします。緊急で。」
そうか、警備の増員を依頼するのね。
さすが国の重要人物&金持ちだわ。
イケ:「要注意人物が宿泊しています。」
イケ:「実家の警備をお願いします。」
イケ:「30代、女性、1名です。」
イケ:「それもしていただきたいところです。人員的に可能なら。」
イケ:「はい、お願いします。」
相手からの声は聞こえなかった。
イケ:「何もしてないうちから取り押さえるわけにはいかないよね。」
新井:「そうだね...。」
イケ:「すごく心配だけど...はるか、物置スペースに隠れて、部屋を見張ってもらえる?」
新井:「わかった。」
宿の客室は2階にある。階段上がって正面に1、そこから左に並んでもう1、左の突き当りに角部屋が1となっている。
埜瀬は角部屋での滞在だ。
階段上がってすぐ右側が、2階用の物置スペースになっていて、ここに隠れて見張ろうというわけだ。
元々は客室にする予定だったそうで、鍵がかかるようになっているのが安心ポイント。
入り口の扉に、中から外を確認するための穴がある。
私は2階に上がった。
物置に隠れる前に、埜瀬の居る角部屋の前まで行く。
そして部屋を2回ノックして...
新井:「寝間着、ドアの前に置いておきますねー。」
と、部屋の中に向けて声を掛けた。
...返事は無い。
ちなみにこの寝間着、サービスでもオプションでもない。
ついさっき思い付いたもので、用意したのは夫の魔術服だ。
部屋の中からは物音がしない。
もしかして、私がキッチンに居る間に、足音を殺して部屋の外に出られてしまったのか!?
それだとヤバいな...どうしよう...と、考え始めた時、部屋の中から「ガタッ」という音が聞こえ、すぐに足音がした。
私は慌ててドアから離れ、部屋を背にして物置に向かった。
背後からドアを開ける音がしないか気になったけれど、私が物置に入るまで、それが聞こえて来る事は無かった。
スマートフォンで動画を撮影しよう。
私はそう思い付いて、実行した。
けれど、覗き穴にスマートフォンのレンズを当てると、自分で外の様子を確認できなくなってしまう。
アホか...。
いや、そうやって見れるアプリあるんじゃね?
えーと、それをダウンロードして...なんてやってると、目が離れて監視にならないじゃないか...。
仮に猛ダッシュでキッチンまで行かれたら、その一瞬の対処の遅れで...。
アホなりに色々と頭を回した結果、大人しく目で監視する事にした。
ドアに守られている安心感が、恐怖と緊張を和らげてくれていた。
しかし、約5分後、私の目は、恐怖と緊張を一気に高める映像を捉えた。
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