その2 ノミ。

使えねえ。

殺虫剤2本とも使えねえ。

ったく、しょうがねえなあ!!



新井:「この辺りにドラッグストアってあります?」


埜瀬:「一番近いのは、モッコスですね。」


新井:「モッコス?」


埜瀬:「‘ディスカウントメディスンモッコス’って、ショッキングピンクの看板が立っているからわかりやすいと思います。」


新井:「歩いて行ける距離?」


埜瀬:「行けなくはないですけど、結構かかりますよ。」


新井:「どれぐらい?」


埜瀬:「25~30分ぐらいですかね。」


新井:「あ~...わかりました。すいませんお邪魔して。」



こりゃ車じゃないと面倒だ。

だけど、イケちゃんの身体にノミが付いていたら...車の中にも...うわぁ...。



私はいったん宿へ戻る事にした。

面倒だけど、私が歩いて買いに行くのが最善だ。

腰の痛みも、無視できるレベルまで回復している。


宿が視界に入った時、イケちゃんが玄関から猫を抱えて出て行くのが見えた。

大声で呼ぶが、聞こえてない様子。


私の声量、クソしょぼいからなあ。

それに低くて籠る声だし...。


イケちゃんは、走って今給黎さんの林の方に向かう。

私に言われた通り、なるべく早く遠くに猫をやろうとしているみたいだ。


それを私も小走りで追い駆ける。

フフッ、なんだか、出会ったあの日を、逆の立場で再現しているみたいだ。

ところどころ違うけどね。



イケちゃんは、林の中に入って行った。

私も同じ場所から入ると、すぐにイケちゃんの姿が目に入った。

今給黎さんを呼び出して、何か話しているみたいだ。



イケ:「あ、はるか。今、今給黎さんに、猫がこっちに来ないようにしてくれって頼んでおいた。」


新井:「そうなんだ。」



具体的にどうするのだろう?

顔と声を出してビビらせて追い払う?


「よろしくお願いします。」と、私からも今給黎さんにお願いして、イケちゃんと2人で宿の方に足を戻した。

私が話し掛けた木には、今給黎さんの顔は無かったけど、どの木に話し掛けてもちゃんと聞こえているらしい、っていうかどの木も全部今給黎さんだから問題ない、はず。



新井:「イケちゃん、実家の殺虫剤もノミに効かないやつだったから、私歩いてモッコス行くわ。」


イケ:「場所わかる?乗せて行くよ。」


新井:「イケちゃんにノミが付いてるかもしれないからなあ...服全部脱いでシャワー浴びて、完全防備で車に乗らないと...。」


イケ:「そこまでする程の事なの?」


新井:「虫を甘く見ないで。知らない間に繁殖して、お客さんが刺されたら?営業停止になるかもよ?」


イケ:「ええ~~~...。」


新井:「保健所に通報されたり、レビューで書かれたりしてみなよ。営業停止だけじゃなく、ノミの出る宿のレッテル貼られてお客さん来なくなるよ。」


イケ:「うむ。いかんな。」


新井:「じゃあ、私が殺虫剤買って来る間、イケちゃんは猫が行動した範囲全部、掃除機かけといて。」


イケ:「わかった。全館徹底的に掃除機かけるわ。」



そして私はスマートフォンでゴーゴロマップを見ながら、片道30分かけて歩き、ノミに効くスプレー3缶、燻煙剤3缶セット2つ、ノミに効く虫よけスプレー2本、動物用ノミよけリング2本を買って帰ったのだった。

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