その3 山内さん。
フルスモーク。
その日はフルスモークだった。
ふっ、日本語...いや、月本語...いや、英語としても何としても正しくない言葉のような気がするけど、とにかくそんな感じだ。
ノミを一気にやっつけるために、燻煙剤をぶちかまし、その後に再び掃除機で全館清掃した。
燻煙剤が行き届かなかったかもしれない箇所は、スプレーを噴射した。
その後の食器洗いとか色々、すんごく大変だった。
それで1日が終わった...。
翌日...
「左から右に受けゲッツ!!」と、イケちゃんのスマートフォンが叫んだ。
うるせえ。
音量デカ過ぎなんだよおめーよ。
だいたいなんなんだよ、トイレの音シリーズ初期バージョンの曲とかよぉ...。
イケ:「予約入った。」
予約だあ?
私はまだ眠いんだよ、喋んなボケ。
っていうかおめー、その声が聞こえるって事は、地下室からわざわざ出て来たのかよ。
何時だと思ってんだよ...何時なの?
6:06
はあああああ!?
ふざっけんなよ、そんな時間に起こしてんじゃねえよ。
私がどんだけ睡眠大好きっ子かわかってるだろ?
妨げんな!
妨げは罪!
ちょっとおまえ、頭突きしてやるからそこにケツ出せや!
イケ:「腕痒い。」
知るかボケ。
なんか虫に刺されただけだろ。
そんなもんすぐ治るわ、そんなんで話かけんなガキじゃねーんだから。
だいたいおめー、昨日、ノミ持ち込みやがって。
そんなんで...ん?ノミ?
新井:「あー、ノミかー。」
イケ:「蚊に刺されたよりも痒い。」
新井:「ノミは見かけた?」
イケ:「わからない。」
新井:「じゃあ、昨日刺されたかもしれないねー。」
イケ:「凄いイライラする痒さだね、これ。」
新井:「だよね。わかった。じゃあ、二度寝していい?」
イケ:「予約入ったんだけど。」
新井:「あ、そう。良かったじゃん。」
イケ:「これどうすればいいの?」
新井:「あー、そうか...。」
そうだそうだ、まずはメッセージで確認しないと。
こちらが書いている宿の情報、ルール、コンセプトなどを一切読まず、値段だけ見て予約する人が一定数存在する。
そのケースのために、予約直後にメッセージで確認するのは大切だ。
寝ぼけた頭で、自分のスマートフォンを見る。
予約サイトにアクセスし、定型文を探す。
こういう時のために、予め定型文を作成しておいたのだ。
そうしないと、誤字したり何言ってるかわかんない文章送ったりしかねない。
新井:「1週間後だね。」
イケ:「ネット予約ってあるもんなんだね。」
新井:「むしろそれが主流だよ。」
イケ:「これからもっと増えるかな?」
新井:「まーそーなってほしいものだね。それより、それまでにノミが駆除できたという確証が欲しいね。」
イケ:「ノミ、マジで腹立つから念のために業者呼ぶわ。私のせいだから私がお金払う。」
業者でも完全駆除は難しいんだよなあ。
でもまあ、イケちゃんがそういう覚悟キメてやるって言うんだから、それは尊重しよう。
で、予約者の名前は山内さんで、1名のようだ。
お客様1号はどんな人なんだろうか?
変な人でなければいいが。
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