その7 あるある。

最初から何もかも思い通りにできるはずがない。

それは私もそう。

私の考えが正しいとは限らないしね。


だから1つずつ試していくんだ。

2人で。

正解がわかるまで。



日本で元夫が宿泊業の許可申請を新規で行った時は、申請してから許可証が届くまで3週間以上待たされた。

ところが、今回は、なんと3日で許可が下りた。

管轄の保健所職員が消防署に連絡を取り、手が空いている人がすぐに宿に来て、チェックをしてくれた。


消火器を2カ所ぶん追加購入しないといけなかった。

それが無ければ、もっと早く許可を得られたかもしれない。



そうそう、許可申請するに当たって、宿の名前を今までとは違うものにした。

その名前は...



イケ:「‘心太朗&はるか’でいいんじゃない?」


新井:「それは恥ずかしいからやめて。」


イケ:「相☆愛☆館あいあいかんはどう?」


新井:「もっと恥ずかしい...っていうかラブホっぽくてヤだ。」


イケ:「我々の愛情を、お客様にもお伝えするような名前は...。」


新井:「その拘りはなんだよ(笑)。」


イケ:「やっぱりさ、はるかへの愛情を形にしたいな、って。」


新井:「私もそうだけどさ(笑)。他人からしたらキモいかもよ。」


イケ:「うーーーん...。」



2人して悩みに悩んだ末、「およばれ」という名前に決めた。

たった4文字に、いろんな意味を込めている。

もう会えなくなった友人のネーミングセンスを参考にした。



ところで、月に2~3組は泊まりに来ると、夫は言っていた。

じゃあ、その方々は、何を見て来ているのだろう?



イケ:「観光案内センターに登録してるから、そこからじゃないかな?」



「じゃないかな?」って、確信はないのね。

その全てが電話予約らしい。


うーん、まあいいや。



新井:「インターネット予約サイトに登録するけど、いい?」


イケ:「おお、そうだね。許可証あるもんね。」


新井:「ところで、イケちゃんって外国語話せる?」


イケ:「飴理科アメリカ語と、弩怒壱ドドイツ語と、茶稲チャイネ語ぐらいかな。




!!!!


ゆ、有能やんけ...。


国名はよくわからんけど、その国の人に来てもらえる可能性が増えるのが良い。



新井:「すげぇ!!イケちゃん、やっぱりあんた凄いわ!」



ここぞとばかりに、思いっ切り褒めた。

「そう?」と言いながら、夫は照れくさそうだ。



月本語は日本語と同じなので、サイト登録時の手続きと最初の文章は私が入れた。

それを夫が、他3か国語に翻訳して、それぞれの言語ページを作成する。

「う~ん」「うぼぁ~」などの声が、「もぺぺぺぺぺ」という意味不明なものに変わったあたりで、私は夫を休ませた。


この作業、意外としんどい。

すぐ目が疲れるし、神経に来る。

あまり根を詰めると色々オカしくなるんだよね。


外国語ページは未完成のままだったけれど、月本語ページができてすぐに公開した。

国内客にとっては外国語は関係無いから。


しかし、1週間経っても、2週間経っても新規予約は無い。



イケ:「やっぱり、3000円にしたのが悪かったんじゃ?」


イケ:「はあ~、来ない。せっかく許可通ったのに。」


イケ:「これじゃあ、新館なんて到底無理だ。」



ネガりまくる夫。

そしてやる気を失くし、外国語ページの作成も滞った。

元夫が「素人あるある」としてネタにしていたのを思い出す。


その間、私は、自分達のホームページの作成に注力した。

お金をかけてもいいとは言われたけれど、私は自力に拘って、無料サービスを使った。

予約のためのページだけではなく、周辺情報ページも作り、今給黎さんの紹介も書き始めた。


そんなある日...



イケ:「おーよしよし、どこから来たの?」



私が気分転換も兼ねて今給黎さんの林を散歩して帰って来た時、夫が何かに話し掛けている声がした。



新井:「誰か来たの?」



そう言って、夫の声がした方に行くと、そこには猫を抱えた夫が居た。

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