その6 キレる。

ああ、人生...。


この先、長い苦労が待っている。

何事もそうだ。

その覚悟を持って進むのが、人であり、人であり、人なのだ。


いや、全部考えると面倒臭いわ!

とーりーあーえーず、重要な所を1個、そう、1日1個ずつ、解決していこう。



新井:「じゃあさ、とりあえず、1泊料金を3000円にさせて。」


イケ:「ええ!?いきなり3倍?誰も来なくなるでしょ。」



うるせえバカ。

今、何人来てますかァ?

その収入で生活できますかァ?


あまりの無知ぶりにストレスが溜まった私は、声にはできないが頭の中で夫にキレた。

内心キレながらでも、上手く伝わるように言い方に気を付けなければならない。

これができるようになったのは、離婚した後、事務の仕事を始めてからだ。



新井:「今の価格はね、安過ぎてね、逆に『幽霊が出るんじゃないか』とか、『設備に問題があるんだろうな』って思われるのよ。」


イケ:「いや、思わないでしょ(笑)。」


新井:「ほう、君はエスパーかね?そんなに他人の思考を読めるのかね?」



ついに我慢できなくなった私は、夫に嫌味を言い放った。



イケ:「え?」



私の表情と、声のトーン、雰囲気が変わったので、戸惑ったようだ。



新井:「自分の思い通りになんでもいくわけじゃないよ?他人の心を甘く見たら、ビジネスなんかできないよ?」


イケ:「....。」


新井:「あなたはその、人の心を恐れるからこそ、この仕事をしてるわけでしょ?だったらそれを甘く見んなよ!関心を持てよ!どう思われるか一生懸命想像しろよ!」


イケ:「....。」



もはや我慢できなかった私は、言いたい事を言いたい言い方でぶっ放してしまった。

夫は沈黙している。


そこで...


眼鏡を外して、夫の目を覗きこんでみた。



「そこまで言われるようなこと?」

「はるかは調子に乗ってるな」

「だけどそうだ」

「人の心がわからないからって無関心なのは違う」

「ママに怒られた時より怖い」



ほほう...。

本当の意味で「心が読める」私は、その面白さと複雑さに直面している。

この能力と心の複雑さを夫に伝えるには、まだお互い未熟な気がする。



新井:「とりあえず、料金は3000円で試させて。」


新井:「他の事は1つ1つ、イケちゃんが『変えよう』と思ってから実行しようね。」


新井:「この宿の主人で、代表はイケちゃんだからね。」


イケ:「うん、それでいいよ...。」



子供のような口調で、夫は了承の返事をした。

あまりプライドを傷付けても良くない。



新井:「掃除はイケちゃんの方が得意だから、お願いする事が多いと思う。」


新井:「あと、飲食提供の許可も取ろうね。イケちゃんの料理、最高だから。」


イケ:「えー、お客さんに出しても大丈夫かな?」



そう言いながらも、夫の声は明るくなっていた。

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